2008年11月号
連載2  - 国立高専が地域と交流
一関工業高等専門学校
メカノケミカル粉砕技術をバイオマス資源活用技術へ応用展開
一関工業高等専門学校(岩手県一関市)は地元の企業だけでなく、東京に本社を置く大手企業や国の研究機関との共同研究開発にも積極的に取り組んでおり、幾つかの大型の外部資金も得ている。注目されているのが、物質を微粉末に粉砕する装置をバイオマスに利用する研究だ。

写真1

写真1 丹野浩一 校長



写真2

写真2 小型コンバージミル(1L)株式会社真壁
     技研製

一関工業高等専門学校が産学官連携活動を強化している。地元の中小・零細企業の技術相談にとどまらず、テーマによっては東京に本社を置く大手企業、国の研究機関などとの連携に発展しており、幾つかの外部資金を得ている。

企業などとの共同研究の中で注目を集めているのが、物質を微粉末に粉砕(メカノケミカル粉砕)する装置をバイオマスに利用する研究だ。この装置は、同校の丹野浩一校長(写真1)が16年度に開発した「コンバージミル」という粉砕機だ。小型機の装置を写真2に示す。鋼球やセラミックス球などの粉砕媒体と被粉砕物を入れた円柱形のドラムを超高速で回転し粉砕する(図1)。

似たような装置に「遊星ボールミル」や「転動ボールミル」があるが、コンバージミルは遊星ボールミルに比べて粉砕量が多く、転動ボールミルよりはるかに高速処理ができる*1。現在、同校では、このコンバージミルを木質バイオマスと水産バイオマスにそれぞれ活用する大型共同研究に取り組んでいる。


  【木質バイオマス】


図1コンバージミルの粉砕原理

きっかけは、17 年度にコンバージミルで杉おがくず、あるいは木質チップを微粉砕してみたこと。杉に限らず、セルロース系木質バイオマスはセルロース結晶が強固であるほか、ヘミセルロース、リグニンなども存在し、それらが複雑に絡み合っている。従来の木質バイオマスからの糖化・発酵によるバイオエタノール製造は、硫酸を用いる酸加水分解法が主流であるが、糖化収率や環境負荷の問題がある。酵素糖化法に注目が寄せられるが、未処理の木質原料は酵素とは全く反応しない。

ところが、「コンバージミルで杉おがくずをメカノケミカル粉砕したところ、わずか30 分程度の粉砕で原料の微粒子化・非晶質化が起こり、未粉砕原料に比べて約数百倍の効率でセルラーゼ酵素によるグルコース変換(糖化処理)が可能であることがわかった」と、研究プロジェクトの中心である二階堂満物質化学工学科教授(写真3)はいう。木質中セルロースの糖化率はほぼ100% である。経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業(プロジェクト名「省エネ・環境対応エネルギー集中型高速高純度粉末反応装置の開発」)で取り組んだ装置開発に続き、応用開発を目的に継続的に発展させた研究の成果である。

写真3

写真3 二階堂満 物質
     化学工学科教授

18、19 の両年度は、株式会社アーステクニカ(東京都千代田区)、独立行政法人産業技術総合研究所、宮城工業高等専門学校との共同研究を進めた。アーステクニカは川崎重工グループの総合破砕・粉砕機メーカーで、シェアは国内トップ、世界で2位を占めている。

さらに20 年度から環境省の廃棄物処理等科学研究費補助金(事業名「木質系バイオエタノール製造のためのコンバージミル連続粉砕技術開発」)を得て、アーステクニカと共同で研究開発を続けている。さらに国・県の研究機関やほかの大学ともコンソーシアムを組んで開発研究を推進し始めている。さまざまな企業や研究機関が食料以外の原料を使ったバイオエタノール製造を目指しているが、同校の取り組みはその中の1つの方法を提案するプロジェクトである。

現在の開発のテーマは、おがくずなどの木質バイオマスやカニ殻などの>水産バイオマスを「連続的」かつ「大量」に処理できるコンバージミルへの改良である

  【水産バイオマス】
写真4

写真4 戸谷一英
     物質化学工学科教授

これも16 年度にカニ殻を粉砕してみたことから始まる。コンバージミルの水産バイオマスへの本格的な応用研究は18年度から。アーステクニカ、焼津水産化学工業株式会社(静岡県焼津市)と組み、19 年度は科学技術振興機構(JST)のシーズ発掘試験、20 年度は同発展型にそれぞれ採択された。カニ殻由来のキチンを粉砕したものに酵素を加えるだけで天然型単糖N -アセチルグルコサミンを製造することができる。従来は前処理として濃塩酸を使用してきた。キチンの単糖への糖化率は60%前後で、従来の方法に比べても効率がよい。単糖は関節痛軽減や美肌効果を有し、機能性食品分野等にも市場が拡大している。

