2008年2月号
特集  - 人文社会科学系の産学官連携
高精度な小規模店舗売上予測・立地判定システムの開発
-統計データ解析し高い精度の方程式-
顔写真

丹生 晃隆 Profile
(たんしょう・てるたか)

島根大学産学連携センター
講師、産学連携マネージャー


島根県出雲市の経営コンサルティング、有限会社アシストは島根大学の野田哲夫教授と共同で小規模店舗の売上予測・立地判定システムを開発した。統計データを解析し、予測精度の高い方程式を導いた。

はじめに

飲食店やコンビニエンスストア等の小規模小売店舗の出店計画は、立地条件や商圏等から売上予測を立てる方法が主流であった。しかし、この手法は経験と勘に頼る部分が多く、予測精度のブレも大きいという課題があった。小規模店はデータやノウハウの蓄積がほとんどなく、統計データから裏付けのある予測値を算出するシステムが求められていた。島根県出雲市の経営コンサルタント、有限会社アシストの萬代幸次社長は、このシステムの心臓部となる統計データの解析で島根大学法文学部の野田哲夫教授と連携し、予測精度の高い方程式の導出に成功した。開発された予測システムは、小規模店舗の売上予測・立地判定に活用されている。

連携のきっかけ

有限会社アシストは、1999年1月に島根県出雲市に設立された。萬代社長は、経営コンサルティングにあたって、「科学的手法を用いた経営戦略」を重視しており、以前から統計データの解析による精緻(せいち)な売上予測システムの開発に関心を持っていた。まず2002年に大規模店舗の売上予測システムを自治体の助成金を用いて開発し、このデータ収集過程で、商業統計メッシュデータを精緻化・実態化した独自の商業統計データを整備していった。その後、中国経済産業局の情報政策担当者との意見交換の中から、地域のニーズは小規模店舗の売上予測にあるのではないかという着想に行きつき、統計データの解析で大学との連携を模索。2003年に財団法人しまね産業振興財団の担当者から紹介されたのが島根大学の野田教授であった。

野田教授の専門は情報経済論・情報産業論で、情報・サービス産業に明るく、統計的な分析手法にも精通。萬代社長は、収集した商業統計データをすべて提供して、大学側にその解析を依頼することとなった。

連携の過程

連携事業の実施にあたって、アシスト社は、2003年に経済産業省IT活用型経営革新モデル事業に応募し、採択された(採択テーマ:「高精度小規模店舗売上予測・立地判定システムの開発と業務の効率化」)。総事業費の半額補助を受け、大学への委託研究経費についてもこの事業から捻出(ねんしゅつ)されている。

小規模小売店舗の売上予測システムの具体的な開発方法としては、まず、出店予定店舗地域における実在店舗の実地調査データ(敷地、敷形、交通量、看板、視界等の立地条件)およびGISデータ(人口、人口密度、年齢別・世帯別人口、住宅数等の地理情報データ)を調べ、売上高との相関を求める。次に、売上高を被説明変数とする重回帰分析を行い、実地調査データとGISデータによる売上予測の方程式を導出した。

アシスト社がデータ提供、大学側がデータ分析という役割分担はできていたが、時として、野田教授は研究室の学生を連れて、実地調査データの収集にも同行した。これは、野田教授にとって統計データの定性的側面を把握することができ、学生にとっては、経営データを取り扱うという、生きた「教材」にもなった。野田教授によると、この経験はその後の学生の就職先にも影響を与えている。

一方で、アシスト社側も、分析者(大学)側の先入観を排除させるために、個々の店名を伏せてデータを提供した。また、経営コンサルタントとしての経験則も排除し、大学側には、純粋な科学的見地からの統計データ分析を依頼した。萬代社長は「ここには産と学との緊張感があった」という。

アシスト社と野田教授は、その後も2004年、2005年と連携を継続し、予測システムのより高精度化を図った。2004年には、アシスト社の経営コンサルティングの実行ツールの1つとして実用化され、実際の小規模小売店舗向けの売上予測・立地判定システムとしてサービス提供を開始した。

連携の成果

萬代社長によると、売り場面積500m2以下の服販売店、コンビニエンスストア、飲食店で、このシステムの売上予測精度は80~97%という高さを誇り、精度の面で他システムとは一線を画しているという。この予測システムは、新規の出店計画にとどまらず、既存店の経営基盤評価や、土地活用、都市計画にも応用可能であり、経営コンサルティングの幅を広げるツールとして、活用が期待されている。

さいごに

研究シーズが見えにくい人文社会科学系分野の事例を紹介させていただいたが、野田教授の統計的分析技術は、まさしく大学が保有する「ソフト」の研究シーズであり、売上高と立地諸条件との関連性の解明は、「科学」にもつながるものである。そして、予測システムの開発という産からのニーズを元に、大学の研究シーズとのマッチングが行われ、具体的な連携を通じて実用化につながって行った。萬代社長は「連携がうまくいった大きな要因は大学と信頼関係を築けたこと」という。

理系分野と違った、特別な成功要因が働いたのではない。大学保有の研究シーズ、産業界のニーズ、マッチング、そして、連携における信頼関係、これらはあらゆる連携活動において重要な要素である。人文社会科学分野の産学官連携はまだ模索中のところが多いかもしれないが、その分可能性は大きい。人文社会科学分野だからこそ提供できるソフトな研究シーズをさらに見いだし、産業界、地域社会のニーズとマッチングした時に、さらなる発展も期待できるのではないだろうか。