2007年8月号
連載2  - 国立高専が地域と交流
仙台電波工業高等専門学校
細菌検出装置の開発とその後の展開
仙台電波高専は平成11年から地元のベンチャー企業、マイクロバイオ株式会社と細菌検出の迅速化、自動化の共同研究に取り組んだ。そのきっかけから、6件の特許を出願するまでの経過をわかりやすく述べている。

企業から共同研究の申し込み
写真1

写真1 竹茂 求教授

平成11年春、地域のベンチャー企業であるマイクロバイオ株式会社*1から、仙台電波工業高等専門学校の技術開発研究センターに共同研究の申し込みがあった。研究目的は、平板法*2による細菌検出の迅速化と自動化である。共同研究の高専側プロジェクトメンバーは、それぞれ物理・情報光学・計算機工学・集積回路工学が専門の4人の教員と技術専門職員であり、物理の竹茂 求教授(写真1)がプロジェクトリーダーとなったが、細菌については全くの素人集団であった。

細菌の培養過程をCCDで観測

マイクロバイオは、細菌の培養過程をCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)のミクロな素子で継続的に観測するというアイデアを特許出願済みであった。コロニー(細菌の集落)は大きく成長した順に次々と検出されるから、検出コロニー数が一定値に収束した時点でコロニー数が確定するというわけである。また、観測技術についても、コロニーにレーザー光を照射してCCDエリアセンサーの素子に影を投影するというアイデアを考案済みであった。

同社のアイデアは単純で面白いと思えたし、解決すべき課題はよく理解できた。高専側の仕事は、このアイデアを実現する技術の開発である。まず、培地のいろいろな深度に散在するコロニーのミクロな画像を取得する観測技術として、同社のアイデアを大腸菌で実験した。パソコンのディスプレイでコロニー像が確認されたので、画像処理によってコロニー像を背景から抽出して計算することが可能となる。コロニー同士が重なっても、重なる前の画像を利用すれば、重なったコロニーを分離できることも判明した。プログラミングして実験すると、コロニー数が6時間程度の画期的な迅速性で正確に計数できることが分かった。

Biomatic DMCSを製品化
写真2

写真2 Biomatic DMCS S-12

この研究を実用化する事業は、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成12年度「即効型地域新生コンソーシアム研究事業」に採択された。フィージビリティー・スタディー(事業化の可能性調査)の結果、製品化・市場化におけるさまざまな課題が次々と浮上してきたが、チームワークによってクリアすることができた。事業の成果は、マイクロバイオにより「Biomatic DMCS」(定量試験用デジタル顕微鏡方式細菌検出装置)として製品化(写真2)、多くの大手食品メーカーに採用され、高い評価を得ている。開発された装置は、コロニー数を1個から3000個程度まで短時間で正確に自動計数できることが確認されている。

共同研究を契機に研究領域が発展

その後、経済産業省、農林水産省、文部科学省の事業に継続して採択され、研究過程で生まれた新たなアイデアを実用化できた。特に、文部科学省による平成16年度「仙台地域知的クラスター創生事業」では、薬剤感受性試験の迅速定量分析装置「インテリジェント・アナライザー」の開発に取り組み、成功した。感染症患者に投与すべき抗生物質の種類と量を迅速に自動判定することが可能になったが、研究対象が食品検査から医療検査へと拡大したわけである。

これらの研究過程で出願した特許は6件であった。

プロジェクトリーダーを務めた竹茂教授は、もともと物性物理が専門であり、Ce(セリウム)化合物の光電効果で学位を取得しているが、この産学連携共同研究を契機として、研究領域が発展し、現在は画像処理と細菌検出が研究領域となっている。また、マイクロバイオの小川廣幸社長の良き理解者であり、研究開発のパートナーとして同社に不可欠の存在となっている。同社は、小川社長が平成11年に創業、感染症の流行や食品衛生の規制強化という環境下、現在は、東京投資育成、東京中小企業投資育成、トランスサイエンス、Apax Globis Japan Fund等の投資を受け、IPO(株式公開)を目指して準備中である。

産学連携事例の特徴

竹茂教授は、この産学連携事例の特徴について、次のように総括している。

「今、産学共同研究の重要性が強調されているが、通常、学の研究で生まれたシーズを産に還元することが念頭に置かれているように思う。われわれの場合は、産のアイデアを学の研究でシーズ化することから出発した。そのシーズは官の協力を得て実用化され、新たなシーズの産出へと進展し、新たな実用化に発展した。これが第一の特徴である。第二の特徴は、異分野融合研究のチームワークの成果である。細菌学や生物学や医学に疎い素人集団が、エンジニアの立場から発想した素朴なアイデアのシーズ化・実用化である。限界もあるが、このような取り組みにも意義があるのではないかと思う」

(記事編集:川村 志厚 経営デザイン研究所 代表/本誌編集委員)

仙台電波工業高等専門学校の概要(所在地:宮城県仙台市  URL:http://www.sendai-ct.ac.jp)

昭和18年に設立された財団法人東北無線電信講習所を前身とし、昭和46年国立仙台電波工業高等専門学校として創設された。

学校長: 宮城 光信(みやぎ・みつのぶ)
学科数: 本科4学科(情報通信工学科、電子工学科、電子制御工学科、情報工学科)
専攻科2学科(電子システム工学専攻、情報システム工学専攻)
学生数/教員数:845人/62人
本校の目的: 国立高等専門学校機構法に基づき、職業に必要な実践的かつな知識および技術を有する創造的な人材を育成すること。
学習・教育目標: 人間性豊かなエンジニアを目指して

<内容は掲載当時>

*1マイクロバイオ株式会社
http://microbio.co.jp/

*2平板法
シャーレの中で固形の寒天培地を用いて細菌を培養し、細菌を菌種ごとに分離して細菌数を数える方法。ロベルト・コッホが1880年ごろ発案したが、現在でも、食品衛生法では、工場等で加工される食品の1ml中に存在する細菌数を平板法で数えて記録することが義務付けられている。しかし、計数に1~2日を要し、菌濃度が高い場合は正確に計数できないなどの欠点がある。