2007年9月号
特集  - 東海地域クラスター
知的クラスターはナノテクで大きな成果
「名古屋モデル」で研究開発過程を管理
顔写真

竹中 修 Profile
(たけなか・おさむ)

財団法人 科学技術交流財団
知的クラスター創成事業本部
事業総括

「愛知・名古屋ナノテクものづくりクラスター」は、ものづくりの高度化と環境負荷低減を同時に達成する「自律型ナノ製造装置」開発を目指している。今年度は第1期の最終年度。これまでに特許出願199件、事業化・商品化28件など大きな成果が出ている。同クラスターの竹中修事業総括に、狙い、特徴、第2期に向けての展望などを聞いた。

●地域独自の研究開発テーマを設け、地元の大学・公的研究機関を核にして企業も加わり技術革新を目指す「知的クラスター創成事業」。文部科学省が平成14年度にスタートさせたこの技術革新システムは、ブドウの房(クラスター)のように、全国各地に国際的競争力のあるさまざまな革新技術の集積(知的クラスター)をつくり出すことを目指していて、現在、全国で18の地域が取り組んでいます。この事業では、地域の主体性、イニシアティブが重視されているようですね。「愛知・名古屋ナノテクものづくりクラスター」はその1つですが、なぜ「ナノテク」なのですか。

竹中 愛知県にはものづくりの基盤を支える高度な加工技術、材料技術の集積があります。生物はナノテクですし、材料開発はそもそもナノテクの世界です。産業界、ものづくりの立場から見ると、ナノテクは「手段」です。また、低温プラズマで一番進んでいる名古屋大学をはじめ、関連技術の研究に取り組んでいる大学、研究者の層が極めて厚い。こうしたことから、愛知・名古屋地域は「ナノテクを利用した環境にやさしいものづくり構想」を提案し、ものづくりの高度化と環境負荷の低減を同時に達成する「自律型ナノ製造装置」開発を目標としました。

「試行地域」の危機意識が出発点

●「知的クラスター創成事業」が始まった平成14年度は、愛知・名古屋地域は「試行地域」でしたね。

竹中 製造品出荷額が日本一のこの地域がなぜ補欠にあたる「試行地域」になってしまったのか。この危機意識が、私がクラスター本部体制強化のために拝命した「事業総括」の役割をいかに果たすのかの出発点です。初めは悪戦苦闘の連続でした。国、県、市、大学にはそれぞれの風土があり、中の人たちの意識も異なります。役所、大学の責任体制の不明確さ、規則・ルールの形式主義、予算執行の固定化などは、企業出身の私にはカルチャーショックでした。「前例がない」というのが大きな壁でした。何が何でも本採択を獲得するという使命感がなかったら、1カ月で断念したでしょう。

●翌15年度は本採択されましたが、名古屋地域は産業界の力が強すぎて、かえって産学連携にご苦労されていると聞きますが。

竹中 有力企業が多いこともあり、知的集積と産業集積の間の横糸が弱い。しかも、この地域は景気もいいですから、産学官の連携は非常にやりにくい。それだけに逆にやりがいもあります。私の行動指針の第1は現場を見るということです。民間にいるときから現地現物主義でやってきました。他の知的クラスター地域にもすべて足を運びましたし、ドイツ、フランス、米国、韓国も視察しました。行動指針の2番目は多くの人と会うことです。4年間で延べ3,000人。そうしたなかで信頼関係もできてきました。文化の著しく違う大学の先生も、そういう過程を経て、3年目からようやく私のほうを向いてくれるようになりました。最も苦労したことは、大学の研究シーズを事業化にもっていくためのプロセス管理です。

応用基礎研究からビジネス開発まで5つのフェーズに分ける

●それが竹中さんのおつくりになった「名古屋モデル」という技術移転のマネジメント方式ですね。

竹中 そうです。これは研究開発のプロセスを、応用基礎研究(3段階)、要素開発(3段階)、製品開発(3段階)、量産技術開発、ビジネス開発の5つのフェーズ(細かく分けると11)に分け、各プロジェクトのテーマが現在、どこにあるかを整理するものです。研究開発に時間軸、分かりやすく言えば、時間(納期)の感覚を取り入れて研究をみるということです。

●そうしたマネジメントは企業では普通に行われていますね。

竹中 もちろんです。基本的なことです。しかし、大学の先生には、このような経験を持つ人が少ないのです。企業のように「出口」が明確でないからです。ですから、先生方に実用化、事業化とはどういうことかという教育から始める必要がありました。先生は教えることには慣れているが、教育されたり、管理されたり、共同で研究することには不慣れな人が多いのです。

●今年度は、愛知・名古屋クラスターの1期目の最終年度ですね。これまでの成果を教えてください。

竹中 成果の1つとして、世界初の「自律型ナノエッチング装置」の開発に成功しました。これによって従来のように経験と勘に頼ることなく、エッチング(プラズマ化学反応で、半導体基板上の薄膜を超微細加工すること)工程の生産性を大幅に向上できます。これを含め、今年1月までの実績を見ると、特許出願が199件(うち外国28件)、論文509(うち海外発表377)、ベンチャー企業創出4社、事業化・商品化28件、国・地域コンソーシアムなどの採択5件といったところで、「名古屋モデル」とともに評価していただいております。

ベンチャー企業4社で、年間2億円以上の売り上げがあります。コンソーシアムについては、経済産業省の産業クラスターとの連携で、毎年1件採択されています(他府省連携枠)。平成19年度も3件申請し、1件採択されました。

●ナノテクの材料分野は長い開発期間を必要とします。最近は「成果」が厳しく問われる時代、その辺のご苦労はありますか。

竹中 結果を性急に求めてはいけないというのが持論です。無論、件数など実績を出していくことは大事ですが、そうした評価に偏ってはいけません。名古屋の場合は4つのプロジェクトが動いていますが、その1つ、堀プロジェクトのなかには短期的に成果が出て商品になっているものもあります。例えば、超小型ラジカル診断センサーはすでに半導体メーカーに売れています。しかし、それは長い基礎研究のなかから生まれているのです。ですから、10年、20年という時間がかかる例もでてくるでしょう。成果を求めるならば短期的、中期的なものだけでなく、長期的な見方も欠かせません。

産学連携の仕組みづくりも「成果」

●クラスター事業では各地域の自主性が重視されています。名古屋地域の産業界の機運も高まっているようですし、何より大学の姿勢が大きく変わってきたのではないですか。

竹中 はい、この事業を通じて大学は変わらざるを得なくなったし、地域も真剣になってきました。成果ということを言うとき、産学で出口に向かって研究開発を進める仕組みができたとか、インフラが整ってきたということもカウントすべきだと思います。

●第2期に向けての展望を聞かせてください。

竹中 第1期の成果を踏まえて提案しようと思っています。まだ案の段階で確定していませんが、柱は3つです。

[1]先進プラズマ技術開発、[2]窒化物系光・電子デバイス開発、[3]高機能ナノ材料開発、で、いずれも産業界のニーズ(出口)を踏まえて、ナノテクを利用したものづくりクラスターの形成を目指していきます。

●産業クラスターとの連携にはどう取り組まれますか。

竹中 クラスターには「知的」も「産業」もないし、一体で取り組むことが重要です。海外を視察して驚いたのは米国などはそうした障壁がないこと。もっと海外を見てほしい。学ぶことが多いはずです。わが国でも他府省連携で、戦略策定、人材育成、知的財産、コーディネート活動、財政支援などソフト面の支援をセットでしてほしいですね。

●ありがとうございました。

取材・構成:登坂 和洋(本誌編集長)