2008年9月号
連載2
大学発特許から見た産学連携(前編)
大学発特許の「出願人」の実態
顔写真

金間 大介 Profile
(かなま・だいすけ)

文部科学省 科学技術政策研究所
研究員



背景と調査研究アプローチ

大学の知的財産は今、劇的に変化している。1998年から開始されたTLOの設立や、2003年の大学知的財産本部整備事業の施行、そして2004年の国立大学の法人化などが大学発特許の在り方に大きなインパクトを与えている。しかしながらわれわれは、大学の研究者がかかわってきた特許出願活動の全容を、必ずしも正確に把握していなかったのが実情であった。そこで科学技術政策研究所では、筑波大学、広島大学、東北大学の3大学をモデルとして、これらの大学の研究者が「発明者」としてかかわったすべての特許出願を把握・分析することで、大学の知的貢献活動の実態を明らかにすることを試みた*1

本稿では2回にわたり、このプロジェクトの結果およびそこから得られた知見を紹介する。第1回目の今回は、大学発特許の「出願人」の構造に焦点を当てる。

大学発特許の出願は以前から活発に行われていた?!

図表1 に、今回調査した3 大学の特許出願状況を示す。これらは、「出願人」に各大学名を含む特許だけではなく、「発明者」に各大学の研究者を含む特許を全て抽出した結果である。

特許出願件数の経年変化

図表1 3大学の研究者を発明者に含む特許
     出願件数の経年変化

一見してわかるように、2004 年の法人化前は、大学等に帰属するいわゆる機関帰属特許は非常に少なく*2、しかもその多くはTLO に帰属していることがわかっている。一方、企業(一部、研究者個人)を出願人とする特許は、法人化前から活発に出願されてきたことがわかる。これらの特許の帰属関係を表す最も典型的な例は、「発明者」の欄に大学の研究者および企業の技術者を記入し、「出願人」の欄に『○○株式会社』としているパターンであった。

ここに、国立大学が法人化する前の産学連携の実態が見てとれる。企業は、大学の個々の研究室と、共同研究や寄付金を介した緩やかなつながりを維持することにより、大学に蓄積されている科学的な知見や、新たな技術開発等における技術的な評価を得ていた。また、企業は、このようなつながりを通して、実験設備等の設備投資に踏み切る前に、大学にある設備を借用して事前の評価等に活用していた。このような活動の成果が結果的に、大学教官を「発明者」に、企業を「出願人」にした特許出願に結び付いていたと考えられる。

ただし、この形式には、いくつかのデメリットがあった。主な例としては、大学として成果の把握が困難、古くからつながりのある企業が有利で他の企業にとっては大学の敷居が高い、利益相反などのポリシーがあいまい、などが挙げられる。このような状況は、次に解説する国立大学の法人化により激変することになる。

法人化とともに急増する大学帰属特許

特許は通常、出願されてから1 年6 カ月が経過した段階で特許公開公報として公開される。国立大学は2004 年4 月に法人化されたことから、これに1 年6 カ月を加えた2005 年9 月までの公開公報のデータは、主に法人化前の出願動向を表していることになる。一方、2006 年の公開公報のデータは、基本的に法人化後に出願されたものだけを扱っていることになる。この特性を踏まえた上で、再び図表1 に目を戻すと、2004 年までは全体の数%程度であった機関帰属特許が、法人化を契機に急増していることがわかる。法人化により、多くの大学で原則機関帰属とする方針を打ち出した結果が現れている。

ただし、赤い折れ線で示されているように、大学発特許の数そのものが急増したわけではない。それまで主に企業に帰属させていた特許が激減し、大学帰属に切り替わったというのが実態だ。これは産学連携活動にとって非常に大きなインパクトがある。日本には、87 校の国立大学が存在する。大まかに推計しただけでも、年間数千件の特許の帰属が企業から大学へ切り替わったことになる。まさに法人化により、大学が法人として知的財産権を所有する時代が到来したといえる。

単独出願?それとも共同出願?

大学発特許には大学や企業あるいは研究者個人が単独で出願するケース(単願)と、これらが共同で出願するケース(共願)の2 通りが存在する。単願と共願では、運用面や活用面で大きな違いが出る。図表2 に、3 大学の単願と共願の割合の推移を示す。これを見ると、企業と大学との共願の割合は、大学によって異なっていることがわかる。東北大学では、過去から継続して共願割合は高いが、一方で筑波大学では基本的に低い状態が続いている。広島大学は、法人化によりその割合を増加させている。

民間企業との共同出願の割合

図表2 全体に占める民間企業との共同出願の割合

単願と共願には、それぞれメリットとデメリットが内在している。大学から見れば、単願とすることで特許のライセンス先を限定することなく、最も有効的に活用してもらえるであろう企業に対し、独自の判断でライセンス活動等を行うことができる。ただし、出願や登録、マーケティングの費用がかさむため、予算に限界がある大学では、おのずとその件数は限られる。また、2007 年4 月以降に適用された特許関連諸経費の減免処置の変更により、例えばそれ以前は免除されていた審査請求料を、大学は半額分負担することとなった。このように、単願とする場合には、予算面からも高度な知財経営が必要となる。

一方、共願とする場合、共同研究等の成果をそのまま参加企業等を変えることなく、同一メンバーで一貫して実用化まで目指すことができる。また、大学側としては、登録等の費用を企業に負担してもらうことも可能なので、予算的な負担を軽減しながら、特許出願等の成果を増やすことができる。ただし、特許法第73条にあるように、特許権の譲渡やライセンス等を実施する場合は、共同出願人すべての同意を得る必要がある。従って、単願の場合に比べ、利権構造が複雑になり、結果的に発明を実施する企業を限定してしまい、研究成果の最大化を阻害させてしまう可能性も否定できない。また、共同出願人となった企業が当該発明を実施する際に、大学側へロイヤルティを支払う等の不実施補償を行うかどうかが昨今問題となっている。

大学は、このような単願と共願のメリット・デメリットを考慮しながら、知財戦略を進めていかなければならない。

*1
金間大介;奥和田久美.大学関連特許の総合調査(Ⅱ)国立大学法人の特許出願に対する知財関連施策および法人化の影響.科学技術政策研究所,2008年6月.

*2
正確には、法人化前の大学は、その名の通り法人格を有していなかったため、特許の出願人にはなり得ない。ただし、一部の特許において、出願人の欄に「○○大学長」と記入することで、実質的に大学に帰属させていた例が見られる。