2008年1月号
特集1  - 人材を問う 今のままで産学連携を担えるのか
MOT(技術経営)の可能性
顔写真

高谷 徹 Profile
(たかや・とおる)

株式会社三菱総合研究所 科学・
安全政策研究本部 主任研究員


経済産業省は現在約70あるMOT(技術経営)教育プログラムの評価・認定制度づくりに取り組んでいる。まだ試行評価の段階だが、浮かび上がってきた課題は、各プログラムの実施機関が自らの特徴を産業界に十分訴求できていないことである。

MOT人材育成の現状

わが国においてMOT(技術経営)が注目されたのは、わが国の企業が、優れた技術を持ちながらもそれを経済的価値に結び付けられていないのではないか、という問題意識が背景にあった。

これを解決すべく、MOTを実践できる人材の育成が期待された結果、現在国内には約70のプログラムが存在している。これらは、提供主体から見ても、大学、大学以外の民間教育機関がある。大学が提供するものにはさらに、専門職大学院が提供するもの、既存の大学院修士課程によるもの、博士課程によるものがある。内容やレベルについても、全体を網羅しようとするもの、知的財産などに特化したもの、中小企業向けのもの、入門的な内容のもの、エグゼクティブ向けのものとさまざまである。

これら独立したプログラム以外にも、自ら講師を招く、あるいは外部の研修機関を利用するなどして社内でMOTの研修を行っている企業は多いと考えられる。

MOT教育プログラムの評価・認定制度の検討

平成14年度から進められてきた経済産業省のMOT関連事業*1では、MOT教育プログラムの評価・認定制度についても検討を進めてきた。これは、MOT人材育成の量的な拡大を図るだけではなく、質の向上も図る必要がある、という考え方によるものである。

人材の流動性が高くないわが国でMOTの人材育成を拡大していくためには、仕事を続けながら学ぶことができるシステムが不可欠である。そのためには、フルタイムのプログラムだけでなく、夜間・休日主体のプログラム、短期集中型のプログラムなど、多様な学習手段が提供され、必要に応じて段階的に学んでいく「アラカルト学習」を実現することが大切である。したがって質の保証を考える上では大学によるプログラムも民間教育機関によるプログラムもすべて考慮する必要がある*2

図1

図 1 ニーズと求められるしくみ

また、MOT教育プログラムの提供側、利用側のニーズに応える制度を目指した。プログラムの利用者側は、プログラムの選択基準を求めており、段階的に学ぶ環境が欲しい。また、修了した暁には、その能力を証明できることが望ましい。プログラムの提供者にとっては、自らが質の高いプログラムであることのアピールが重要であり、すべての内容を自らが提供するのではなく、プログラム間で相互補完したいというニーズもある。そして、両者に共通のニーズとして、MOTを学ぶとメリットがあるということを明らかにすることも大切である(図1)。

こうした検討の結果、(個人ではなく)教育プログラムに対する認定を核とした制度が望ましいとの結論を得た。質の高いプログラムを認定すれば、どのプログラムの質が高いか明確になり、そのプログラムを修了した人材の能力証明にも活用できる。また、認定したプログラム間で、学んだ内容を単位等として認める履修免除を実現すれば、アラカルト学習や相互補完も実現できる。さらに、これらのプロセスを通じて情報公開も進むことが期待できる。もちろん、この「認定」は強制されるものではなく、希望したプログラムのみに実施される任意のものであり、その点ではこの制度自体も外部から評価される仕組みになっているといえる。

試行評価の概要

経済産業省委託事業では、将来的な認定制度の実現を目指し、認定の判断基準となる認定基準、MOT教育ガイドライン等の整備も進めてきた*3が、実現に向けた準備段階として、認定をするかしないかを判断する「認定」ではなく、「評価」を以下の手順で試行的に実施した。

1. 対象となるプログラムは、自ら基準に適合していることを示す自己点検書を作成する。
2. 産業界、教育プログラム関係者、MOT教育プログラムの修了者からなる「評価チーム」を対象プログラムごとに編成する。
3. 「評価チーム」が自己点検書による書類審査を行った上で、対象プログラムを訪問して審査し、所見を作成する。
4. 自己点検書の内容、所見の内容をウェブサイトで公開する。

