2008年5月号
巻頭言
顔写真

興 直孝 Profile
(おき・なおたか)

静岡大学 学長




知の拠点としての大学から

静岡大学といえば、浜松高等工業学校の高柳健次郎先生を想起される方が多いと思う。先生の技術開発への取り組みの姿勢は、その後の静岡大学工学部教員、卒業生に引き継がれ、多くの輝かしい成果が挙げられている。あのNHK の「プロジェクトX」で取り上げられた、180 ものプロジェクトの中で、12 のプロジェクトが実に、その偉業なのである。地域の活性化に大学の技術的支柱としての役割が重要といわれる、そのトップを行くのが静岡大学浜松キャンパスなのである。

浜松地区はわが国の中で、最も活性化が期待される地域だが、繊維、自動車、ピアノ、光産業など継続的な異業種の勃興(ぼっこう)が見られており、国内外の関心が注がれている。一方、そうした生産の拠点を近くの県内や外国に移転する動きも見られ、この地域には次世代への取り組みの期待感が台頭している。こうした中で、東三河地区との広域連携協力など新しい展開も見られる。ものづくりにおける地域を挙げての産学官連携が進められ、この展開に対して浜松医科大学、豊橋技術科学大学、静岡大学浜松キャンパスの連携協力の重要性も一層高まってきている。一方、静岡県中部から東部をもカバーし、全県下の大学等の研究活動が個々にあるいは連携して進められ、それらの研究成果の技術移転が関係者間の共通の課題となっている。

大学等の法人化とともに、研究成果の法人帰属化が確実に進み、一方、それは知財活動のための経費の増大を招いてきている。特許出願に当たっての特許マップの作成や、市場性の調査を着実にこなすことからライセンシング活動に至るまでを知の拠点である大学等に求めるのは大変なことである。大きな大学は別として、大学の知財本部と連携協力し、一体感を持って活動できるTLO が必要とされる認識が広く共有されるようになってきたが、知財活動を十分に実施するには技術的・経済的な基盤の充実が必要である。

今回、産学官連携戦略展開事業が実施されるのは、時宜を得た取り組みと高く評価する。静岡大学は多数機関の活用するTLO の育成強化に努め、大学等の関係機関等との一体感を持った活動ができるよう行動をとっていく。もとより、全国に展開する競争関係のTLO 間との連携協力とともに、長くわが国の知財活動において輝かしい実績を挙げてきたJST との連携強化は、今後重要な鍵であると考えている。特許マップの作成時には、ライセンシング活動のめどが見えてくる発明だけが輝きのある発明なのだろうか。

2007 年11 月の第7回産学官連携サミットにおいて、R. レスターMIT 教授が、わが国の産学官連携活動を評価する見解を述べていた。その趣旨は、地域における産学官連携への活動の場の提供にこそ意味があり、途端に知的財産の取得活用に役割がおかれるものではないということを明言されたことを想起すべきである。TLO 活動には各地域に特有の事業の求められるもの、まずは技術移転人材の育成、情報の共有化などがあるが、今後は、こうした議論が深化して、新しいタイプの素晴らしいTLO を構築していくことが重要であると考えている。この中で、知の拠点である、大学が担う役割をしっかりととらえることが必要である。