2008年7月号
単発記事
ものづくりは人づくり
顔写真

大辻 義弘 Profile
(おおつじ・よしひろ)

経済産業省
中部経済産業局長


聞き手・本文構成:藤川 昇 Profile

(独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 産学連携推進部
人材連携課 技術移転アドバイザー)

ものづくりを支えるのは人材である。産学連携による実践的な人材育成、人材育成パスの柔軟化・複線化、世界の人材が集まる場づくり――などのキーワードがあるが、日本を代表するものづくり産地の中部地域でどう取り組んでいくのか。

人材育成にかかわるグレーター・ナゴヤ・イニシアティブ(GNI)

●2007年1月の産業構造審議会(最終報告書)を基に、大辻局長も参加されまとめられた『人財立国論』の中にはキーワードが幾つかあります。産学連携による実践的な人材育成、人材育成パスの柔軟化・複線化、世界の人材が集まる場づくりなどです。そういったことを前提にして、中部地域でどのように生かしていくのかについてお話しいただければと思います。

まず、中部地域で精力的に進められているグレーター・ナゴヤ・イニシアティブ(GNI)と人材育成についてお話しいただきたいと思います。

大辻 GNI活動において、人材育成はこれからの課題であるというのが実情です。GNI自体は外国企業誘致から始まって出てきた概念ですが、それが県境を越えて、広域でやっていこうということになり、だんだん範囲を広げビジネスマッチングの話にもなってきています。

例えば、クラスターで言えば、ロボットフォーラム――サブクラスターでロボットというのをやっているのですけれども、ロボットフォーラムにGNIの招聘(しょうへい)事業という形で呼んだアメリカの企業が関節技術(ハード)を扱っており、三重の大学と連携している三重電子株式会社が無線技術(ソフト)を持っている。普通IT系が向こうで日本がメカかと思っていたら、その逆で、アメリカ企業からの申し入れで即座に技術提携の話になったようですね。そこまできました。

多分、次に出てくるのが人材の交流ということになると思います。

産学官交流の広域版というのがGNIの概念にあり、かなり進化してきましたが、これからの課題で残っているのが人材育成で、GNIの枠組みによる産学官交流の海外とのインターフェースを通じてボリュームアップしていくことになるでしょう。

中部地域における産業人材政策は実践重視

●産学官交流による人材育成は、具体的にどのように進められるのでしょうか。

大辻 そうですね。本当は家庭からだと思いますけれども、小学校から企業までを視野に入れております。今まで、企業内での望ましい人材像が比較的同じようなタイプの人を企業内の職業訓練で養成していたわけですけれども、今や企業自体育てるべき人材像が多様化してきています。

それから、そもそも育ってきた価値観が今までと違って多様化しているということなので、『人財立国論』の中にありますように、複線的な人生が送れるような教育システムであるべきではないかと考えております。

もちろん教育には本来の教育の側面があるわけですけれども、われわれはそれを踏まえた上で別途、産業とのかかわり合いということで特化して地域を支える人材をどういうふうにつくっていくのかという観点で進めております。

そうしますと、企業単独で何かをやるということではなくて、大きな要素はやはり大学です。大学と連携してかなり高度な人材、特に大学院の場合は、企業の製造中核となる相当レベルの高い人、リーダーになっていける人材を産学官で育成するということになります。

われわれの進めている「製造中核人材育成事業」では、企業の人たちが大学院レベルのところに入って、また企業に戻って、理論も含めて自分のやっていることを数値化し、汎用化する、そういうことを幾つか行っています。

●むしろ企業の方を、企業から大学に派遣をするという形ですね。

大辻 この事業はそうですね。ですから、開講時間もどういう時間がいいのかなど企業の事情を大学も理解していただいて、講座をつくっていただいております。

もう1つ、高専とか工業高校になりますと、これはまさに中小企業の出番だと思います。例えば中小企業の方のところへインターンシップで行くとか、中小企業の方が工業高校の機械を使って何か教えてあげるとかですね。そうすると、そもそもの教育という面に加えて、実際のものづくりの実践現場を高専や工業高校の方々がより理解できるようになります。

どうしても地域の場合、昨今のように求人倍率がかなり良くなってきますと、採用面では大企業が先にたくさん採っていきますので、中小企業と高専、高校生との出会いの場をつくっていくことが重要になってきます。一方、小学校、中学校になりますと、子供たちの理科離れにどう対処するのかが課題です。大学や高専、ものづくり企業の方に来ていただいて理科講師をやってもらうとかいうことになるでしょう。ですから、大学、高校、高専、小学校で、それぞれ少し違うことをやらなければならないと考えております。

こういう実践的なことを、例えば、製造中核事業でやっている航空機を題材にして、三県にまたがった大型のプロジェクトとして進めていきたいと考えているところです。

●先ほどの「高専活用事業」の具体的な進め方はどのようなものですか。

大辻 高専は結構たくさんありますが、なかなか地域の中小企業と接点がなかったということで、中小企業の若手の方々ですね、企業に入って2~3年から4~5年ぐらいの方々が高専に勉強に行くのと、高専の先生方が企業と交流をするのとの双方向です。1年単位で3年間、私どもは支援をしております。毎年続けて研修生、技術者を出してくれる企業もございます。その間に、高専の方は地域の中小企業とどのようにお付き合いをしたらいいのかというノウハウを、3年間かけて確立するということです。

