2008年5月号
特集  - 自然エネルギー
太陽光発電
世界の太陽電池市場 ドイツなどの電力買取制度で激変
世界の太陽電池の市場が揺れ動いている。欧州で家庭や事業所の太陽光発電システム導入に弾みがつき、これに伴って太陽電池の需要が急拡大。シリコンは極端な品薄に陥っており、大手太陽電池メーカーの生産量の順位も入れ替わっている。こうしたなかで、シャープは当面、薄膜系に集中投資していく。太陽電池市場は従来、結晶系一本で来たが、最近、薄膜系の技術が向上し市場に出るようになった。同社は2012年には、結晶系と拮抗するくらいまで生産量が伸びると予測する。

世界の太陽光発電をリードしてきた日本に異変が起きている。太陽光発電システムを主要な用途とする太陽電池の需要は欧州を中心に年率30~40%の急成長を続けているが、日本の市場は停滞。わが国メーカーの生産量も伸び悩んでいる。

急拡大している世界の市場

市場急拡大に火を付けたのは、ドイツが2004年に導入した電力の買取制度である。「フィード・イン・タリフ」と呼ばれる。家庭や事業所が太陽光で発電した電力を、電力会社が従来の電力より割高で買い取るよう義務付けたものだ。買い取りは20 年間保証される。

同国政府の地球気候変動諮問委員会は、2040 年には世界の電力需要の4分の1を太陽光発電が賄うと予測している。風力、バイオマス、水力、地熱など再生可能エネルギー全体では82%に達するという予測内容だ。上記の買取価格が転嫁されて、同国の電力料金は1割ほど上がったが、環境で主導権を握るため太陽光発電の導入を促しているとみられる。

ドイツの買取制度はスペインやイタリアなど周辺のおよそ20 カ国に広がっている。一方、わが国では住宅向け補助金制度は2005 年度で打ち切られた。

太陽光発電システムの普及ではわが国は世界をリードしてきたが、年間導入量は2年前にドイツに抜かれ、現在はドイツ、スペイン、米国に次ぐ4位まで下がっている模様だ。

生産量トップにドイツ・Qセルズ

太陽電池の生産量はどうか。2006 年までの7年間、シャープが世界一だった。さらに、世界の大手5社のなかに、京セラ、三洋電機、三菱電機も入っていた。しかし、2007 年はドイツのQセルズがトップに躍り出た。中国のサンテックが好調な欧州向け輸出を背景に躍進。この結果、同年の生産量はQセルズ、シャープ、サンテック、京セラという順番になった。

急激な市場の拡大でシリコンが極端に不足し、スポット価格は以前の2倍ほどに高騰している。日本の太陽電池メーカーの生産伸び悩みの背景には、シリコンの供給面からの制約もあるといわれている。

「日本だけが住宅用の系統に太陽光発電をつなげるという研究をしてきたことが、後に住宅用太陽光発電の分野で日本が世界を一歩リードするようになった一番の理由」と、黒川浩助東京農工大大学院教授は『なぜ、日本が太陽光発電で世界一になれたのか』(新エネルギー・産業技術総合開発機構= NEDO 発行)のなかで語っている。太陽光発電システムを電力会社の商用電力系統につなげるシステムを「系統連系システム」というが、この系統連系を利用して欧州の需要が爆発的に増加しているわけである。

シリコン不足に象徴されるように、ドイツの買取制度は「市場を歪めている」という声は海外にもあるし、国内でも「需要の伸びに供給が追いつかない現状は、普通の姿ではない」(シャープ)とみる。

日本のメーカーはどう対応するのか。シャープの戦略を探った。

シャープ、薄膜系に集中投資

シリコン系の太陽電池は結晶系(単結晶、多結晶)と薄膜系(アモルファス、微結晶)に大別できる*1。結晶系は変換効率が高いが、コストは高い。一方の薄膜太陽電池はガラス基板の上にシリコンを薄く堆積させた構造(写真1)。効率は低いものの次のような特長がある。

写真2

写真2 シャープ株式会社
     ソーラーシステム事業本部副本
     部長兼次世代要素技術開発セン
     ター所長 佐賀 達男氏

シリコンの使用量は結晶系の100 分の1と原材料が大幅に削減できる。
生産工程が短く、量産効果によりコストを下げられる。
温度特性に優れ、温暖地域での発電量が高い。

「市場は結晶系一本で来たが、最近、薄膜系の技術が向上し市場に出るようになった。結晶系と競合し、薄膜系のシェアが急速に上がっている」と佐賀達男ソーラーシステム事業本部副本部長兼次世代要素技術開発センター所長(写真2)は語る。同社は、2012 年には結晶系と拮抗するくらいまで薄膜系の生産量が伸びると予測する。

