2007年9月号
特集  - 東海地域クラスター
テクノフェアが産学連携マインドを醸成
コーディネータ育成が課題
顔写真

宮田 隆司 Profile
(みやた・たかし)

名古屋大学副総長・
産学官連携推進本部長


東海地域の大学は、クラスター事業を地域貢献の重要な活動ととらえ積極的にかかわっている。名古屋大学の場合、総長らが「東海ものづくり創生協議会」の役員として参加しているほか、サブクラスターの1つを推進するNPO法人東海バイオものづくり中部の事務所は同大学インキュベーション施設内にある。名古屋大学の産学官連携の責任者である宮田隆司副総長が東海クラスターへの期待を語る。

●宮田先生は東海ものづくり創生協議会の運営委員会委員長で、平野眞一名古屋大学総長は同協議会の会長を務めていらっしゃいます。産業、知的を問わず東海地域のクラスターに名古屋大学および地域の各大学がどうかかわっていますか。

宮田 クラスター事業はそれぞれの地域で産学官のネットワークを生かして進めるものです。われわれも積極的にかかわっていますし、地域の他の大学も同じ姿勢だと思います。この地域はトヨタ自動車グループをはじめ産業界の力が強いのが特色ですが、それだけに大学としてもクラスター事業をあらためて地域貢献の重要な活動としてとらえています。それに、愛知県を中心とした東海、さらには中部地方の経済の状態が良いといっても、関東、関西地方と伍してやっていくには産学官の連携、「学」に限れば域内の大学のネットワークを強固にする必要があると思っています。産学連携の国際化が産学官連携活動の次のステージとして文部科学省からも提示されていますが、これについても東海地区大学の連携強化を進めています。

●協議会の研究会から独立し、いわばクラスターのサブクラスターという位置付けで活動しているものがあります。2003年10月に独立した「NPO法人バイオものづくり中部」に続き、今、ロボット関係の動きが急になってきました。こうした研究テーマと大学の関係はどうですか。

宮田 サブクラスター等の芽となる各種分野の研究会では、名古屋大学をはじめ各大学の教員が産業界の技術者、研究者と協働して地域コンソーシアムなどへ発展させる仕組みがすでに出来上がっています。東海バイオクラスターでは、推進機関・事務局であるNPO法人東海バイオものづくり中部の事務所が名古屋大学インキュベーション施設内にあります。また、NPO発足以来、名古屋大学関係者がその役員や実務者として関与してきたことも大きいです。東海バイオクラスターの特徴は、創薬・先端医療といった分野に限定していないことで、生物系、有機系新材料や環境負荷削減技術を東海地区の製造業に技術移転することにも力を入れています。最近、工学系研究者がかかわるケースが増大してきています。ロボット技術クラスターを目指す活動は、東海地区の自動車をはじめロボット技術の集積が背景にあります。大学にロボット、メカトロニクス研究者が多いですし、多岐にわたるロボットユーザーが存在するなどロボット産業を育む素地があるわけで、次世代産業の核になるものと官民挙げて取り組み始めたところです。

●産学官の協同事業であるクラスター活動を通じて名古屋大学はどんな影響を受けましたか。先生たちの意識改革を促したものはなんですか。

宮田 産学官連携を教員が極めて身近に感じるようになったということが挙げられます。特に今年で8回目を迎えるテクノフェアは10年近く前に名古屋大学が最初に始めました。テクノフェアという名称も本学の工学研究科が最初に使用したと自負していますが、工学系教員に産学連携マインドを醸成していく上で大きな役割を果たしてきたと思っています。また、学内において「知的財産の整備、特許取得、産学連携活動等の社会貢献は、これからの大学にとって教育、研究と並ぶ重要なミッションである」とのコンセンサスを得る上でも、クラスター活動は重要な役割を果たしたと思っています。各種コンソーシアムを形成したり、クラスター形成に貢献することが外部資金の獲得にもつながっていく、そのことがようやく理解されるようになってきたと思います。

●大学内の意識が大きく変化しています。大学は時代のニーズにどう対応していかれますか。

宮田 産学官連携を進めていく上で痛感するのは、産業界のニーズと大学のシーズを結ぶつなぎ役、調整役としてのコーディネータの役割の重要さです。ベンチャー起業のための経営人材の不足は従来から言われていることですが、産学の双方向連携を深める最も効果的な手段は有能なコーディネータをいかに確保するかです。大学にとって大事なことは産学連携の名の下に研究基盤を見失わないことです。このことを踏まえて、基盤的研究の成果を生かすにはコーディネータの活用が極めて重要で、この分野の人材育成も大学にとって必須の課題と考えます。名古屋大学としてもコーディネート活動を積極的に行い、外部資金の導入、各種助成、競争的資金への応募を支援する体制を強化したいと思っています。成果報酬型のコーディネータ制度も検討しています。

●東海クラスターへの期待を聞かせてください。

宮田 東海ものづくり創生プロジェクトへの参加企業は2002年の発足当初は約500社でした。それが、現在は約1,400社にのぼっており、裾野の拡大を実感しています。第1期ではネットワーク形成に注力してきましたが、アドバイザー活動、中部経済連合会との連携もあって軌道に乗り始めています。今後は中部経済連合会の中経連新規事業支援機構との連携を深めてビジネスマッチングを進めるなど起業、新事業創生に結び付くような活動を展開したいと考えています。東海地区は擦り合わせ型産業の集積があります。また、中部経済連合会を中心とする産業界、大学、自治体、中部経済産業局などの官との連携を強化するにはちょうどよい規模ではないかと思います。産業クラスター形成に向けてより強固なネットワークを構築し、ものづくり基盤の強化を図るとともに、併せて東海地区への国内外からの人材集積を図りたいというのが大学人としての私の期待です。

●ありがとうございました。

取材・構成:登坂 和洋(本誌編集長)