2008年6月号
特集  - 科学で地域を元気にする
公設試を核とした地域イノベーションシステムの
提案
顔写真

林 聖子 Profile
(はやし・せいこ)

財団法人 日本立地センター
立地総合研究所 主任研究員


公設試験研究機関は古くから地域中小・ベンチャーの製造企業の技術相談に応じ、信頼が厚い。大学は近年、地域貢献を使命の1つに挙げるようになったが、地域産業界とのネットワークはまだ脆弱(ぜいじゃく)である。地域企業からの信頼が厚く、ファーストコンタクト先である公設試が核となった「地域イノベーションシステム」を筆者は提案する。

はじめに

わが国ではグローバル化が進展する今日において、国際競争力を優位に保つために知財立国を目指し、産学官連携を啓発してきた。2007年には長期戦略指針「イノベーション25」*1が決定され、イノベーション立国の実現を目指す方向性が打ち出された。イノベーション立国を具現化するためには、各地域のプレイヤーである地域中小・ベンチャー企業等が、継続的にイノベーションを創出することが必須である。地域中小・ベンチャー企業の経営資源には限りがあるため、不足している資源を補完サポートする地域イノベーションシステム(Regional Innovation System、以下RISと略す)が必要である。しかし、現状では産学官連携の活発化により、従来の相談先である公設試験研究機関(公設試)に加えて、大学、産業支援機関、TLO等相談先が増加し、地域中小・ベンチャー企業ではどこへ相談すればよいのか混乱が生じている。多様な相談先からの、さまざまなアドバイスへの選択眼も必要となってきている。

そこで本稿では、地域中小・ベンチャー企業が継続的にイノベーションを創出していくために、従来から彼らが技術面で相談していた公設試を核としたRISについて検討し、提案することを目的とする。

本稿での提案はすべての地域に一律に適応するわけではなく、地元立地大学の地域連携が弱く、公設試のパフォーマンスが高い地域に適するものとしての1つの提案である。本稿での地域中小・ベンチャー企業は、製造業を中心として論じ、イノベーションは新しい価値を創造することととらえる。RISは、欧州等で1990年代から政策に応用展開され、Cookeらが議論している*2。わが国におけるRISの定義はいまだあいまいで、クラスター政策が主に展開される現在、EUでの「RISとは地域クラスターと支援機関の組み合わせで、産業クラスターに属する企業群と支援する知識機関と、これらの間の相互作用として構成される」*3が現状に近い。一方で「RISとは、地域開発の全体性に関する視点を提供する概念」*4との説もある。本稿では、地域で継続的にイノベーションを創出するためのステークホルダーすべてを包含するしくみと、広義にとらえる。

地域における産学官連携の施策動向
(1) 新事業創出促進法

1999年施行された新事業創出促進法で、各地域に新事業創出のための総合的支援体制として、産学官から構成される地域プラットフォームが構築された。その中核的支援機関には都道府県・政令指定都市の産業支援機関が配置され、公設試、大学、地域金融機関、弁護士・会計士・弁理士等、地域技術移転機関、ビジネス・インキュベーション施設等がネットワークを構成した。中核的支援機関とビジネス・インキュベーション施設は注目されたが、公設試が実施する技術指導に対して地域中小・ベンチャー企業からの評判は高いものの、地域プラットフォームにおける公設試への注目は希薄な状況であった*5。公設試と大学の連携も弱かった。

(2) 中央省庁再編後

2001年1月中央省庁再編が行われ、省庁協調での産学官連携施策等が推進されるようになり、産業クラスター計画の推進と知的クラスター創成事業との協力等が活発化した。

2002年知財立国を目指す方向性が示され、産学官連携への啓発が活発化したが、「地域」や「地域中小・ベンチャー企業」という視点は脆弱(ぜいじゃく)で、大学と大企業との連携が進んだ。

(3) 地域イノベーション

産学官連携や知財推進政策の啓発や実践が進み、次なるステージとして平成20年度から経済産業省では「地域イノベーション協創プログラム」が、5カ年で549.5億円の予算を見込み、大型のイノベーション創出研究開発事業等の展開が計画されている。2008年4月18日には経済産業省地域経済産業審議官の私的な研究会「地域イノベーション研究会」*6の最終回が開催され、地域発イノベーション加速プラン等が議論された。産学官連携ネットワークの一層の充実が挙げられているが、具体的な核は示されていない。

公設試の地域貢献

       表1 産学連携チャート:企業ニーズ+
            公設試研究+大学の評価試験

表1

公設試は古くは明治時代に設置され、地域中小・ベンチャー製造企業への技術指導を行い、地域産業をけん引し、実際地域企業からの信頼が厚い。地域中小・ベンチャー製造企業の産学官連携による新製品開発成功ケースは、企業のアイデアで開始し、公設試が研究開発と技術課題解決を担い、大学が評価試験を担当する表1*7*8のタイプが望ましいことが明らかになっている。

まとめ
図1

図1 公設試を核とした地域イノベーションシステム

地域におけるイノベーション創出のステークホルダーすべてが、有機的に参画できるRISの構築が急務である。これまであまり地域へ目を向けてこなかった大学の場合、近年の産学官連携政策の展開により、地域貢献をミッションに掲げるようになったものの、地域産業界とのネットワークは脆弱である。そのような地域において、地域中小・ベンチャー企業等のファーストコンタクト先は、地域で研究開発や技術指導を行っている公設試が望ましく、公設試を核としたRISを提案する。公設試を核としたRIS(図1)の推進には、 公設試が機能強化に加え、産学官連携コーディネート力をつけていくことや、地域のステークホルダーへ、地域中小・ベンチャー企業が継続的にイノベーションを創出するために、自らが核となったRISで連携・協力・支援等を実施していくことの合意形成を速やかに行うことが肝要である。

*1
イノベーション25
http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/saishu/070601.html

*2
Braczyk, H.I.;Cooke,P.and Heindenreich, M. (eds.)Regional Innovation Systems second edition, Routledge, 2004.

*3
European Commission. European Observatory for SMEs 7th Report, No.3, 2002.

*4
北川文美.地域イノベーション・システムの構築に向けて‐国際比較の視点から‐.研究技術計画,Vol.19, No.3/4, 2004.

*5
林聖子.公設試と大学の産学官連携強化による地域振興.研究・技術計画学会第22回年次学術大会講演要旨集, 2007.

*6
地域イノベーション研究会 http://www.meti.go.jp/committee/summary/eic0001/index05.html

*7
林聖子.地域中小・ベンチャー企業の産学連携事例に見る産学連携チャート.日本知財学会第5回年次学術研究発表会予稿集,2007.

*8
林聖子.地域振興促進の一助となる産学連携チャート.産業立地.Vol.46. No.2, 2007.