図2

図2 従来の製造工程と環境負荷低減技術に
     よる改善

「従来の方法では、カニ殻などのキチン質から単糖をつくるのに二十数工程が必要だったが、コンバージミルを利用すると数工程で済み、製造コストを半減できる」(このプロジェクトの中心である戸谷一英物質化学工学科教授(写真4)。環境負荷の小さい方法として、現在、事業化を検討中だ。

図2に従来法と新しく開発提案する方法の比較を示す。右側が従来法の工程、左側がコンバージミルを利用する方法だ。

20年度から3年間、生物系特定産業技術研究支援センターのイノベーション創出基礎的研究推進事業(発展型)にも採択されている。単糖と同じ方法で二糖の製造も可能であり、二糖はオリゴ糖類の製造原料にもなる。本事業には、前述2社に加え静岡大学など国内3大学も参画しており、現在、オリゴ糖類まで幅広く用途拡大研究の段階だ。物質生産だけでなく生体機能に関する研究を加速させ、新たな生物系産業の創出を目指す。

4テーマのプロジェクトチーム

同校では昨年から、校内に次の4つの研究プロジェクトチーム([1]エネルギー・環境関連部門 [2]バイオマスおよび地域資源活用部門 [3]医療福祉支援機器開発部門 [4]組込技術教育部門)をつくり、それぞれ外部との連携構築に努めている*2

少ない教員数の高専が幾つもの企業との共同研究開発を進め、産学連携支援機関などから資金を得られるようになってきているのも、校内のこうしたグループ、組織力の効果と構成員の精力的な努力が大きい。「逞しい技術者の育成を目指す高専が、教員の専門性で社会貢献をするには、成功を夢見て地道な努力を積み重ねることと、教員一人ひとりのスーパーマン的活力、そして異分野の研究者の連携協力が大事である」(丹野校長)という。さらに「高専発の技術になる新製品を開発するには、"死の谷" をどのように乗り越え研究開発を継続させていくかが重要になる」とも述べている。

産学連携による実践的技術者教育

また、同校は本務である実践的技術者教育にも力を入れており、文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に選定され「産学COOP 教育による即戦力型技術者教育」(19 ~ 21 年度)に取り組んでいる。これは問題設定・問題解決能力の育成、そして関係する技術全体を見通す力をつけるため、企業技術者と教員が一緒になって学生を教育する内容だ。このような教育によって成長した卒業生を地域に定着させ、地域企業全体の技術力をさらに高めるという循環システムの構築を目指しいる。

丹野校長は「研究シーズは組織の大小に関係ない。小さい所帯でも教育主体の高専であってもユニークな研究シーズを持つ教員はいる。ぜひそこに目を向け支援していただきたい」と話している*3

(本誌編集長:登坂 和洋)

一関工業高等専門学校の概要
所在地:岩手県一関市
URL:http://www.ichinoseki.ac.jp
学校長:丹野浩一(たんの・こういち)
学生数:4学科 829 名  専攻科  45名
教員数:65名
教育プログラム:4学科(機械工学、電気情報工学、制御情報工学、物質化学工学)
                            2専攻科(生産工学専攻、物質化学工学専攻)
                            本科5年課程、専攻科2年課程。

*1
高速回転で1点にエネルギーが集中するので転動ボールミルより極めて短時間に物質の結晶構造を破壊できる。さらにかき取り機能もあるために、粉砕された粉末が凝集しにくく粉体状態のまま回収できるなど、従来の装置に比べ優位点が多い。コンバージミルは、元々複数の金属の粉末から溶かすことなく固体状態のまま合金をつくる装置として開発された。

*2
組込技術教育部門では、地域企業向けの制御マイコンやFPGAの技術講座を3年間継続して実施し受講者から高い評価を得ている。その教材やノウハウを生かし高学年の学生を対象にした共通組込技術教育にも挑戦を始めている。さらに、これらの活動はソフトウエア上流設計工程を競うETロボコン(社会人、学生等対象)への学生の積極的な参加へとつながり、はじめて参加した今年度、早速東北地区代表として全国大会出場権獲得の成果へとつながってきている。
医療福祉支援機器開発部門においては、これまで病院などと連携した障害者支援機器の開発に加えて、関係教員によるプロジェクトを立ち上げ近隣の支援学校とも連携し、支援機器の開発へ向けて始動し始めている。すでに何件かの開発テーマも寄せられている。
エネルギー・環境関連部門については、これまで当地域の特性を活かした産学連携研究として、木質バイオマスを活用した共同研究・開発に取り組んできた。木質バイオマスを燃料とするスターリングエンジンの開発研究を行い、商品化国産第1号機を地元企業と共同開発するなど先駆的な活動を展開し、学会関係者や自治体等からの視察も多い。今後さらにシステムの形で発展させ、環境の時代に貢献できる優れた実用技術としての開発を進めている。

*3
本稿で紹介したバイオマス活用研究も平成14年度にJSTの可能性評価試験の助成を受けたことに始まっている。