2008年9月号
単発記事
今求められる産学官連携コーディネーター人材育成プログラム
顔写真

山本 外茂男 Profile
(やまもと・ともお)

北陸先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究調査センター
文部科学省
産学官連携コーディネーター

国際競争力強化のため、イノベーションを担う産学官連携コーディネーターの育成を進めることが急務であると説く。大学にはさまざまなMOT(技術経営)プログラムがあるが、コーディネーターの育成プログラムはみられない。産学官連携活動の進展に伴い、コーディネーターの役割は、発掘した研究成果と企業ニーズをマッチングさせる単純なものでなくなり、プロデュース能力が期待されるようになっているという。

国際的な人材獲得競争

世界では知識経済化を支える優れた人材の獲得競争が激しく展開している。わが国では、特に卓越した研究者や産業人材の獲得競争において社会環境面の問題から海外の優れた人材が集まりにくいといった現状があり、また海外人材の多くを国内にとどめることができていない。さらに、高度な産業技術人材育成のための国立大学等の高等教育機関の抜本的改革には至っていないのが現状であり、従来に無い高度な産学官連携人材育成の重要性は一層高まっている。

国際競争力強化のためには、イノベーションを担う産学官連携人材・経営人材等の人材育成を進めることが急務であり、今こそ国を挙げた効果的・効率的な人材育成の取り組みが必要な状況にある。

さまざまな産学官連携人材育成プログラム

日本の大学では、実にさまざまなMOTプログラムが実践されているが、広い意味での産学官連携人材育成プログラムも実に多彩である。文部科学省産学官連携コーディネーターの活動事例集である「産学官連携コーディネーターの成功・失敗事例に学ぶ-産学官連携の新たな展開へ向けて-」(平成18、19、20 年度版)にも多くの事例紹介があるように、各大学で、研究マネジャー育成、中小企業の経営者育成、知的財産人材育成、ものづくり人材育成など目的も多様性を増し、座学からさらにはインターンシップ方式、修士課程の一環として称号の付与など多彩な工夫がされている。また、産学官連携人材育成といっても、企業・自治体職員・大学学生・大学職員・大学教員・起業家などさまざまな人材が対象となり得る。また、育成の目的も違えば育成プログラムの内容も違いがある。

これらの事例から、産学官連携コーディネーターが人材育成プログラムにさまざまな役割を果たしている様子がうかがえる。自身が企画推進しているプログラム、大学の企画に参画しているプログラムなど、かかわりは一様ではないが、産学官連携コーディネーター自身が人材育成プログラムに深く関与している姿が垣間見える。しかしながら、産学官連携コーディネーター自身の育成プログラム事例は見られない。

コーディネーター人材育成プログラムの必要性

文部科学省が平成13 年度に56 校56 名のコーディネーター配置でスタートした「産学官連携支援事業」は、その後平成16 年度のピーク時には82 校110 名のコーディネーター配置を行い、さらに平成18 年度からは「産学官連携活動高度化促進事業」となり、その活動は大学等内にとどまらず、地域貢献や地域振興へと展開するに至った。平成20 年には「産学官連携戦略展開事業(コーディネートプログラム)」となり、地域の知の拠点再生担当や目利き・制度間つなぎ担当などのミッション特化が進んだ。

こうした事業の変遷のなか、コーディネーターとして採用された人材のキャリアを見てみると、8割が理系学部を卒業し、7 割弱が企業の技術職からの転身者である( 図1

ステージチェンジによるコーディネーター活動の変貌

図1 ステージチェンジによるコーディネーター活動の変貌

しかし、産学官連携活動の進展とともに、コーディネーターを取り巻く外部環境は大きく変化した。発掘した研究成果を企業のニーズにマッチングするような単純な状況ではなく、企業や社会のニーズに従って研究成果を結合し、フィージビリティスタディ(FS)資金を手当し、育て、錬成していく創造的なプロセスをデザインする力量が期待され、初期の目利き人材からプロデューサー人材などへとコーディネーター人材への期待は高度化している。顕在化していない企業・社会のニーズを顕在化してゆく想像力・企画力が求められている。技術・知財の目利き能力だけの人材では相対的に活動範囲が狭まってしまう。つまり、コーディネーターのミッション内容はすでに多様化しており、求められている人材像が変化しているのである。

その結果、活動スタート時点でどれだけ素晴らしいキャリアがあるとはいえ、必然的に自己研さんを求められることになる。法人化後の大学がそれぞれの独自性を発揮すべく、産学官連携活動の評価が明確なアウトプットや新規性のある連携、より質の高いものを求められるなかで、コーディネーターは自助努力でスキルアップに取り組んで行くしかない現状がある。

育成すべきコーディネーター人材像とは

今や、産学官連携コーディネーターとは、技術や経営、社会までの幅広い視点を持ち、企業や大学の内外に関係なく、異分野が持つ知恵や能力を融合・協調させるマネジメント力を備えた人材である。従って、その人材育成プログラムは地域・社会・時代の要請(ニーズ)に応え、世界に通用する未来人材を育成する実践的なプログラムであることが必要である。

求められる実践的人材育成プログラム

実務で役立つ能力を身に付けることや、付加価値・利益を生み出す力を高めることを目指す人材育成プログラムを設計するためには、実践的教授法を導入することが必須であり、それがプログラムの教授法を革新することにつながる。

ただし、実務に役立つ能力が身に付く人材プログラムを設計するためには、実践的教授法の導入とその科目開発を行うだけでは不足である。これに加え、受講生のニーズ、能力、経験の水準に合わせて講義科目や体験・実習科目などとの相乗作用を視野に入れたり、実践的教授法や講義法、体験・実習法などとの組み合わせ科目を開発したりといった、さまざまな工夫が必要になる。

多種多様な課題に応えられるコーディネーター人材を育成するプログラムには、課題発見力、仮説の構築能力とその仮説を実証する能力だけが期待されているのではない。プロジェクトを遂行する上で必要なコミュニケーション力とリーダーシップ力などを統合した、ターゲットドリブンな実践的能力を育てることも期待されている。

人材育成プログラムを通じてこうした能力を育成していくには、より現実に即した題材で学習させたり、疑似体験をさせたりしながら、受講者が互いに能力を引き出し、高め合える教授法(実践的教授法)を導入することが効果的だと考えられる。例えば、PBL(Problem Based Learning)、ビジネスプラン作成演習、コンサルティング・プロジェクト、インターンシップ、ロールプレイング、ケースメソッドなどである。

人材育成プログラムは常に進化すべき

コーディネーターに求められる能力は、身に付ける方法が確立され、身に付ければ確実に役立つスキルが明らかな基礎的なものではなく、むしろ応用的・総合的なものである。このような人材を育てるには、さまざまな内容や方法論が実施され、試行錯誤が行われる中で優れたものが生まれていく状態が大切である。そのため、産学官連携教育プログラムが何かの教育ガイドラインに完全に合致していることでは不十分、あるいはむしろ望ましくないことであり、その教育プログラム独自の取り組みが必ずなされていなければならない。つまり、その時代に即して変化することを義務付けられていなければならない。

佳境に入ったとも思えるわが国の産学官連携活動が今後も連綿と継続されていくためにも、このタイミングで人材育成プログラムとして残すことに大きな意義があるのではないだろうか。