2008年7月号
特集  - 連携・統合から探る明日の大学
大学間連携の新たな展開
「共同学部・共同大学院制度」と「戦略的大学連携支援事業」

中岡 司 Profile
(なかおか・つかさ)

文部科学省
高等教育局大学振興課長


大学の経営環境は総体的に悪化しているが、新たな知識や技術を創出する大学の役割は高まっている。新たな研究組織の立ち上げが難しい中で、大学間連携が重要になっている。その新たな展開として、共同でカリキュラムを実施する「共同学部・共同大学院制度」と、国公私を超えた大学間の連携「戦略的大学連携支援事業」について説明する。

1. 共同学部・共同大学院制度

近年のグローバル化の進展に伴い、知識基盤社会において新たな知識や技術を創出する大学の役割はますます高まっている。このように増大する教育研究需要を的確に受け止め、積極的に教育研究を展開していくことは大学の使命でもある。しかし近年、大学の経営環境は総体的に悪化しており、新たな学部や研究科といった教育研究組織の立ち上げはままならない状況にある。

限られた教育研究資源を基に新たな教育研究組織を創設する場合、大学も1つの経営体である以上、スクラップアンドビルドが求められるわけだが、実績のある既存の組織も含めて臨機応変に再編することは、とりわけ伝統的な知の承継を担い、大学の自治・自律といった組織原理が働く大学の営みの特性上、難しい面もあろう。

図1

図1 共同学部・共同大学院制度の概念図

しかしながら、医工学の目覚ましい発展や創薬における医薬連携の重要性などの例を挙げるまでもなく、グローバル化する知的活動を通じて新たな知が無尽蔵に生み出される。このようないわば知の爆発ともいえる状況の下で人材需要は拡大し、大学がそれに呼応した人材育成を行う教育研究組織を迅速に立ち上げることを可能にするためには、スクラップアンドビルドだけでなく、より柔軟な対応を可能とすることを検討する必要がある。そこで、複数の大学がそれぞれの持つ教育研究資源を活用し、共同でカリキュラムを実施することにより、1つの大学では不可能な教育研究を展開することができるよう、「共同学部・共同大学院制度」を創設することとした(図1)。このことに関しては、既に平成19 年6 月の教育再生会議第二次報告、経済財政改革の基本方針2007 においても同様の考え方に根差した提言や閣議決定がなされている。

大学の基本組織は学部であり、大学院では研究科というのがこれまでの教育研究組織の伝統的なとらえ方である。大学の設置認可の審査においても、組織とカリキュラムの双方を見て学位にふさわしいものであるかが判断されている。従来は、カリキュラムと教育研究組織を1つの大学ですべて用意しなければいけなかったが、新たな制度では、複数大学がこれを共同で作り上げることも可能とするよう大学設置基準に特例を設けることとなる。

これまでも大学の研究者同士の共同研究はさまざまに展開されてきたが、教育も共同で行おうということについては、その必要性が中央教育審議会(中教審)などでも言及されてきた経緯がある。「共同学部・共同大学院制度」については既に中教審大学分科会で議論が始まっており、この夏ごろまでに設置基準等を定めるべく検討を進めている。今後、早ければ平成21 年の春には設置認可申請を受け付け、22 年度には共同学部・大学院制度を使った新組織がスタートすることとなる。

なお、このような複数大学が共同して1つのカリキュラムを提供するという動きは欧米にもあり、世界的な潮流と見るが、課題もある。教育の質をどのように担保するかだ。わが国においては設置認可制度におけるチェック機能の活用と分野別評価の推進が求められる。しかし、1つの国内にとどまらず、国境を越えた大学同士のジョイントディグリーの質をいかに保証するかという新たな課題については、グローバルな高等教育の質保証の議論の中で解決されるべきものである。

2.
戦略的大学連携支援事業

平成20 年度予算においては、大学教育の質の確保の重要性にかんがみ、大学教育の充実に向けた優れた取り組みに対する支援事業(いわゆるGP関連事業)にかかわる予算を前年度比65 億円増とした。中でも「地域振興」や「大学間連携」がキーワードとなり、国公私を超えた大学間の戦略的な連携を支援し、地方の大学教育を一層充実させるため、新規に「戦略的大学連携支援事業」を30 億円措置した(図2)。

図2

図2 戦略的大学連携支援事業

経済財政改革の基本方針2007 においては「国公私を通じた地方の『大学地域コンソーシアム』の形成を支援するための措置を平成20 年度から講ずる」とある。大学の連合体である大学コンソーシアムにおいては、これまでも大学間の単位互換をはじめ教育の厚みを増すための取り組みなどが展開されてきた。本事業は、各大学の資源の有効活用による教育研究環境の充実や大学間の連携強化が大学の個性化や特色化を加速し、教育研究水準のさらなる高度化に資する観点から、地域における大学間の取り組みをさらに深化させ、促進させることを目指したものである。

本事業は、大学間での戦略的な連携取り組みを柱に据えていることから、取り組みの将来的な目標を含んだ「大学間連携戦略」の策定を求めている。具体的な取り組み内容は各大学間で工夫することとなるが、例えば、IT等を活用した教育研究設備のネットワーク構築や共通・専門教育の先進的なプログラムの構築など、大学教育に直接かかわるものだけでなく、FD(ファカルティ・ディベロップメント)の共同実施や産学官連携、国際交流、事務局機能の強化など、さまざまな連携事業が考えられる。

本事業と今後制度化する「共同学部・共同大学院制度」は、双方とも大学間連携を促進させるものではあるが直接リンクするものではない。しかしながら、例えば将来的に共同研究科を構築する可能性がある旨「大学間連携戦略」の中で言及することもあり得よう。