2007年11月号
連載2  - 国立高専が地域と交流
八代工業高等専門学校
建設技術材料で公的試験機関の認定目指す
リアルタイムで海流・水質を監視するシステムの小型化目指す
顔写真

平尾 敏 Profile
(ひらお・さとし)

野村證券株式会社 法人企画部
公益法人課 産学官連携シニアマネージャ


熊本県の八代工業高等専門学校は地域連携センターを核に産業界、教育界、地域社会との連携に取り組んでおり、その対象も農業、水産、工業と幅広い。同校の「建設技術材料研究所」は、日本工業規格(以下、JIS規格)にのっとった公的試験機関の認定を目指している。リアルタイムで海流・水質を監視するシステムの小型化を目指す。

九州地区に国立高専(以下、高専)は9校あるが、熊本県は福岡県と並んで複数校が設置されている。熊本大学(熊本市)の北に熊本電波工業高等専門学校(合志市)、南に八代工業高等専門学校(八代市)(以下、八代高専)を配している。

写真1

写真1 宮川 英明校長

最初に宮川英明校長(写真1)にお話を伺った。

八代高専の設立は昭和49年で、他の高専からは少し遅れた形だ。もともと八代市は干拓の歴史でもあったと宮川校長。「古くは加藤清正が治山治水に力を入れたこともあり、現在の八代市の4分の1以上は干拓でできた」。そこで培われた産業は農業国として認知され、水産業、工業へと広がっていく。当初は機械電気工学科、情報電子工学科、土木建築工学科でスタートしたが、平成元年に生物工学科、平成6年には専攻科が追加されている。「環境は人を作る」とは初代校長の言葉だが、学科の設置の推移をみても、地域の産業と密着した学校経営を行ってきたことをうかがい知ることができる。

地域連携センターを核に産業界、教育界、地域と交流

産学連携の組織として地域連携センターが平成12年に設立されているが、もちろんそれ以前から地域産業との深い連携の歴史があった。八代高専の理念は、自立した実践的技術者の育成と並んで「科学技術による地域社会への貢献」。同センターでは産業界・教育界・地域社会との連携を掲げている。

教育界との連携では、九州沖縄地域の10高専で実施している小中学生を対象とした科学教育支援の中心校。最近問題となっている「こどもの理科離れ」対策のプログラム等を実践している。

地域社会との連携には「日奈久温泉街再生」プロジェクトを始め、「ミニミニ科学館」や「わいわい工作わくわく実験ひろば」の開催などの事例があり、積極的に地域との交流を深めている。

温泉排水でスッポン養殖

表1 「共同研究」テーマ

表1

さて、産業界との間では、10の共同研究(表1)と、10の受託研究が進行中である。主な内容について開豊センター長(写真2)に聞いた。

写真2

写真2 開豊センター長

農業国といわれる熊本県だが、連携は農業、水産、工業とバランス良く進んでいる。「コンクリート破砕機を用いた杭頭処理方法」は「亀裂制御爆破工法」に関する特許も活用した独特な方法だ。初代校長から綿々と引き継がれてきた熊本大学の爆破技術を基にしたものである。転じて、同校の「建設技術材料研究所」がJIS規格にのっとった公的試験機関として認定をとろうとしている。得意のコンクリートの圧縮試験から始め、産業界が求める試験を行っていく予定と言う。これが実現すれば全国の高専で初めての試験場設置校となる。ユニークな研究では鼈(スッポン)の養殖事業がある。地域の温泉排水を利用し温度管理を行うことで冬眠を阻止することができる。これが成功するとスッポンの成長を促進し、効率的な生産システムが構築されることになる。現在、スッポンの成長システムの検証から、養殖システムの構築に入った。一刻も早い研究成果の発表が待たれる。

地域を象徴する漂流ブイの研究
写真3

写真3 入江博樹准教授

入江博樹准教授(機械電気工学科:写真3)による「不知火海(八代海)におけるリアルタイム海流・水質監視システムプロジェクト」を紹介しよう。

不知火海では赤潮の被害が少なくない。漂流ブイを利用し、海域の潮流、温度を調べることで、発生した赤潮の漂流ルートを事前に予知し被害を防ぐのが狙いである。これまでは、潮流探査に大掛かりな装置を必要としたが、全地球測位システム(以下、GPSと呼ぶ)で得た位置情報を携帯電話回線で送受信し、コスト軽減を行う。高さ60センチ、直径20センチのサイズまで小型化することに成功した。問題は、長期間漂流させるための工夫で、生命線は電池の寿命にかかっている。電池を使う時間を少なくするためには、位置情報を確認する回数の頻度を調整し、その時間をどの程度まで短くできるかが課題となる。

例えば1分ごとに調べるよりは、5分ごとに調べた方が電力消費は少なくなるがその分予測精度は低くなる。精度を落とさずに調べる間隔をどのように設定するかが研究の中心。当初は2週間だったものがようやく1カ月まで保たせることができるようになった。今後は電池の種類や、モジュールの小型化をすることで、よりコンパクト化を目指したいという。また、海流を中心とした測定に加え、水深測定の機能等も加え付加価値の向上も目指している。

そもそも、位置情報を携帯電話の電波に乗せることが本プロジェクトのモデルだ。ブイの構造、素材の特定、位置情報システムのモジュールの設計、GPS用アンテナ・携帯電話回線用アンテナの設計等多くのノウハウが詰まっている。何も海に浮かべるだけがモデルではなく、さらに小型化し、電池の寿命が長くなればさまざまな分野への応用が期待される。

八代工業高等専門学校の概要(所在地:熊本県八代市 URL:http://www.yatsushiro-nct.ac.jp/)
学校長: 宮川 英明(みやがわ・ひであき)
学生数/教員数: 891人/80人
教育プログラム: 本科4学科(機械電気工学科、情報電子工学科、土木建築工学科、生物工学科)および専攻科3専攻(生産情報工学専攻、環境建設工学専攻、生物工学専攻)からなる本科5年間、専攻科2年間の5ないし7年間の一貫教育。
〈内容は掲載当時〉