2009年1月号
特集  - 一極集中を打ち破れ 「愛」と「技術」が地域を救う
地域資源と科学的「知」の融合による地域活力の再生
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金井 一賴 Profile
(かない・かずより)

大阪大学大学院経済学研究科
教授


その時代の流行を追った全国画一の地域活性化を見直し、地域の資源に立脚した地域振興がいくつかの地域で行われるようになってきた。こうした戦略では、地域資源と大学の「知」を結び付けることによって地域イノベーションを創出しようということがポイントである。

地域活性化戦略の変化

近年、地域活性化のやり方に大きな変化が見られる。これまでは、地域の差異にかかわらず、どの地域も観光、ICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)、バイオなど、その時代の流行を追った手段に乗って地域の活性化を図ろうとしてきた。つまり、ここには地域活性化に関する画一化現象が見られる。そして、このような地域活性化の方法には、戦略的視点が全く見られなかったということがいえる。このような意味で、地域活性化戦略不毛の時代であった。

近年の地域活性化の方法の変化として指摘できるのは、いくつかの地域において、地域の資源に立脚した地域振興が行われるようになってきたことである。このような地域においては、意識的か否かを問わず、戦略的視点に基づいた地域活性化の方法を見ることができる。

経営戦略の議論のなかに、「資源ベースのアプローチ」という考え方がある。この考え方の特徴は、企業独自の資源をベースに経営戦略を形成するということにある。つまり、企業独自の資源や能力を有効に活用した経営戦略を形成することにより、他の企業には困難な独自の顧客価値を創造することができ、競争優位性を構築できるというものである。このような考え方を地域活性化に適用するならば、地域活性化政策を考えるに当たっては何よりも各地域の独自の資源とは何かを明確にし、そのような資源を有効に活用した地域独自の活性化戦略を策定することが肝要であるということになる。

このような事例としては、古くは北海道池田町のワイン事業(自治体がワイン事業を創造した最初の事例で、その後富良野市などいくつかの自治体のワイン事業創造のモデルとなった)を挙げることができるが、最近の事例としては、本誌で紹介された京丹後市の「知的資産経営報告書」のケースは、このような企業における経営戦略を地域活性化戦略に適用した好例の1つである(Vol.4, No.10, 2008, p.28-29)。

科学的「知」による地域資源の再生

上記のような地域資源を活用した地域活性化戦略において、最近、科学的「知」、特に大学の「知」を結び付けることによって地域イノベーションを創出し、独自の地域振興に取り組んでいるケースを観察することができる。例えば、本誌でも紹介された、長野県の革新的デバイスの商品化、高知県のスラリーアイス製造装置、三重県の英虞湾環境再生などの事例は、こうした地域資源と大学などの「知」が有効に結び付いて地域イノベーションを創出し、地域活性化に向けて進展している好例である(Vol.4, No.6, 2008)。

ここでは、別のケースを紹介し、その中から地域資源と大学の「知」を融合した地域活性化戦略の意義と課題を検討することにしよう。山梨県はわが国のブドウやワインの生産地として有名であり、同県の重要な地域産業ともなっている。同県は最近、ワイン産業のグローバル化を図るべく、山梨大学、カリフォルニア大学デイビス校、ボルドー大学と連携し、人材育成に取り組むとともに山梨ワインブランドの確立による地域活性化戦略に取り組んでいる。

ここでのポイントは、[1]地域産業と地域資源を活用した活性化戦略である、[2]地域の大学のみならず地域を超えた適切な大学とのグローバルなアライアンスを組み込んでいる、[3]自治体、産業団体、NPOなどとの多角的連携を考慮している、ことが挙げられる。

このような地域活性化戦略が首尾良く進展していくか否かは、アライアンスがうまく機能するかどうかにかかっている。基本的な使命と行動原理が異なる産学官3者の緊密な相互作用を図ることを通じてイノベーションを創出し、地域の発展に結び付けていくことは必ずしも容易なことでなく、少数のケースを除けば期待された成果を上げているとは言い難い状況である。特に、わが国のように「産」との密接な関係を長期間にわたってタブー視されてきた「学」が、「産」との間にある大きく、深い溝を埋め、ダイナミックな相互作用を可能とするような緊密な連携を構築するためには、多くの試みと仕組みが必要であるように思われる。

産学官の連携による地域活性化戦略の要諦

産学官の連携による「知」の融合を通じて地域イノベーションを創出していくための基本的メッセージは、適切な「場」の設定と運営および場の相互作用によって生まれる信頼が鍵を握っているということである。

「場」の形成と運営にとって重要な要因は、適切なアジェンダやテーマの設定ができるか否かと、アジェンダの実現にふさわしい適切なメンバーが「場」に加わっているかどうかが鍵となる。基本的に目的も行動原則も異なる多様な主体(企業、大学、官庁、顧客)を連結する魅力的なテーマを創造できるかどうかが、有効なコラボレーションの場を形成できるか否かを大きく左右する。つまり、大学、企業、官庁等との潜在的なネットワークを顕在化させ、新たな事業価値を創造するためには、多様な組織が持っている能力を引き出し、それらを統合する共通のテーマの提示が場づくりの必要不可欠の条件となる。そして、この共通のテーマが多様な主体にとって活動を貢献するのに値する魅力的なテーマであればあるほど、多様な主体は共通の場に強く誘引され、それだけ場へのコミットメントが高くなる可能性がある。このような場が形成されることこそが、多様な組織が相互作用できるための必要な条件なのである。

次に必要な場づくりのポイントは、有能な参加者の確保である。ここで「有能な」という意味は、単にテーマに「貢献できる能力」を持っていることだけでなく、テーマに「貢献したい意欲」を持っていることを含んでいることに注意することが重要である。

そして、「場」を通じての相互作用によってメンバー間での信頼感が生まれ、社会関係資本が形成されていくためには、参加者に「気付き」と「勇気」を与えるリーダーシップの存在が重要である。形成された「場」を有効なものとし、そこに全体的な信頼感を醸成する上でリーダーシップは必須の要件である。構造に多くを依存できないネットワークや「場」の凝集性を高め、参加者のコミットメントを継続的に引き出す上で「場」に対する信頼は重要であり、その鍵を握っているのがリーダーシップなのである。このようなリーダーシップによって、産学官連携が形だけのものから地域イノベーションを創造することができる情報共有と知識創造の「場」へと進化していくことができるのである。