2008年7月号
巻頭言
顔写真

星野 敏 Profile
(ほしの・さとし)

財団法人 日本立地センター
インキュベーション研究所長/
日本ビジネス・インキュベーション
協会 会長


テキスト

「ビジネス・インキュベーション」(BI)が日本に紹介された20 年前、それは人々を幸せにするマジックのように映り、海外の先進事例を学んで行われた壮大な建物を伴う試みは、わが国では極めて特異な存在であった。ところが現在、産学官公いたるところでこの用語が使われるに及んでいるが、その内容が、かつての「企業孵(ふ)化」という「戦術的な目的」から、現在は「産業創造」の「戦略的な手段」に変化していることを知る人はまだ少ない。また、この変化をもたらした陰に「インキュベーション・マネジャー」(IM)という新しいプロの存在があることを理解している人はさらに少ない。

初期のBI は、国内では先例のない中での取り組みで、そこで日夜努力したのがIM であるが、人間なら誰しも抱く職業と生きがいへの疑問の連鎖が今日の発展に貢献している。すなわち、企業孵化という命題に真摯に取り組み、年間で5件か10 件の起業家を支え、その結果、公的資金を投入したBI の収支が赤字だとしたら、資源を失うだけである。では、BI 利用者を厳選し、高額な利用料を得てBI の経営が黒字になれば地域振興なのか。それより真の必然から生じたBI の使命は何か、など尽きぬ疑問の果てにたどり着いたのが、高齢化や税収減など、国内を始め海外を含めた環境変化により、地域に忍び寄る生活危機を的確にとらえ、その対策を住民と行動を共にしながら解決するBI という生きがいであった。

それは、短期的、即効的なことではなく、産業創造という長期的な取り組みであり、政策とインフラと実行者の3つがそろって初めて達成される。これは戦略と表現されるが、軍事用語では真意が変わるので辞書をひも解くと、語源のギリシャ語テキスト は、英語では「A Strategy is a long term plan of action designedto achieve a particular goal」とあり、目的ではなく奇しくもIM たちが悩んだ末に到達し実行している手段である。

この実績により、今はBI を「産業創造」、IM を「産業創造の問題解決者」と意訳し、IM 養成をしており、そのIM は国の政策により、10 年かけて600 人弱が誕生し、わが国各地でテキスト のマインドを広めている。IM の起源は米国で偶然生まれたものであり、これを生命の営みに例えるなら、突然変異によって誕生した新種が、その後の環境変化に良く適応して生存するという、進化論に似ている。

このほど、日本ビジネス・インキュベーション協会を設立したので、テキストを中心に据え、現代に適応する新しい人材の存在と健闘を称えていきたい。