2008年9月号
単発記事
IC無線タグでブランド魚の流通を追跡
顔写真

高橋 貞三 Profile
(たかはし・ていぞう)

株式会社アーゼロンシステム
コンサルタント 代表取締役


株式会社アーゼロンシステムコンサルタントなど4企業1大学は、活魚のトレーサビリティシステム構築の実証実験を行った。狙いは「関サバ」「関アジ」のようなブランド魚を全国各地につくること。情報の追跡のツールとしてIC無線タグを使った。実証実験のレポートである。

平成15 ~ 17 年、当社は水産業新技術開発事業(水産庁補助事業)、テーマ「『ブランド・ニッポン』漁獲物生産システムの開発」に応募して、東京水産大学(当時)の山中英明教授(現、東京海洋大学名誉教授)、凸版印刷株式会社、株式会社明電舎、中島水産株式会社とコンソーシアム*1を組織し、生産者から消費者までの活魚のトレーサビリティシステム*2 構築の実証実験を行った。情報の追跡・遡及(そきゅう)のツールとしてIC無線タグ(RFID)を採用した。

事業目的は「関サバ」「関アジ」のような魚価の高い、有名ブランド魚*3を全国各地に作ることで、漁業の先細りを防止することであった。ブランド魚の候補は、全国各地の水産試験場に勤務している山中教授の教え子たちに集まっていただき検討した。初年度は宮崎県の「宮崎カンパチ」*4と島根県のケンサキイカ、2 年度は富山県魚津の寒ブリ、3 年度は長崎県のハマチ、ヒラマサ、トラフグを対象にした。本稿は筆者がすべて参加した初年度の宮崎カンパチでの実証実験の報告である。

宮崎カンパチトレーサビリティ(温度変化

図1 宮崎カンパチトレーサビリティ(温度変化)



図2 活魚トレーサビリティシステム

図2 活魚トレーサビリティシステム
     なお、IC無線タグ(RFID)に書き込んだデータは
     次の通り
     [1]事前書き込みデータ;生産地・生産者/出荷
     者+品名+出荷年月日+その他
     [2]流通通過時書き込みデータ;計量魚体重量+
     入出荷日時+通過場所

凸版印刷からは、13.56メガヘルツのIC無線タグとハンディタイプのリーダライターの提供とシステムエンジニア2名が参加した。明電舎からは、トレーサビリティシステムの構築にシステムエンジニア2名が参加。生産地から消費者向け販売店(東京高島屋)までの流通は中島水産にお願いした。

鮮魚流通で大事なことは「鮮度=魚体温度」である。そのため、氷詰めの発砲スチロール製容器内外に温度センサーを設置、さらに、宮崎カンパチの魚体内にも温度センサーを取り付け、宮崎・東京間48 時間の30 分ごとの温度を計測した( 図1)。

外気温22 度~ 24 度、保冷車内温度10 度~ 12 度、氷詰め発砲スチロール内温度は0 度~ 2 度であった。途中、築地魚市場で検品のため蓋を開けた時、一瞬6 度~ 7 度に上昇したが、発砲スチロール内の温度はいつも0度~ 2 度を保っていた。ブランド魚は鮮度を示す熱貫流率(K値)が低く、価格も他の産地のカンパチより2~3割高かった。

30分ごとの温度変化を計測

この実証実験では2つの新技術が有効であることが実証された。

1つはIC無線タグ。入出荷日時の30分ごとの温度変化履歴を計測・確認できた。水産業界初である。その情報の登録・照会は、すべて情報公開を想定したインターネット上で確認でき、IC無線タグによって断片のない、連続データを保持できるトレーサビリティシステムの実用化が可能であることがわかった。

2つ目の新技術は山中教授の教え子で宮崎県水産試験場の寺山誠人氏が中心になって開発した「活け締め脱血装置」であった。この装置はカツオ、カンパチ、ハマチ用に開発され、つり上げたカンパチの魚体を固定し、頭からドリルを刺し込み、3秒間で即殺・脱血するという画期的なもの。この装置を船に積み込んでからは、鮮度と生産性を上げることができるようになったとのことである。もちろん特許は出願済みとのことであった。

本プロジェクトの意味は、漁獲量の落ち込み、魚価低迷に苦しむ日本の水産業を救済するひとつの手段である。外洋に出て魚を獲る水産業から内海で養殖する水産業に脱皮しつつあるが、「養殖魚の地位が低い=魚価が安い」の構図から脱却するには水産業の産学連携をもっと進める必要性を感じた。

つまり、養殖魚の付加価値を高める研究が必要だ。これによって養殖魚のブランド化も可能となり、天然魚に負けないブランド魚が出てくると思う。最近、近畿大学が和歌山県の串本町で行っているマグロの卵孵化・養殖が衆目を集めている。

また、浜価格が安く、流通経費が高い仕組みも何とかする必要性を感じた。

本プロジェクトで完成した「活魚・鮮魚のトレーサビリティシステム」は明電舎から販売されている。

*1
1大学4企業の役割分担は、全体統括がアーゼロンシステムコンサルタント、システム構築と補助事業の契約窓口は明電舎、IC無線タグ(RFID)の提供は凸版印刷、流通(生産地魚市場→築地魚市場→東京高島屋中島水産鮮魚売り場)は中島水産。(社)海洋水産システム協会が参加し、補助金の受け渡しと評価委員会を開催した。

*2
食品のトレーサビリティ(追跡可能性)とは「生産、処理・加工、流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品とその情報を追跡し遡及できること」(農林水産省.食品トレーサビリティシステム導入の手引き.平成15年4月.)

*3
山中教授はまず、ブランド魚の定義を[1]高付加価値化した魚介類 [2]品質>鮮度 [3]活き締め脱血 [4]氷結晶を生成していない [5]活魚 [6]天然物 [7]鮮度K値<20%とした。

*4
宮崎カンパチと他産地のカンパチとの食味比較試験を43人の協力者により実行した。宮崎カンパチを活き締め後2日経過後のK値分析(定量的評価)は10%以下であり、うま味、甘み、肉色、血生臭い、テクスチャー(破断強度)、透明感、血栓が見えるか――の7項目の官能検査アンケート結果は宮崎カンパチ(ブランド魚)に軍配が挙がった。

●参考資料
・社団法人海洋システム協会.(水産庁補助事業)平成15年度水産業新技術開発事業 「ブランド・ニッポン」漁獲物生産システムの開発報告書.平成16年3月.
・山中英明.ブランド魚とトレーサビリティ.東京海洋大学.