2007年12月号
巻頭記事
秋田県が企業と共同開発した小型遺伝子検査装置は超高齢県を逆手に取った産学官の医工連携勉強会がきっかけ
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吉田 徹 Profile
(よしだ・とおる)

財団法人あきた企業活性化センター
プロジェクトマネージャー


秋田県はニプロ株式会社など3企業と共同で、小型の臨床向け遺伝子検査装置を開発した。骨粗しょう症患者の一滴の血液からDNA(デオキシリボ核酸)を自動的に解析し、その患者に適した治療薬を選択できる。そのきっかけは、医工連携による新事業を目指す産学官の勉強会。開発の経緯を紹介する。

秋田県は2007年8月7日県庁内で、共同研究を行った3企業と共に、小型の臨床向け遺伝子検査装置を開発したと発表した。骨粗しょう症の患者の血液を一滴垂らしたカセットを装着すると、DNA(デオキシリボ核酸)を自動的に解析し、その患者に適した治療薬を短時間で選択できる小型の解析装置である。秋田県は医薬と工学両分野の連携による新技術や新商品の開発を産業振興の重点としているが、具体的な製品化は初めてである。本稿では開発の経緯などを紹介する。

最初は産学官の勉強会から

秋田県は県民の高齢化が著しく進んでいる県である。県の経済発展と雇用の場の創出に向けて、電子部品に次ぐ候補を模索していたが、その一例が超高齢化先進県を逆手にとった医工連携による新事業化の発想である。

「秋田県産業技術総合研究センターが有する精密加工技術が貢献できる医療現場機器とは何か?」という設問を掲げて、平成14年春から県北部に工場を立地するニプロ株式会社の研究員と、地域の大学の先生等で構成する勉強会を組織化したのが開発の始点である。

勉強会で調査した結果、米国のベンチャー企業が研究開発向けにDNAチップを開発したという情報を入手した。また骨密度が減少する骨粗しょう症に関するDNA解析のシーズをニプロ株式会社が有していたことも強運な出会いであった。勉強会の名称は「DNAチップ製造研究会」となった。

厚生労働省のデータによると骨粗しょう症の罹患(りかん)者数は、2000年に1,100万人に達している。治療方法は主に服薬が一般的で、薬効があらわれるのには個人差があり1~3年必要とのことであった。その間に大腿(だいたい)骨骨折などにより周囲に深刻な影響を与えることが懸念されており、その防止策としても早く患者の体質に適した薬を選択する必要がある。

しかし臨床現場において体質を評価するシステムが確立されていなかった。理由は、DNAチップが高価なことと、検査の再現性がまだ十分でなかったことの2つが挙げられた。体質に配慮した医療、いわゆるテーラーメイド医療の確立のために、臨床向けのDNA検査装置に大きな社会ニーズが存在するとの結論に至った。

地域新生コンソーシアム事業の採択が弾みに

安価で使いやすいDNAチップの製造技術を開発すべく産学官が結集し、精密加工技術と医療技術の融合を開始した。幸運にも平成15~16年度に経済産業省の委託研究である地域新生コンソーシアム研究開発事業に申請し採択されたことが開発の大きな弾みとなった*1 *2。総括研究者代表者は岩手大学教授の岩渕明先生である。

研究員はニプロ株式会社をはじめとする地元の企業、学は秋田大学医学部、岩手大学の他に中央の3大学等の人々である。

その成果として色素を用いたDNAチップの開発に成功した。しかし色素による発色に長い解析時間を要するという課題が残った。さらに地域の医療現場への普及にはコストが大きな障害となることも容易に想像された。

そのため先手を打って、ポストコンソーシアム事業を目指し、平成15年12月に北東北ナノメディカルクラスター研究会(会長:岩渕明先生)を発足させた。上記のDNAチップの課題克服と同時に、高速化・小型化・安価なDNA検査装置の開発も視野に入れた体制の強化を図った。

検査装置の開発成功と今度の課題

DNAの解析は、[1]患者から血液を採取し、必要なDNAを抽出する、[2]得られたDNAを増幅する、[3]既知のDNAと[2]の増幅したDNAとを反応させ、それらを検出する―の3つの工程で構成される。

写真1

写真1 蛍光シクロデキストリンの発光



写真2

写真2 超小型DNA検査装置

最初に解析時間の短縮に傾注した。その課題は前述の色素発色の代わりに、秋田大学濱田研究室が開発した、高感度で取り扱いが容易な新たな蛍光試薬を導入することによって解決された。一般に蛍光試薬の特徴は高感度ではあるが、退光しやすく、熱安定性に乏しいことが知られている。写真1に示すように蛍光試薬にシクロデキストリンを修飾することにより安定的に発光する試薬を開発し欠点を解決した。高速化のネックであった検出工程の迅速化が図られた。

次にシステムの小型化とコストダウンに挑んだ。ここからは主に秋田県の研究費を投入した。写真2に開発した超小型DNA検査装置を示す。地域の診療所で扱える装置を念頭に、小型、安価、簡便な操作方法を目指し、あらかじめ全試薬を充填(じゅうてん)したカセットを用いる装置である。患者の血液を投入し、以後は自動運転により検出結果を表示できる。所要時間は2時間(従来の3分の1)、装置の大きさは150×150×高さ250mmに収めることが可能になった。

小型化、時間短縮には大学のシーズに加えて、株式会社セーコン(県内に工場)のプラスチック射出成形技術と株式会社アイカムス・ラボ(岩手県)のマイクロアクチュエータ技術の寄与があった。これがなければ開発の成功はなかった。

今後3年間の臨床研究を経て、ニプロ株式会社が商品化の予定であるが、さらなる解析時間の短縮という課題解決に向けて今後も産学官連携による開発を進める。

*1
財団法人あきた産業振興機構.平成15年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「テーラーメイド医療向け臨床DNAチップの製造技術開発」成果報告書.2004-03.

*2
財団法人あきた産業振興機構.平成16年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「テーラーメイド医療向け臨床DNAチップの製造技術開発」成果報告書.2005-03.