2008年1月号
特集2  - 中小企業とイノベーションシステム
ネットワークは経営資源 -コーディネート企業12のカギ
顔写真

上野 保 Profile
(うえの・たもつ)

東成エレクトロビーム株式会社
代表取締役社長


聞き手・本文構成:登坂 和洋 Profile

(本誌編集長)


東成エレクトロビーム株式会社は1977年、わが国初の電子ビーム溶接加工業として創業。高エネルギー密度熱源を利用する加工技術を核とした総合ものづくり企業である。現在、電子ビーム溶接機10数台、レーザ加工機40数台を有する。同社の技術はF1エンジン、国際宇宙ステーションで使用される実験装置をはじめ人工衛星、原子力、航空機から自動車、ロボット、医療機器部品まで幅広く活用されている。

早くから地域を越えた異業種連携に取り組み、現在、超硬工具製造の株式会社中村超硬(大阪府堺市)、光学研磨の株式会社クリスタル光学(滋賀県大津市)、金属切削の株式会社スズキプレシオン(栃木県鹿沼市)、微細加工機製造の株式会社ピーエムティー(福岡県須恵町)とファイブテックネットを結成。付加価値の高い製品づくりや共同受注、中小企業支援事業へのチャレンジに取り組んでいる。

わが国のイノベーションシステムのなかの中小企業を考える時、1つのモデル企業だ。


1. 大手企業が中小企業の先端技術を使う

●御社は平成8年版の中小企業白書に「企業集積・ネットワークを利用し、企業同士の共存、共栄を図る『コーディネート企業』」と紹介されて話題を呼んだ。当時、何を目指して東京・多摩地域の異業種連携を進めていたか。

当時、中小企業庁の調査課長 児玉俊洋さん(京都大学大学院教授)が取材してまとめられたが、私がそうしたことに取り組んだのはその10年ぐらい前から。昭和の終わりごろ、大企業はバブルが崩壊、為替の大幅な変動に翻弄(ほんろう)され、リストラクチャリングに取り組んでいた。リストラという言葉は間違って伝えられているが、基本的には選択と集中、スリム化である。それで空前の利益が出た。

その結果、ファブレスといって、ものづくりをしなくなった。まとめ役の人材が足りなくなった。そして、大手企業が今まで、自前でやってきたことを、ノウハウを蓄積して来た中小企業の最先端の加工技術を活用するようになってきた。

2. ネットワークの時代

●なぜ、中小企業のネットワークが必要なのか。

初めは、開発テーマの試作だけやっていた。そのうち、専門の電子ビームとかレーザーの加工だけでなく、加工全部をやってほしいといわれるようになった。発注する大企業の加工技術力がどんどん弱くなってきたからである。

製造業には、生産技術という非常に重要な役割を果たしていた部門があった。彼らは、今の鋳造、鍛造、熱処理とか溶接とか金型とか機械加工などプロセスのエキスパート集団である。技術部門が設計した図面を一旦生産技術部門に持ってきて、図面通り加工できるのか、設計を直さなければいけないのか、新しい設備の事前準備が必要かということを検討する。この機能が弱くなったり、機能しなくなってきた。

また、今まではお客さまのほうが自分で材料を手配して検査してプレスに頼む、また別の加工に頼んで検査をして、それから当社で溶接をしていた。そうした流れを統括できる人材がいなくなったり、役割がなくなったため、全部まとめてやってほしいという要望になったわけである。

といっても、そのノウハウは弊社にもない。まず社内に相談したが、大反対。プレスとか加工屋さんでトラブルが起きたらうちの責任になるじゃないかという。もっともらしい意見だ。だが、私は「もしそういうコーディネートをやれる会社が出てきたら、うちの溶接の仕事もこなくなる」と考えた。だからやるしかないだろうと社内を説得した。

もっと大きな困難があった。例えば、プレスをお願いに行くと、「同じ中小企業なんだからあなたの下につきたくない」という。要するに下請け系列の考え方が残っているのだ。「違うんですよ。プレスをやるあなたのところにレーザーで溶接やってほしいという話がきてたでしょう」と私が言うと、「そういう話はきていたけど、うちはレーザーがないから断った」。どこも同じような反応。それが普通だ。そこで、「プレスの会社に溶接の話がきたら、その会社がコーディネートし、当社が協力しますから」と説明して、理解者を広げていった。

