2007年8月号
インタビュー
東京都立産業技術研究センター 理事長
井上 滉氏
地方独立行政法人化の狙いは顧客対応のスピードアップ
顔写真

井上 滉 Profile
(いのうえ・ひろし)

地方独立行政法人 東京都立産業
技術研究センター 理事長


東京都の試験研究機関である東京都立産業技術研究センターは、地域の中小製造業からの相談に迅速に対応するため、地方独立行政法人に移行した。その経緯と狙いを詳しく紹介する。

●第3期科学技術基本計画では、今後の産学官連携活動の戦略課題として国際競争力の強化と地域イノベーションの創出を掲げています。特に、地域イノベーション創出においては公設試験研究機関(公設試)の役割が期待されていますが、最近の公設試の環境変化についてお伺いします。

井上 全国の公設試験研究機関に対する期待は地域によって異なります。全国約140の公設試の多くは地場産業の育成を主な目的として活動していますが、東京都、神奈川県、大阪府等の大都市にある公設試は、やはり、ものづくりの応援が中心です。大学や国の研究機関はわが国トップクラスの企業の高度な研究を支援していますが、公設試はそれぞれの地域の中小製造業が抱える課題に助言するなど企業ニーズに応えることが大切で、私どももそのように考えて活動しています。公設試の研究開発活動を振り返ってみますと、1980年代中ごろまでは技術指導、技術開発支援を主体としていました。その後、2000年ごろまでは研究開発成果を提供し、知的財産の創出支援も行いました。そして21世紀に入ってからは企業のニーズをも充足させるための支援を行うというように変遷してきました。現在は企業のニーズを充足させる支援が特に要請されています。

従来は、予算策定から実行までに1年半から2年を即決に

● 旧東京都立産業技術研究所(以下、旧産技研)は、他の公設試に先駆けて、地方独立行政法人化されたわけですが、法人化の経緯や狙いについてご紹介ください。

図1

図1 地方独立行政法人制度の狙い

井上 旧産技研は平成9年に発足しておりますが、平成14年にその沿革、事業内容・実績、東京都の産業構造と利用者の構成、利用者の経済的創出価値、および今後期待される役割等を総合的に解析、評価しました。その結果、公設試の経営はかつてないほどの構造変化に直面していることがわかりました。そうした中で、政府が「地方独立行政法人法」を平成16年4月に施行。平成18年度から地方独立行政法人に移行することを計画しました(図1)。 移行の主な目的は、[1]スピードの向上、[2]サービスの質の向上、[3]効率化の3つを達成することです。特に、従来の予算制度では、予算策定から実行までに1年半から2年は必要で、これでは顧客ニーズの変化に迅速に対応できないこと、予算の執行過程が煩雑で時間がかかること、また、人事制度が硬直的で、時代が要請する技術系人材も新規に採用できないことなど多くの制約がありました。そこで、旧産技研は、平成18年度に全国の公設試に先駆けて地方独立行政法人化を実現し、名称を現在の東京都立産業技術研究センターとしました。職員も同じような思いを抱いていた様子で、300名近い職員のうち、現在は3分の2近くが産業技術研究センターの職員となり、独法の恩恵を被っています。なお、全国では、岩手県、鳥取県の公設試が地方独立行政法人化されています。

革新の要は経営システムと経営計画の整備、共有化と開示

●独法化後の産業技術研究センターの経営戦略と課題、および実行計画についてご説明ください。

図2

図2 (独法)産業技術研究センターのミッション

井上 ものづくり産業の変化に対応するために、中小企業支援の強化、産業の活性化支援の強化をビジョンとしています。特に、顧客である中小企業が活性化され輝くことに主眼を置いています(図2)。それを実現するための(独法)産業技術研究センターの経営システムは、平成17年度末に経済産業省が策定した今後の公設試経営の在り方に関する基本戦略とその指針を参考にして構築しました。平成18年度から平成22年度までの5年間の中期目標、中期計画、および平成18年度から毎年策定する年度計画*1から構成されています。