結局、教育機関の方に地域の実情をよくわかってもらって、その中で、プレーヤーの1人として、どういう参画をしていくことができるのかを示唆するということが、われわれの役所の1つの使命と考えております。産の側の要望、ないしニーズを的確に相手に伝えて、教育の方々にリアクトしていただくというのが仕事なんじゃないかと、こういうふうに思っております。これを中部地域を1つのモデル地域としてやっております。

●中部地域の特色であるものづくり集積の場であることを生かしておられるわけですね。

図1

図1 東海地域で展開する産業人材育成施策
     マップ

大辻 それはもうおっしゃるとおりですね。私も『人財立国論』とかをやってきたわけですけれども、学び直しだとか複線型人生とか、東海地域で展開する産業人材育成施策マップ(図1)などをあらためて見ると、これだけあるわけですよね。

中部地域の産業集積の中心は自動車ですが、それに加えて「サブクラスター」という言い方をしているものにロボットや組み込みソフトがあります。当地はITが弱いというものだから、車載組み込みソフトに特化したサブクラスターでやろうと言ったら、全国的な報道の効果もあり、立ち上げのフォーラムには600人ぐらい集まりました。

●航空機の開発計画というのはどのくらい進んでいるのでしょうか。

大辻 ものすごく部品の数が多くて、自動車が何万点というのに対して、数百万点ということで、100倍ぐらいの部品があるのが航空機と言われております。そうしますと、何が起こるかというと、十分なボリュームを持って生産のできるすそ野産業が必要なわけですね。そこで人材育成というのが、これからの大きな課題になると思いますので、それをサブクラスターという形で進めるつもりです。それから、今まで入っておられるすそ野産業の企業以外に、自動車産業とか工作機械をやっておられる企業がいらっしゃって、その方々も技術はものすごく高いものを持っておられますから、そういう方々の参画も期待しています。

●車自体がものすごくシビアな要求で、それに応えてきているわけですから、航空機というのは、またもう1つ難しいでしょうね。

大辻 そうだろうと思いますけれども、ただ、技術に応えていくということに関しては、この地域というのは、ものすごい能力、感性を持った方々がいらっしゃるので、そういう方々の参加の下に進めていきたいと思っております。

名古屋を中心に半径100キロという、アジアの中でもものすごく濃密な地域の中に、濃密にものづくり企業が集中しております。海外も長く経験しておりますが、香港から広州、それから上海地域、北京、大連市内というのに比べれば相当狭い範囲の中に企業が多重に集積しているというのが大きな特色です。日本の中でも、多摩、大田区とか東大阪などに比べても多重に濃密に集積していると言えるでしょう。

だからこそ、ワンステップアップ、ツーステップアップする人材育成というのがそういう中においてできるのではないかと考えております。

ただ、その間をコーディネートする人というのが重要ですね。もちろんある程度仕組みをつくるのは官の仕事なのかもしれませんけれども、産学両方を知っていてコーディネートできる人材というのがこれからの大きな課題でしょうね。ワンステップアップした産学官交流を進めていく場合の最大の問題点となるでしょうね。

●やはりそこが問題なんですね。

大辻 ただ、相当高度な悩みだと思います。

●これまで大学は研究中心できたから、今言われたようなコーディネートのところまではなかなかいかないでしょうね。

大辻 現在、大学はそうした企業の要望に応えるべくさまざまな努力をしていただいています。

さらに、中部地域自体が大きなクラスターの集合体なわけですから、新しいサブクラスターが出てくることにタックルしていくという、まさにロボット、それから車載組み込みソフト、航空機と続くということは、クラスターというのはいっぱいあって、サブクラスターのところで産学官交流をやってみようというのがこの地域の特徴だと思っております。

動き出した「アジア人財資金構想」

●最後に、アジア人財資金構想についてお伺いします。

大辻 日本企業の場合、グローバルなマネジメントというのはこれからの大きな課題だと思っております。それをやるには現地でさまざまな人を雇用するというのと、もともと日本にいる留学生の方々にもっと日本の企業に就職していただく、ないしは現地で活動していただくということが必要だという問題意識がありました。これは必然の流れですよね。

ですから、その成長戦略の中でアジア人財資金構想というのは大きな『人財立国論』の中の柱です。本の中で、タイ日工科大学というのがコラムで載っています。タイ日工科大学で技術的な面を含めて自動車産業の勉強をしてきた人が、アジア人財資金構想を活用して日本に来て大学院に入られるとか、そういう形態が非常に理想的だと考えております。

●具体的にはどのように進められるのでしょうか。

大辻 各大学と企業が組んで応募していただき、その中からすぐれたものを幾つか採択する方法をとります。これは平成19年度から始まっておりますが、2年たつと就職する人が出てくるわけですから、誠実に、そういう方々の能力、やってきた人材育成の授業の成果に応じたようなところに就職してもらえるよう、産学で協力しあって進めたいと思っております。

昨年度採択されたものは、最初4年間支援をさせていただくということになっています。その間に、大学は自分のところで大学生の教育プログラムを完備する、留学生の就職プログラムを完備するということですね。

もう1つの要素は、アルバイトしながら勉強しており、もう少し勉強に専念したいという方々に対しては、優秀な方にはフルブライトみたいな感じで、勉学に励んでもらえるような支援をすることです。

●『人財立国論』に述べられている、世界の人材が集まる状況をつくることもできますね。本日は大変お忙しいところありがとうございました。