お客さまのニーズを我々中小企業がコーディネートしていく柔軟なネットワークが大事である。こういうことを我々は多摩の地域でやっていた。

3. 広域連携

●それが異業種5社で結成されたファイブテックネットに発展した。上野さんの考えがどう変わったか。

ニーズが変化してきた。特殊なもの、大型の依頼が来るようになると広域志向でいかざるを得ない。もうひとつ、下請け構造の激変、要するに系列の縮小もある。

広域連携の直接のきっかけはファイブテックネットのメンバーになったスズキプレシオンの鈴木社長に出会ったこと。2001年に栃木県鹿沼市で私が経営講演をする機会があり、「発注者側からの要請でコーディネートをどんどんやるようになってきている」という話をした。そこに鈴木さんが来ていた。同社はネットワークというコンセプトで、域内で連携をやっていた。鈴木さんから、コーディネートを発展させたい、ぜひ一緒にやってほしいという要請があった。

彼はメンバーになるクリスタル光学、中村超硬と既に取り引きがあった。私はもともとスズキプレシオンさんとも少し取り引きしていた。

域内でやっていた私自身も、何か難しい要請がいっぱいきたし、困ったなと思っていたという背景もあった。まず4社のネットワーク、その後1社加わって現在5社になったのである。

4. トップの信頼関係を築く

●連携するうえで大切なことは。

重要なのはトップ同士の信頼関係をつくること。1回目は栃木県湯西川地区に泊り込みで熱い思いをぶつけあった。2回目は京都のビジネスホテルで1室を借りてまたプレゼン合戦。疲れ果ててから「じゃあ飯でも食いにいくか」というようにビジネス中心の会合だった。このとき、私が提案した名前が「強者連合」。痛い目に遭ってきながら、これから新しいことやるんだという強い気持ちからだ。

3回目は、グループ入りの候補になっていた会社にプレゼンしてもらった。このときは実務者を入れて具体論を進めた。共通のカタログづくり、展示会への共同出展というように展開していった。

社長同士の連携も徹底していた。前3期分の決算書と翌年の事業計画を開示。財産目録まで公開した。そういうことがやはり大事。

うまくいってないときはいいが、うまくいきだすと連携の中でもめるという。そのときの対策は最初に考えてある。その事業がうまくいきそうになったら会社をつくればいい。出資するか、加工を受けるだけにするか選択することになる。利益配分というのはそういうこと。きちんとスキームをつくっておくことが重要である。

5. ネットワークのメリット

●こういう形の連携のメリットは。

電子ビームとか非破壊検査、レーザー加工は弊社のコアコンピタンスである。他の会社はマイクロマシン、金型、装置製作、チタンの精密加工だとか、光学研磨などを手掛けている。いろいろな引き合いが来てもどの会社がリーダーになっても全部できる。これは強い。

しかも大型研磨機があり、弊社には1台3億円もする電子ビーム設備がある。業界でもこの大型の研磨機はすごい機械だ。そういう特殊なノウハウをそれぞれの会社が持ってる。

これだけのものを1社でやろうとしたら大企業の仲間入りだ。でも、そうではない。中小企業がその強みをお互いに持って堅い連携をする。私はシンジケート的な強いつながりと思っている。

展示会に共同出展を続けている。5社いっぺんに出るわけだから名刺の集まり方も違う。

6. 独自ブランド

●グループ化によってどこまで付加価値をつけられるか。

これが発展して、共同受注の芽が出てきたし、ユニット、モジュール作製にも発展した。自社ブランドにもつながった。独自のブランドの例は、中村超硬の医療分野への進出を、当社がレーザー装置の導入支援という形で後押ししたこと。

中村超硬は大阪大学発のベンチャー企業とインプラント(人工歯根)の研究をしていた。歯茎の深さは1人1人違うそうだが、どこまで穴あけするかの目安がなかった。「それは危ない、1人1人にセットできるドリルにしましょう」ということで、弊社のレーザー技術を使って穴あけ用ドリルに差し込みの深さがわかる印をつけた。これに使用するレーザーマーカー装置の取り扱いは熟練を要するが、当社が装置の選定から条件設定までお手伝いし、中村超硬が導入した。同社はインプラント手術用の使い捨て位置決めガイドと歯茎穴あけ用ドリルの製造を始めた。

これが、ファイブテックネットから生まれた、自社ブランド品の第1号だった。これがモデルの1つになって、ものづくり企業による新しい連携としての「新連携」*1支援策に発展していった。中小企業支援策として1つの大きな流れになった。