首都圏の地域イノベーション創出の切り札は

●独法の都立産業技術研究センターが提供するサービスの中で、地域イノベーション創出に対する特徴ある取り組みや地域貢献のモデル事例などをご紹介ください。

写真

井上 滉氏

井上 産業技術研究センターは、旧産技研の時から継続している研究所利用者に対する満足度を調べたり、研究所がつくり出している経済効果を定量的に評価しました。また、それらに貢献している旧産技研の事業の役割を解析してみました。その結果、企業が産技研を利用する目的は、製品証明や開発支援などさまざまな企業のニーズを支援することを強く要望していることがわかりました。そして、利用した企業が受けた経済効果は平成17年度で258億円と推計されます。これとは別に産技研の研究成果や依頼試験などを内容とする事業経済効果が24億円あり、合計で282億円となります。これは、旧産技研の事業費合計35億円に対して事業効果として8倍です。さらにこうした価値が主に旧産技研のどの事業から創出されたか、また今後利用したい事業の内訳も解析した結果、いずれの項目についても、依頼試験や技術相談などの企業のニーズを満足させるための支援事業が上位になりました。

図3

図3 デザインセンターの役割

そして、今後、さらに地域イノベーションを創出、顕在化させるためには、東京都のみならず神奈川県、埼玉県、千葉県を含む首都圏を対象に、それらの企業ニーズを将来にわたって支援するための先進的な取り組みに首都圏公設試の連携が必要と考えました。また、地域イノベーションを充足させる組織として、平成18年9月にデザインセンターを設立しました(図3)。 ここでは商品の企画、デザイン、設計、試作から商品化に至るまでのプロセスを支援することにより、売れる商品作りを大きく強力に支援致します。これにより、中小企業が大企業に依存しない形で経営が成り立つモデルを提供できますので、産業技術研究センターとしてはこれを重点的に活用し特徴ある支援を展開する方針です。

具体的な製品化事例には、マンホール内点検用カメラ、歯科用ワイヤベンディング装置、LEDテスターなど十数アイテムがありますが、2007年~2008年にかけてのファッション流行情報も提供するなど時代に先駆けた商品開発情報のサービスも行っています。いずれも中小企業のニーズを満たすためにサービスを提供するという考えに基づくものです。

アクションの重点化とPDCAの徹底が目標達成のキーポイントか

●最後に、平成19年度の主なアクションプランについてお聞かせください。

井上 19年度は主に7アイテムに取り組もうと考えています。いずれも、挑戦的なアイテムですが、地域イノベーション創出の成果を顕在化させるためには重点化とPDCA(計画→実施→点検→処置)の徹底が必須と思われるので法人一丸となって取り組む所存でいます。

その中でも、デザインセンターの活用、「環境センター」の開設、当センターの計量法校正事業者登録制度(JCSS)登録などを重点的に実行していく予定です。環境センターは製品の環境試験の信頼性を向上させるのが狙いです。JCSS登録は最終顧客に対する信頼性を向上させるためです。

●ご多忙の中、インタビューに懇切丁寧にお答えいただき誠にありがとうございました。

●インタビューを終えて

地方独立行政法人の都立産業技術研究センターは、民間企業出身の井上理事長を先頭に、政府の政策を果敢に導入し、変革時代の地域イノベーション創出に向けて積極的に挑戦している姿勢がうかがわれた。本モデルが、地方自治体における産学官連携活動の在り方のソリューションとなるかどうかは、各自治体が置かれた状況がそれぞれ異なることから一律に判断することはできないが、活動の仕組みの構築手法としては大いに参考になるとの印象を持った。

聞き手・本文構成: 藤井 堅
(東京農工大学 大学院技術経営研究科 非常勤講師/本誌編集委員)

*1
主として次の3つのカテゴリーからなる。
Ⅰ.住民に対して提供するサービス等業務の質の向上に関する目標を達成するためにとるべき措置
Ⅱ.業務運営の改善及び効率化に関する目標を達成するためにとるべき措置
Ⅲ.予算(人件費の見積もりを含む)、収支計画及び資金計画


〈参考情報〉
1.文部科学省.“地方独立行政法人法(平成十五年七月十六日法律第百十八号)”,(オンライン)入手先<http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kouritsu/04093001/009.htm>,(参照2007-6-27)
2.中小企業庁.“「公設試経営の基本戦略」(中小企業の技術的支援における公設試のあり方に関する研究会中間報告)について”,(オンライン)入手先<http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/051220kousetushi_
senryaku.htm>,(参照2007-6-27)
3.東京都立産業技術研究センター.平成17年研究所利用に関する調査報告書(平成18年8月発行)
4.東京都立産業技術研究センター.“情報公開(中期目標、中期計画、平成18年度計画、平成19年度計画)”,(オンライン)入手先<http://www.iri-tokyo.jp/info/index.html>,(参照 2007-6-27)
5.東京都立産業技術研究センター. “情報公開(TIRI News)”,(オンライン)入手先<http://www.iri-tokyo.jp/publish/tirinews/tirinews.html>,(参照2007-6-27)