平成18年度は、20のプログラムに対して試行評価を実施し、その結果を「MOT教育プログラム情報サイト」*4として公開した。平成19年度は約10のプログラムに対して試行評価を進めており、これも終了後に結果を公開する予定である。

試行評価の結果から見るMOT教育プログラムの課題

試行評価を実施しての感想は、各MOT教育プログラムは質の高低の前に、「違う」ということであった。比較的均質な高卒者、学部卒業者を対象とするのではなく、社会人を対象としているため、受講者の業種、職種、年齢、そして、目指すべきMOT人材像もさまざまである。

問題は、その違いや特徴が十分に産業界に訴求できていないことである。そもそも、プログラム自身が他と比較した自らの特徴が何であるかを認識できていない場合がある。また、どのような人材を育成するかよりも、何を教えるかという意識が先行してしまっている場合もある。産業界にアピールしていくためには、どのような人材を対象としているのか、そして、育成した人材がどのような人材か、明確で特徴ある目標設定が大切である。今回試行評価に参加したプログラムにとって、外部から評価され、また評価チームに加わって外部のプログラムを評価するという機会は非常に有意義であったようである。

もっとも、プログラムの完成度に差が存在することも事実である。特に、設立間もないプログラムについてはやはり試行錯誤があるようである。ただし、社会人は、通常の大学の学生と比べて極めて要求が高い「客」であるため、それに対応することによって改善が図られる。全体として歴史が浅いわが国のMOT教育プログラムには、この試行錯誤の段階を早く超えていくことが望まれる。

その他、プログラムディレクター等の役割が存在し、教育内容も含めたプログラム全体の意思決定の責任と権限が明確になっていることも、産業界ニーズに応えてプログラムの質を改善していくための重要な要素であることは指摘したい。

これからのMOT人材育成の展望

MOTの人材育成は、プログラムの開設が相次ぐ拡大期から、定着期に移行したと言える。

プログラムの中でも、安定的に受講生を集めているものがある一方、受講生集めに苦労しているところもある。あらためて、MOTとは何か、MBAとは何が違うのか、さらには他のMOT教育プログラムとは何が違うのかを各プログラムが明確にしていく必要がある。

また、MOTの人材育成を行うとしても、日本の企業は外部のプログラムに人を送るよりも、社内の研修を好むのではないかという見方もある。内部で研修するメリットは、短期集中型など自社で自由に内容を設計できること、実課題を用いた学習など社外秘の内容を扱うことができることなどが挙げられる。一方、外部のプログラムを利用するメリットとしては、体系的に学べるほか、意欲が高い他社・他業界の人と「他流試合」をして刺激を受けるとともに人的ネットワークを形成できることが挙げられる。

ただし、これら2つの手段は本来代替的なものではない。企業にとって、教育をしたいすべての従業員を外部のプログラムに送ることは不可能であるし、MOTを組織的に実践していくためには、MOTを体系的に学んだ人材が核として必要となる。企業にとってはこれらの手段をどう使い分けていくかが重要となるだろう。

現在、経済産業省の委託事業として実施している評価・認定についても、産業界、教育機関のより一層の理解を得て自立化を目指したい。

*1
経済産業省から株式会社三菱総合研究所への委託事業。

*2
大学本体は7年に1度、専門職大学院は5年に1度の「認証評価」を受けることが法律で義務づけられている。専門職大学院の認証評価とは、文部科学省によって分野別に認証された機関によって行われる評価である。ただし、民間教育機関による非学位プログラムについては現状、質を保証する仕組みがない。

*3
経済産業省.“効果的な技術経営人材育成に向けた「技術経営(MOT)教育ガイドライン」の検討について”.(オンライン),入手先<http://www.meti.go.jp/press/20060811001/20060811001.html>,(参照2007-11-26).

*4
株式会社三菱総合研究所. “MOT教育プログラム情報サイト”. (オンライン),入手先<http://www.mot-info.jp/>,(参照2007-11-26).