2008年10月号
巻頭言
顔写真

森下 洋一 Profile
(もりした・よういち)

学校法人 関西学院 理事長
元 パナソニック株式会社
代表取締役社長
(旧社名:松下電器産業株式会社)


企業経営と大学経営

大学で営まれている教育活動の目的は、企業の目的と相通ずるものがあり、かつそれぞれは密接に関連している。大学は優秀な人材を輩出し、企業は商品やサービスを生み出すことで、共に「世の中の役に立つ仕事」を行っている。「世の中の役に立つ仕事」は官界においても業務目的そのものであろうから、まさに産学官共通のテーマといえよう。

大学に求められていることは、国際性を備え、高度な知識と高い倫理観を備えた、世界で活躍する人材の育成である。このような教育を受けた学生が大学から産業界や官界に入り、さらに実力を身に付けて、それぞれの分野で世界の経済の発展や文化の形成などに活躍する人材として大きく成長していくことが理想である。

大学がより良き人材を育成していくには理念が必要であり、理念を実践するためには方途が必要である。理念はいつの世にも通用する普遍的なものでなければならないが、方途は時代の変化に適応したものが求められる。「変わらぬ理念と変わりゆく方途」は企業経営に当たる場合の基本的な理念であり、大学経営でも変わることはないと信じている。

そのような中で大学経営に当たっての問題点は、掲げている崇高な理念に比して、その理念を実践するための方途が時代の変化に対応しきれていないことである。大学では既得権益の保持や前例主義など、本来改革の対象とすべき事柄への意識の低いことが、変わるべき方途の障害となっている。この現状に甘んじていると時代の変化についていけず、取り残されてしまうことになる。方途が機能しないと理念が生かされず、大学の目的が実践されないことになる。このような状況から脱却するためには、多くのイノベーションを起こしていかねばならない。そして、そのイノベーションの根幹は、社会からの要請を読み取り、それを実践していくことである。

大学は教育研究活動における喫緊の課題として、この実践に取り組むとともに、従来からこの観点に立脚し推進されている産学官連携についても、大学の組織的な取り組みとして、より一層加速展開していく必要があろう。

社会と共に営みを続けることにおいては企業も大学も「社会の公器」であり、またそこで執行される予算もすべて「公のお金」であるとの意識が必要である。この意識なしに組織の目的は達成されない。これもまた産学官に共通する理念であることを確信している。