2007年12月号
特集1  - 共有知的財産権の不実施補償
JSTの「企業との共有特許実施」に関する現状
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難波 良雄 Profile
(なんば・よしお)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 技術移転促進部
知的財産活用推進課 課長

日本版バイ・ドール制度により、JSTの委託研究開発による特許は、基本的に当該企業単独の出願とすることができるようになった。また平成16年度以降採択されたプロジェクトの共同出願については、共有者のいずれからも特許のライセンスができるようになった。JSTの共同特許の不実施補償および第三者実施に関する方針を解説する。

科学技術振興機構(以下、JST)におけるライセンスを一手に引き受けている私ども知的財産活用推進課に、「産学官連携ジャーナル」編集部から「JSTの共有特許の不実施補償に関する考え方を説明してほしい」という要請があった。

今回、産業技術総合研究所と東北大学からも同様の記事が出るとのことだが、当方の考え方、規定をご説明するまえに、JSTがファンディングエージェンシーであり、日本版バイ・ドール規定(産業技術力強化法第19条)の影響を強く受けている機関であるということを認識していただく必要がある。この点でJSTは、国の研究機関や大学などと大きく立場を異にする。

政府資金を供与して行う委託研究開発に関係する特許権などについては、一定の条件を受託者が約する場合に、受託者に帰属させることを可能にする―というのが日本版バイ・ドール制度だが、これをJSTのファンディングに置き換えると、企業に委託した特許は基本的に当該企業単独の出願とすることができる、ということになる。

このため、JSTでは、企業と共同出願する特許が大幅に減ってきている。過去3年間の推移をみると、平成16年度138件、17年度127件、18年度80件となっている。「新技術の創出に資する研究」だけでなく「新技術の企業化開発」もJSTの事業の柱の1つであり、企業の負担を軽減し新技術の企業化、新産業の創出を促すのはファンディング機関の使命といえるだろう。

このような状況においては、もはや不実施補償について議論する必要はないようにも思えるが、実際には、過去に共同出願したものがかなりあり、その中にはちょうどライセンスする時期にきているものもあるため、日々、この問題に直面している。

それでは、JSTではこの問題をどのように考えているのか。基本的に、不実施補償をして頂くという点では変わっていない。しかしながら、共有者との関連では、不実施補償のみならず、第三者実施をどう考えるかということも重要な問題であり、これらを広く見ると、以前とは若干の違いが出てきている。具体的には、別表のようになっている。

不実施補償に関しては契約で定めている。特許法第73条に「……別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる」とあるためだ。他機関もこの点は同じだと考えられる。

一方、第三者実施に関しては、かつてはJSTがこれを一元的に扱うこととしていた。しかし、共有者側でライセンスできるようにしてほしいとの要望が多かった。特に、ベンチャー企業においては、特許を武器にさまざまな交渉をする必要があった。こうした産業界の意向に対応し、平成16年度からは共有者のいずれからも特許のライセンスができるようにした。

ここに述べたことに象徴的であるが、一般には不実施補償だけが話題として取り上げられることが多いが、実際の契約交渉においては、自己実施時の不実施補償の問題と第三者実施許諾の問題は一体のものとして俎上(そじょう)にのせることが多い。実際、日本知的財産協会では、共有者たる企業が独占実施できる際には不実施補償を行うが、第三者にも実施させるなら自己実施の際の不実施補償は行わない「独占実施補償」という考え方を提唱している。

企業には不実施補償に反対する声は少なくない。企業には「大学等の研究機関との共同研究の場合、その研究の原資は委託費などとして企業側から出ていることがほとんどであり、その成果を自由にできないというのは納得しがたい」という思いがあるだろう。「全く応じてもらえない」という大学等もあると聞く。JSTの場合、研究費は基本的にJSTから支出されているため、このような事態が広がる可能性は小さいと思っている。

また、既に述べたように、現在、日本版バイ・ドール制度により、JSTからファンドを受けた多くの企業は、自ら特許を単独で出願でき、そうしなかったもののみが共有となっているのであり、こうした環境下にありながら企業が不実施補償を拒否するというのは筋に合わないことと考える。