2008年8月号
単発記事
琉球大学の特許 初の企業への移転
顔写真

宮里 大八 Profile
(みやざと・だいや)

株式会社沖縄TLO 非常勤取締役
(琉球大学 文部科学省産学官連
携コーディネーター:地域の知の
拠点再生担当)

沖縄TLOが、琉球大学から県内企業への初の技術移転を実現した。対象になったのは新エネルギーに関する特許2件。同大学で最も多く出願している研究者の特許について、同TLOで産学のマッチングを担当しているアソシエイトが何とか実用化したいと思い、企業にアプローチした。

株式会社沖縄TLO *1(沖縄県西原町。以下、沖縄TLO)は大学等の有する知的財産を産業界へ技術移転する機関である。平成18年3月に設立された。

国立大学法人琉球大学(以下、琉球大学)が所有する新エネルギー分野における2 つの特許について、精密板金加工から環境分野まで幅広いものづくりを行う株式会社日進*2(沖縄県西原町。以下、日進)に技術移転を行った。

琉球大学が有する特許技術を民間企業に移転する初のケースであり、実施使用許諾による契約を行い、イニシャルコストを抑え、製品化された後のロイヤルティを重視する成功報酬型で行った。これは、沖縄県内の企業の現状を考慮した結果であり、また、日進には、今後の成功モデルとして大きな期待を寄せているためである。

特許

ライセンシングした特許は琉球大学工学部電子・電気工学科の千住智信教授の「風力発電機のピッチ角制御装置」(特開2006-037850)と「電流形インバータのPWM 制御方法とPWM 信号発生装置およびこれらを用いた電力貯蔵装置」(特開2006-42504)。

太陽光発電や風力発電が注目されているが、自然エネルギーは不規則であり、特に風車出力は風速の3乗に比例するため、風速変動により出力が大きく変動する。風力発電の電源構成比率が大きくなると、連系系統の周波数変動が大きくなり、風力発電機の大量挿入時には電力系統に影響を及ぼすことが懸念される。

2つの特許の前者は風力発電機の発電電力を平準化する技術である。特に、パラメータ変動やウインドシェアに対しても発電電力を平準化することができるピッチ角制御装置を提供することが可能となる。

後者は、風力発電等の出力平準化、負荷平準化に使用される電力貯蔵装置などに利用することができるもの。特に電気二重層キャパシタなどの高性能なキャパシタを蓄電素子として利用した装置に最適に適用することが可能となる。

技術移転先の概要

今回技術移転を行った日進は、昭和62 年からステンレス・アルミ・チタン等の精密板金加工から太陽光・風力等の新エネルギーの環境分野まで業務を行っており、平成19 年には第2 回ものづくり日本大賞*3 の青少年支援部門の特別賞を受賞している。

これまで自社で行っていた研究開発および商品開発を加速させるため、平成19 年12 月より琉球大学地域共同研究センター(現、産学官連携推進機構)に入居し、大学との産学連携に取り組んでいる。今回、移転する技術により、自社技術によるさまざまなタイプの風力・太陽光発電の安定的な電力供給への応用を目指し、発電電力の平準化、蓄電効率性向上、電池寿命延長等の、高付加価値な商品開発への展開が期待されている。

さらに、新規事業として取り組むリサイクル発光ダイオード(LED)パネルを活用した屋外型大型電子広告事業の電力供給源および電力貯蔵装置としての活用も検討している。

産学を結び付けたきっかけ

今回の技術移転は、琉球大学の特許出願で、最も多く出願されている研究者の1人である千住教授の特許を産業界へ提供したいという思いから、技術移転活動を行い、高い技術力を持つ日進との交渉の結果によるものである。

交渉には、当時沖縄TLOのライセンシング・アソシエイトであった筆者が当たった。日進の津嘉山貞雄社長の「大学の先生は勉強も研究もできて、理論はバッチリかもしれないが、実際にモノを作って売るのはわれわれしかできないさ~。大学に眠っている資源を活用したいさ~」という一言が交渉のきっかけである。

交渉は、千住教授の特許16 件(平成19 年11 月時点)の洗い出しを行い、日進の商品の開発方針や事業展開も検討し、2 件の特許に絞り込んで交渉を行った。

さらに、特許を技術移転して商品開発・研究開発を行うだけでなく、琉球大学地域共同研究センター(現、産学官連携推進機構)に入居できるよう調整を行い、継続的に琉球大学のシーズを活用できるような産学連携の体制構築を行った。

その結果、現在では、日進の新事業展開として、千住教授の特許のみならず、琉球大学農学部の研究者との共同研究も準備中である。

沖縄TLOの今後の取り組み

沖縄TLOでは、平成20年4月から経済産業省の産業クラスター計画*4の一環である「OKINAWA 型産業振興プロジェクト推進ネットワーク」の事務局を担っている。これにより大学等のシーズと産業界のニーズとのマッチングが容易になり、産学連携が一層加速される。

今後も、沖縄地域における新産業創出による地域振興のテイク・オフ装置の役割を意識した事業展開を図り、積極的に技術移転を展開する。将来的には、地域におけるテクノロジー・マネージメントのプラットフォームを形成し、沖縄地域における新産業創出による「地域知財戦略を推進するエンジン」となることを目指していく。

*1
沖縄では、地域の特性を十分に発揮したフロンティア創造型の振興を推進し、地域資源・地域知財を活用した新事業の創出や既存産業の高度化が望まれている。そのような中、オール沖縄型の株式会社沖縄TLOが設立された。沖縄TLOでは、産業界からは敷居が高いとされる大学等へのアクセスを容易にし、特許の利用のみでなく、技術指導・相談の仲介、共同研究や受託研究の実現等を活発にし、「技術移転を中核とした新産業の創出を支援するオンリーワン企業」を着実に推進しているところである。

*2
株式会社日進 http://www.sus-nissin.com/

*3
第2回ものづくり日本大賞特別賞 受賞案件名「環境をテーマにした学べるおもちゃの家づくり支援」p17<http://www.meti.go.jp/press/20070802007/02_no2_mono_meti.pdf>

*4
産業クラスター計画 http://www.cluster.gr.jp/