2008年5月号
単発記事
MEMS技術がつなぐ国際的なイノベーション・ネットワーク
-スイスCSEM社が東北の地域連携をサポート-
顔写真

戸津 健太郎 Profile
(とつ・けんたろう)

東北大学 産学官連携推進本部
助教
仙台市MEMS 開発ディレクター

仙台市を中心に東北地方でMEMS(微小電気機械システム)産業の創出に産学官で取り組んでいる。スイスのCSEM社に地域連携を支援してもらうことになった。同社は同国政府、州政府および企業によってつくられた企業で、大学などの基礎研究と、新技術の事業化と橋渡しする役割を担っている。このノウハウを伝授してもらおうというわけである。

仙台におけるMEMS産業創出

2004 年10 月に宮城県知事、仙台市長、東北大学総長、社団法人東北経済連合会会長らが発起人となり、「MEMS パークコンソーシアム」(代表・江刺正喜東北大学教授)が設立された。情報提供、人材育成、ネットワーキング、事業化コーディネートなどの活動により、地域におけるMEMS*1 関連産業を創出しようとするものである。MEMS 研究開発の中心を担う東北大学では、社会に役立つものづくりを行うことを目標とし、積極的に産学連携を進めている。地域企業との連携にも力を入れており、製品化に至った例も出てきている。

このような状況の中で、仙台・宮城・東北地域を拠点とした新たなMEMS プロジェクトの発掘と今後の事業化インフラの整備を目指し、2007年に独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業として「東北地域における中小企業とMEMS 関連産業分野の連携構築等による産業支援方策検討」(以下「本検討」と記す)を行った。株式会社三井物産戦略研究所が委託先となり、海外協力機関として、スイスCSEM 社(Centre Suisse d’ Electronique etde Microtechnique SA)が参加した。地域ではCSEM と協力関係にある宮城県が主にサポートを行った。

CSEMとの連携

CSEM はスイスの連邦政府、州政府および企業によって組織された非営利の株式会社である。大学や公的研究機関が行う基礎的研究と、新技術の製品化の間のギャップを橋渡しする役割を担っている。具体的には、大学等と連携した新技術の開発、製品化に必要となる応用技術を中心とした技術プラットホームの形成、顧客ネットワークの構築、マーケット情報の収集、スピンオフ企業の創出支援等を行っている。技術としてはMEMS を含むマイクロシステム、システムエンジニアリング、フォトニクスの分野を中心に扱っている。

MEMS 技術の実用化には、幅広い情報、技術が必要であり、技術を提供する側と使う側の両者の擦り合わせが極めて重要になる。地域においてMEMS を利用した新製品・新サービスの開発に取り組んでいるが、これらを地域の力だけで行うことは容易ではない。このため、本検討を通じてわれわれは新技術をビジネスに結び付けることに長けているCSEM のノウハウを一部用いることを考えたわけである。

2006 年にも筆者を含め地域関係者が延べ1 カ月程度CSEM に滞在し、MEMS 関連の技術経営(MOT) の研修を受けた。今回は、地域関係者がCSEM の関係者とともに東北大学等の技術提供者、開発者、サービス提供者らと打ち合わせを行い、東北地域で考えられる新たなMEMS 活用ビジネスモデルを検討した。東北大学を中心とする技術、MEMS パークコンソーシアム参加企業や地域の中小企業の強み、そしてCSEM のビジネスモデル創出力を組み合わせて新たな価値を生み出し、地域社会に貢献することが最終目標である。

具体的なテーマには、ヘルスケア、農林水産・食品関連があがった。市場のニーズを明確にし、その上でビジネスとして可能性のある技術の組み合わせを考え、さらにサービスの提供方法、開発および製品化に必要とされる資金と期間、競争相手について調査、検討を行った。

今後の展開

新しい技術を製品にどのように結び付けるか? このためには、MEMS においても、最近、技術的な課題よりもビジネス開発に関する課題の比率が大きくなってきたと、大学人である私も強く感じる。この解決のためには、それぞれ得意分野を有する複数の機関の連携が有効であると考える。最新技術のみならず広く従来の技術を理解しながら、市場が要求する製品を開発するために適切なパートナーを選び、ビジネスモデルを構築しようとするCSEM の手法を学んだことは、われわれにとって非常に有益であった。

CSEM は、子会社のInnobridge 社と連携してマイクロシステムに関するマーケティングを行い、欧州における地位を確立している。また、大学等の新しい技術を積極的に取り入れようとする文化がある。CSEM の応用技術およびビジネス開発力、そして東北大学が有する世界有数のMEMS 技術を組み合わせることで、東北地域から、世界的に特徴ある製品が生まれるよう取り組んでいきたい。

*1
Micro Electro MechanicalSystems(微小電気機械システム)の略で、電気要素と機械要素を組み合わせた微小部品を表す。半導体の製造技術を応用した微細加工技術で作られる。小型化、省電力化、アレイ化、多機能化等が可能であり、高付加価値のものづくり技術として注目されている。自動車衝突検出やゲームコントローラに利用されている加速度センサ、家庭用血圧計に利用されている圧力センサなどが例である。