写真1

写真1 薄膜太陽電池

同社は2005 年9月に、「タンデム型」という2層構造(アモルファスシリコンと微結晶シリコン)の薄膜太陽電池の量産を開始。今後、3層構造(アモルファスシリコン2層と微結晶シリコン1層)にすることで、業界トップレベルの約10%の変換効率を実現していくという。

「当面は薄膜に集中して投資していく」と、佐賀氏は明快だ。

現在、年間15 メガワットの葛城工場(奈良県葛城市)の薄膜太陽電池生産量を、今年10 月までに160 メガワットにまで増強する。

また、同社は大阪府堺市に薄膜太陽電池工場を建設することは前に発表しているが、第一次展開として480 メガワットの生産体制を整え、2010年3月までに生産を開始することを明らかにした。堺新工場の薄膜太陽電池は主として欧米向け。同工場はトータル1ギガワットの生産規模まで拡張可能だが、拡張分は国内やアジア市場の動向を見て判断する。

薄膜系が温度特性に優れているというのは次のようなことである。モジュール表面温度25 度のエネルギー出力量を基準にすると、結晶系太陽電池は75 度になると20%以上低下するが、薄膜系はその温度でも10%強しか下がらない。「地域によって、特性に応じて活用することが望ましい。欧州、米国、カナダ、東アジアの高緯度地域では結晶系が優位だろうが、南欧・中南米、中東、アフリカ、東南・南アジア、オセアニアでは薄膜系が適している。今後、すみ分けが進むことになるだろう」と佐賀氏はみている。

研究開発・産学官連携

振り返ってみると、太陽電池の第1世代は結晶系とアモルファスの1層。第2世代は薄膜、化合物、集光型など。これとは異なった分類の仕方もあるだろうが、これらに続く、いわば第3世代はいままでにない全く新しいタイプのものがでてくる可能性があり、これからいろいろなアイデアが実証されていくことになる。

NEDO は今年度から「革新的太陽光発電技術研究開発」という委託事業を始める。企業、大学など何カ所かの研究開発拠点を設け、「変換効率が40%超かつ発電コストが汎用電力並みのキロワット時当たり7円」への達成の方法を探り、可能性を実証するのが狙いだ。

シャープは2000 年から宇宙用太陽電池の高効率化のため、ガリウム砒素系の太陽電池の研究を開始しており、それを地上用に応用した集光追尾型は現在「開発」段階にある。「レンズを使い、小面積の太陽電池で多くの電力を発電しようというもので、もともとは人工衛星用に開発された高性能な太陽電池である。一点に集光するため、太陽からまっすぐに注ぐ直達光を受けなければならない。言い換えると、太陽光とそれを受ける太陽電池が常に直角になっていなければならない。そこで、太陽の動きに合わせて太陽電池全体を動かす必要がある」(佐賀氏)。

湿度が高かったり、ちりが多いと光が散乱してうまく集光できない。乾燥しているオーストラリア、北アフリカ、南欧などでの利用に適しているという。

一方、「色素増感型」という太陽電池はまだ「研究」段階だ。産業技術総合研究所や他社と連携して取り組んでいる。

また、同社は2007~2008 年度、大阪大学大学院工学研究科と共同研究を実施している。液晶と太陽電池などのモノづくりを革新する環境配慮型次世代生産技術に関する共同研究講座を設置している。省資源かつ省エネルギーの基盤技術の確立を目指している。

展望

米国・シリコンバレーが「ソーラーバレー」とも呼ばれるようになったというように、この分野の研究開発の裾野は広がり、エネルギーとしての太陽光への視線は熱くなるばかりだ。前述のドイツ連邦政府地球気候変動諮問委員会の予測では、2100 年の世界の1次エネルギーの3分の2近くを太陽光が占める。90 年以上先のことだから、希望的な見通しともいえるが、それだけ期待していることの表れだ。

激変する太陽電池市場。こうした経営環境の変化はメーカーにとって「チャンスでもある」(シャープ)。

とはいえ、わが国では太陽光をはじめ水力、風力、バイオマスなどの自然エネルギーへの関心はいまひとつ盛り上がっていない。行政の施策もこうした自然エネルギーを補助的なものとしかみていない。逆に、これらを前面に据えてばく進する欧州諸国。彼我の差は大きい。

しかし、最大の問題は、わが国の太陽電池市場の影響力やメーカーの力が小さくなっていることではなく、こうした危機意識が広く産業界や国民各層に共有されていないことだろう。

わが国の企業と大学の間だけでなく、「民」とのさまざまな連携を通して議論を起こしていく——それが、メーカーへの応援歌になるはずだ。

(本誌編集長:登坂 和洋)

*1
他に、化合物系、有機物系などがある。