2008年10月号
単発記事
発芽玄米入りテンペを共同開発
顔写真

北川 貞雄 Profile
(きたがわ・さだお)

明治大学知的資産センター
文部科学省産学官連携コーディネーター


インドネシアで常食されている大豆の発酵食品であるテンペ。タンパク質と脂肪を多く含むが、炭水化物などとの栄養バランスを考え、産学連携で発芽玄米を入れた製品を共同開発した。自然食のコーディネーターが、新規な有望食品を探している企業を大学の研究者に紹介し、技術移転に結び付いた。

技術

明治大学農学部の加藤英八郎講師は、ナチュラルフードコーディネーターの滝田美智子氏とともにタンパク質、脂肪および炭水化物の理想的な栄養バランスを有する発酵食品「発芽玄米入りテンペ」(写真1)を考案・完成し特許出願した。

市販の発芽玄米入りテンペ

写真1 市販の発芽玄米入りテンペ

この発酵食品は、納豆のような粘り・糸引きや強いにおいが無く、風味や歯触りが従来のテンペよりも優れ、菌糸で固められているため包丁でのスライスも容易である。これらの特徴から日本のみならず欧米にも大きな市場が期待できる。

大豆のテンペ菌による発酵食品である従来の「テンペ」はインドネシアで常食されているが、タンパク質と脂肪に偏っている(図1)。栄養バランスを考え、原料に玄米を加えてみたが十分に発酵しなかった。加藤講師は発芽玄米と大豆の組み合わせなら十分発酵することを見いだし、本技術*1を確立した。

技術移転のきっかけ
発芽玄米入りテンペと従来のテンペの栄養バランス比較

図1 発芽玄米入りテンペと従来のテンペの
     栄養バランス比較

加藤講師は消化吸収が良く、栄養価の高いテンペの普及のためにナチュラルフードコーディネーターの滝田氏とともに投稿、セミナー、試食会等で精力的に活動していた。

一方、化粧品製造販売をしている株式会社アルソア本社の子会社であり、滝田氏が料理指導している株式会社ライフサポートは、マクロビオティック食材として新規な有望食品を探していた。2005 年5 月、滝田氏がその情報を加藤講師に伝え、筆者が接触を開始した。

技術移転の経過

2005 年7 月27 日、 ライフサポートからぜひ商品化したいとの申し出があった。2005 年8 月9 日、同社の商品開発担当 田沼幹光氏および舘野千瑞氏と、筆者を含む明治大学知財関係者および加藤講師とが面談した。その面談で次のように話がとんとん拍子に進展し、技術移転の大筋合意が成立した。同社の意向は、(1)試食したサンプルの味は素晴らしい。ぜひ特許実施権許諾を得たい (2)健康的な生活提案としてマクロビオティックの料理教室を開設している。実習食材の1つとして販売したい (3)昨年、従来のテンペをOEM 生産開始し、本格的な販売を本年の10 月1 日を目指して準備している。これと同時に「発芽玄米入りテンペ」もOEM 生産・販売開始したい (4)販売は料理教室などの直営店と通信販売を考えている (5)商品化を目指した技術指導を希望する、だった。

加藤講師は夏休みを返上して技術指導(オプション契約)を行った。ライフサポートは技術と品質を確認した。明治大学はライフサポートの関連会社でのOEM 生産を織り込んだ非独占的通常実施権許諾契約*2を結ぶことに合意した。

産学官連携がうまくいったと思われる要因

この技術移転がうまくいったのは以下の多くの要因が重なり合った結果と思われる。まず第1に、「発芽玄米入りテンペ」(シーズ)が移転先の「マクロビオティック食材」の企画(ニーズ)にピッタリ一致したことが挙げられる。第2に発明者の日ごろの精力的なテンペの普及活動が的確なニーズ把握につながった。第3に移転先の製造ラインと販売ルートの利用ができたこと。第4に相互信頼に基づいて移転後も学内の円滑な協力体制による技術的・営業的支援(拡販の協力)がなされていること。さらに、第5として独立行政法人科学技術振興機構(JST)の特許出願支援制度の採択により、将来の海外展開に夢が持てることを挙げることができる。

ライフサポートの八巻敏洋社長は「昨今、『食の安全性』や『メタボリックシンドローム』という言葉が注目を浴びており、消費者の食に対する意識は非常に高まっている。当社は、消費者が本当に安心して口にでき、なおかつ、おいしく、健康にも美容にもよい「食良品作り」を目指している。このたび、産学官連携により、発芽玄米入りテンペを開発したわけだが、この素晴らしい食材が今後さらに広まるよう、加工による多様な商品開発を行い、市場に提供していければと考えている」と語った。

展望

明治大学は私立総合大学の特徴を生かした産学官連携活動に意欲的に取り組んでいる。2000年10 月、文理融合を目指した技術移転機関「明治大学知的資産センター」を設立(2001 年4 月承認TLO)、2003 年7 月、文部科学省の「大学知的財産本部整備事業」のモデル校の1つとして採択され「明治大学社会連携促進知財本部」を設置した。さらに、2005 年5 月に「研究・知財戦略機構」を設置して産学官連携の窓口を一本化した。

*1 :特許などの現状(JSTの特許支援も)
日本国特許登録:特許3859014号(登録日2006年9月29日;発明の名称:発酵食品)
海外(PCT)出願(2004年度 JST特許出願支援制度採択):「国際特許公開WO2005/060765」、海外5カ国に移行(米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ)

*2 :大学と企業との契約
2006年2月、非独占的通常実施権許諾契約を締結した。
契約日:2005年8月9日
契約期間:3年間
オプション:加藤講師の技術指導
締結者:学校法人明治大学
理事長 長吉 泉
株式会社ライフサポート
代表取締役 篠根 肇

●参考文献
イノベーション創出へ向けた技術移転事例集 ~国公私立大学・独立行政法人・高等専門学校の“知識と知恵”で国民の生活の質の向上へ~.東京,文部科学省研究振興局 研究環境・産業連携課,2007,p.61.