当社は新連携第1号の認定を受けたが、その前に既にこのような異業種連携に取り組んでいた。

7. 中小企業施策が大転換

●バブル崩壊の後、中小企業を取り巻く環境がどう変化したか。

ネットワークによるコーディネートを加速させたもうひとつの要因がある。国の中小企業政策の理念が、それまでの指導、保護から、意欲ある企業を支援する方向に根本的に変わったことである。何か新しいことをやりたいとか、連携して意欲的な課題に取り組む中小企業を後押しする方向への大転換である。平成11年度の中小企業基本法の抜本改正がターニングポイントである。36年ぶりの抜本改正だった。9年前の日本は大変厳しい経済状況にあり、ときの臨時国会は中小企業国会とネーミングされたほど。そこで、以前に児玉さんが提起したこのコーディネート企業というコンセプトが大変話題になった。

8. 産学連携

●中小企業間のネットワークと、大学などとの連携をどう組み合わせるか。

ネットワークはさらに産学連携にも効果が出てきている。これは非常に重要なことだ。他の企業との連携はもちろんのこと、大学・研究機関と共同研究開発をすることや国の新しい事業にチャレンジすることにより当社の知見を高め、人材を育て、新規事業創出に有効に機能した。当社の産学連携やその技術開発の例を挙げると、製造科学技術センターが管理法人の「IMI研究コンソへの参加」、立川商工会議所による「次世代多層実装基板の開発」、TAMA産業活性化協会と「シンプルXML-EDIシステムの開発」、TAMA―TLOと「金属EMS部品の一体成形」と「地域ものづくり革新枠・高度機能部材の開発」、立川商工会議所と「ナノカーボンインプリンティング」、産業技術総合研究所と「製造業中核人材育成事業」と「超臨界流体技術実用化推進研究会」などである。

TAMA地区の産業クラスター計画でも、我々は提案型の事業を推進した。

大学は知財を技術移転するためにTLOをつくっているが、産学連携のポイントは、中小企業が何かやりたいときに、大学の先生方と連携を図るのが成功の近道だと思っている。

中小企業の課題は何か。私は、内部の経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報とネットワークが決定的に不足していることであると考えている。これをどう解決するか。外部の経営資源を活用することが経営者の重要な役割ではないかと考えている。

9. 中小企業と大企業

●大手企業と中小企業は理解し合えるか。

技術力のある中小企業の協力なしでは大企業単独での成長が難しい時代、両者はパートナーの関係ではないかと思う。今までの協力会とか下請け会とは異なり、大手企業の中には既に「パートナーシップ会」と言っている企業もある。

大企業が企画してものづくりをするとき、まず試作がアウトソーシング。それと基本的にはプロトタイプをつくって組み立てをして、評価をした上で生産になる。部品調達はやはりアウトソーシングをすることになる。スーパークリーンルームなどで組み立てし、信頼性管理をやった上で販売、それからサービス体制。こうなってくると中小企業はパートナーとして、重要な役割を担うことになる。

それで、品質、納期、それから価格をパーフェクトに対応した協力企業をグッドパートナーとして表彰してくれる。大手企業も既に、意識が変わってきている。ある企業の役員が言うのは、自分たちが10億円の新しいビジネスをやろうとすると、6億円をパートナーの中小会社にアウトソーシングしている、うちの付加価値は4億しかないと。その裏には協力会社の協力なしには自社の事業が成り立たないという現実があると思われる。

中小企業基本法の抜本改正がなかなか浸透していないのではないかと心配している。先日も北陸地域で「産学連携と地域の活性化は中小企業が主役です」という題で講演した。連携の仕組みづくりの目的、出口は何か。中小企業が何か新しいことを企画して、いろいろな支援機関の協力を受けて事業化を進め、それで雇用を増やし税収を上げること。これが地域の活性化の中心ではないかと提言したら、まったくその通りだという話だった。地域活性化の問題は、中小企業経営者にこのようなスキームを理解してもらうことがポイントだと思う。

10. イノベーションシステムのなかの中小企業

●わが国のイノベーションシステムのなかで中小企業は何を担う。

中小企業が担うのは産業界のニッチの分野。それから高付加価値の小ロット。これらは大手がつくったら納期対応が難しくコストも高くなってしまう。

もっと注目したいのは最先端分野である。例えば加工や分析機器である。1台5億円ぐらいする装置もある。八王子市にあるエリオニクスという会社が最先端装置の開発と製造をやっている。その装置を日本の最先端の研究に取り組んでいる大学や大企業におさめる。アメリカの大学にまで販売している。

