2009年1月号
巻頭言
顔写真

榊原 定征 Profile
(さかきばら・さだゆき)

東レ株式会社
代表取締役社長兼CEO



科学技術が地球を救う

地球環境問題は待ったなしの状況であり、とりわけ温室効果ガス(以下、GHG)削減への対応は喫緊の課題である。地球温暖化対策の次期枠組み(ポスト京都議定書)についての国際交渉が本格化しようとする中、わが国では「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定され、企業においては環境を軸にした経営の重要性が増している。

最近、排出量取引などが喧伝(けんでん)されているが、これはGHGを削減するものではなく、マネーゲームにもつながりかねない。科学技術に立脚した製造業を生業とする企業は、GHGを抜本的に削減できる技術開発こそが使命であると考える。ただ、GHG削減を考える時、素材製造時のGHG排出量削減だけでなく、製品のライフサイクルで考えるLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の概念が重要であろう。例えば、炭素繊維複合材料を航空機(100人以上クラス)の構造材として機体重量の50%に使用した場合、軽量化によって10年間のライフサイクルで1機当たり2万7,000トンの炭酸ガス削減が可能と試算されており、炭素繊維製造時の炭酸ガス排出量を大きく上回る削減効果がある。

実は、この炭素繊維は産官連携の代表例である。昭和34年、大阪工業試験所(現、産業技術総合研究所)の進藤昭男博士がポリアクリロニトリル(PAN)繊維を熱安定化してから黒鉛化すると高強度の炭素繊維が得られるという基本技術を発明し、PANの重合と紡糸技術を持つ当社がライセンスを受けて世界で初めて商業生産につなげた。今で言うところの、オープン・イノベーションである。これまで当社では、経営の強い意志によって40年以上にわたり炭素繊維複合材料の研究・開発を継続し、スポーツ用途から産業用、そしてボーイング787に代表される航空機にまで用途を拡大するに至った。既に自動車用途でもF1や高級車に採用され、軽量化のみならず衝突安全性向上にも寄与している。今後、生産性やリサイクルなど周辺応用技術が向上していくに連れ、需要は急拡大していくであろう。

環境問題は、経済、技術、行政、国際協調など多面的な視点で取り組まねばならないことから、まさに産学官の連携が必須の分野である。低炭素社会実現に向けた取り組みにおいて、一段と重要となる省エネ、新エネルギー、非石化原料、水処理、リサイクルなどあらゆる分野において、科学技術の果たすべき役割は絶大である。

私は、産学官の連携研究から生まれる多様な融合技術こそが、21世紀の地球環境を救うと確信している。