2008年5月号
単発記事
これなら実現できるぞ エクセレント・ベンチャー企業成長シナリオ
顔写真

高橋 四郎 Profile
(たかはし・しろう)

財団法人みやぎ産業振興機構
総括プロジェクトマネージャー/
東北イノベーションキャピタル
株式会社 取締役/社団法人東経
連事業化センター・産学マッチ
ング委員会 委員長

高い技術は持っていても、ビジネスとしてなかなか成功しない企業は多い。中小企業やベンチャー企業の支援に携わっている筆者が、成長軌道に乗る秘訣(ひけつ)を披露する。その1つは特許戦略であり、妥協を許さぬハンズオン支援である。

技術、ノウハウを評価されながら、期待通りに成長しないベンチャー企業が多い。どういう企業が伸びるのか、どうすれば成長軌道に乗れるのか。あるいは、中小企業が新規分野に進出する場合の成功の秘訣は何か。

環境テーマ事業でも特許の裏付け

環境テーマ事業の株式会社リセルバー(宮城県大郷町)は3年ほど前に起業し、畜産排水、廃水汚泥、食品加工廃水などの浄化事業を展開している。

それらの貯蓄槽などに1%以下のセルロースから作られる特殊脱水助剤を0.1%以下の凝集剤と共に混合し脱水することにより、超低含水率固形物と脱臭効果、BOD(生物化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質量)、P(リン)の吸着除去効果を持つ。技術的な論理付けなどは東北大学や産業技術総合研究所(産総研)の支援を得た。

同社は韓国でも特許を確立し、このほど同国T商社とのビジネスが成立した。売買契約条文は韓国内独占販売契約で年間5システム以上販売し、初期ロイヤルティは1 億円、ランニングロイヤルティ5%という骨子である。発注元の予定は京畿道の利川市と安山市である。2008 年2月初め、わが国で行われた最終実験と売買契約には同国の元環境省局長と草堂大学環境工学教授も立ち会った。

この案件は2003 年より財団法人みやぎ産業振興機構の実践経営塾フェーズ1で特許化やロイヤルティの回収、極東での商売の仕方などを緊密な関係で指導、支援してきた。

環境問題は特許化可能なもののみ中小企業でもビジネスになり得る。同社はこの先はアジア全域で事業を展開する計画である。これはハイテク事業とは決して言い難いが、こうした特許戦略の重要性を世の中のハイテクベンチャーこそ認識し、経営にしたたかに組み込んでほしい。

エクセレントな事業シーズを持つ大学発ベンチャー企業

ベンチャー企業がデスバレーを迎えるのは製品や事業の内容が悪いか、経営陣が悪いかである。大学発ベンチャーの製品は優れており、華麗といえる程の特許で守られている場合が多い。しかし、マーケティング、セールスが総じて弱い。特に、営業、財務責任者の補充強化が求められるが、社長は経営資源の配分からこれを後回しにしがちだ。

大学発ベンチャーのA社(宮城県仙台市)は開発型および高付加価値小規模生産指向で、思うように事業が拡大しなかった。大量販売の最終製品市場は幅広い分野で応用商品が見込めるが、価格低下や物量の多さを心配して経営陣がなかなか方針を変えなかった。

一方、2007 年4月、次のようにデスバレーを脱出し、エクセレントカンパニーを創出する支援スキームを作り、決して妥協を許さない強力な姿勢で臨むことにした。財団法人みやぎ産業振興機構の月2 回の実践経営塾のうち1 回をフェーズ2とし、ビジネスプロデューサー(Biz.P)9 名に東京などから来てもらうことにした。自治体の事業でこの水準まで必要かという、県財団のメンバーの疑問もあったが、3 カ月もかけて議論し、了解点に達した。

ミッションはデスバレーを回避する事業拡大、販路開拓、組織、人事などの経営支援とした。Biz.P たちは塾以外の日も支援先を訪問することが多くなっている。そして、A社社長もBiz.P と共にトップセールスし、複数の大手ユーザーの強いニーズを感じた。また塾長、Biz.P との度重なる本音、本質論の語り合いにより、経営方針をコンスーマ商品の大量受注へ転換した。ここにこの大学発ベンチャーは優れた新規技術で永続的な事業の拡大ができる見通しを手中にした。既に管理系の人材も送り込み、これからは人材投入と共に生産体制強化支援を約束してある。

プロによる真摯(しんし)な支援が1ベンチャー企業を離陸させつつあるが、妥協を許さず、経営者と共に行動し、胸を割り、心の底まで方針や政策について語り合うことが地域振興と、われわれは学んだ。優れたデバイスは機器ほどプライスエロージョンはない。

マッチングを活かす

社団法人東北経済連合会は昨年、科学技術振興機構(JST)からFS資金援助を受けて技術シーズ移転事業を強化した。FS資金は大学等の技術シーズを地域の中小企業に移転し、事業化のための調査、国の競争資金など確保のための試作、評価などに充てる。東経連事業化センターマッチング委員会は東北大学のシーズをはじめとした年間20 件のマッチングとFS資金200 万円を7社に提供した。JST にはそれらの事業化支援コーディネートで報いる。さらに金型製作の株式会社松栄工機(宮城県大崎市)の非接触磁気式歯車装置の技術、特許を、産総研のマッチング委員等の仲介で大手企業B社との大型物流システムとしての商品化が間近である。当社は元気企業の第二創業モデルと位置付けている。

この技術は、磁気を利用するので歯車同士が接触しないで動力を伝達できる。対面だけでなく、軸同士を直角に交わらせることも可能だ。歯車の摩耗による粉じんが発生しないので、クリーンな歯車として半導体や液晶工場での採用や、自動車の各種モーターでの実用化検討が進んでいる。ここにはこれまでの5 年間に多くの組織に支援してもらっている。新規事業化・経営改善支援の実践経営塾、投資・ハンズオン支援の東北イノベーションキャピタル株式会社、特許支援の東経連戦略委員会などの多彩な支援メニューである。

地方の中小企業は下請け企業から脱却し、知財を確保して、大手にほれ込まれる水平連携企業にならなければいけない。そうした水準の企業創出の支援例である。