計測でいえば昔は日立、島津、日本電子などが最先端の装置を開発しながら売れ筋の装置をやっていた。しかし、現在は変わってきた。最先端は国際競争が厳しい。売れる台数も少ない。だから大手は売れ筋の装置に力を入れていると聞いている。特定分野の装置開発で中小企業が大変重要な役割を担っている。

協力企業と一緒になって一括受注することが重要となってきている。「コーディネート企業というコンセプト、新連携の支援策」が大切となっている。提案しなければいけなくなってきた。大学との連携の焦点は今、中小企業である。経営者がやろうと言ったらすぐその日からスタートできる。事業化につなげることも強く求められている。

平成18年度に「中小ものづくり高度化法」ができた。一般にサポインと呼ばれている。このなかで、高度部材・基盤産業を支える基盤的技術を担う「匠の中小企業」の強化がうたわれている。基盤的技術とはものづくりをする上での重要技術のことである。

燃料電池、情報家電、ロボットなど戦略的で重要な産業分野を支える技術、具体的にはめっき、レーザー加工、プレス加工、鋳造、鍛造、金型などの20の分野が極めて重要で、ここを高度化しないと国際競争に勝てるような製品ができないということを国が認識した支援等である。

これは平成18年度の経済産業政策の一番重要な政策になった。経済産業省のなかで中小企業政策がそういう扱いを受けたことは画期的な事と思っている。だから、新連携支援策からずっとつながっている。新連携はそれぞれ専門的な加工技術を持っている異業種の人たちが連携して何か新しい事業を推進していくことである。

11. 中小企業の現場から行政に提言

●中小企業に対する行政府の対応をどう感じているか。

私は、中小企業の政策審議会、産業構造審議会、それから文部科学省の審議会などさまざまな委員も仰せつかっている。今までは中小企業の支援をする異業種交流会だとか中央会だとか、あるいは団体の幹部の方々が委員会のメンバーに入っておられた。それに加えて、中小企業経営者を委員に指名するということは、やはり現場で何が起きているのか、どのような支援をすれば有効なのかということをダイレクトに吸い上げるということが重要になってきたのではないかと考えている。しかも利用する立場でどういう政策がいいのかを提案するということ。私は国は大きく改革に取り組んでいると思っている。

ものづくりとか中小企業という視点というのはどちらかというと、それほど重要視されていないのではないかと思われているが、決してそうではなく、大変な変革が実行されていると考えている。

国のIT戦略本部の場でも、中小企業と大手との情報のやり取り、受発注についてどんどん提言している。国はもう10年もこのIT支援策を実施してきた。大企業は、もう導入は終わったし、ペーパーレスになったというが、中小企業はまだITの有効活用という面では発展途上である。また、「IT経営」というキーワードで、ITを基幹業務に取り込んでいくことが重要である。

利用するという視点でITを見ると、やらなければならないことがまだ多い。発注を電話とかファックスでやっていたのでは話にならない。ブロードバンド時代になっているのだから。

総務省と経済産業省、また経済産業省の中でも本省と中小企業庁との間で政策がそれぞれ計画されており、内閣府で国としての方針を決めている。平成20年度の概算要求でIT関係への重点化が盛り込まれている。

12. 囲碁の大局観

●応接室に囲碁の林海峰さんと小川誠子さんの色紙が飾ってある。

私は、学生時代に囲碁部の部長をやっていた。「財界」という雑誌で女流棋士の小川さんと対局をやらせていただいた。囲碁はよく、先を読むといわれるが、経営とすごく関係ある。囲碁の言葉にはいろいろあるが、布石というのはまさにそう。定石というのは囲碁の基本だ。おか目八目も経営にぴったり合う。大局観というのも大体囲碁である。要するにちゃんとしたスタンスが大切であるということを教えている。

これからも自社の繁栄から地域の活性化に貢献していきたいと思っている。

*1
異なる分野の事業者が連携し、経営資源(設備、技術、ノウハウなど)を組み合わせることにより新たな事業分野を開拓すること。平成17年4月「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」が施行され、新連携で新事業にチャレンジする中小企業を支援する制度がスタートした。