2009年3月号
特集  - 農の力 食の夢
産学官連携で弘前の伝統トウガラシをブランド化
生産者最後の1人から反転攻勢

中村 元彦 Profile
(なかむら・もとひこ)

在来津軽「清水森ナンバ」ブランド
確立研究会 会長/青森県特産品
センター 理事長/津軽藩ねぷた村
理事長

青森県弘前地域に伝わる「清水森ナンバ」というトウガラシは大ぶりで辛み成分含有量が少なく、独特の甘みがあり、昭和40年代までは一大産地だった。しかし、安い輸入品に押され、平成に入って生産者は1人になってしまったが、産学官の連携で、清水森ナンバを使った加工品開発に力を入れた結果、生産する農家は43戸にまで拡大している。その復活に向けた取り組みを紹介する。

「清水森ナンバ」とは?
写真1

     写真1 世界のトウガラシの解説をする
          嵯峨 紘一 氏



写真2

写真2 「清水森ナンバ」 赤トウガラシ

青森県弘前地域に伝わる「清水森ナンバ」というトウガラシの在来種がある。今から約400年前、弘前藩主津軽為信公が京都から持ち帰り広まった。大ぶりで辛み成分含有量が少なく、独特の甘みがあり、香りが極めて良い。ビタミンCやEの含有量はトウガラシの品種の中でも特に多く、栄養・機能面から見て極めて価値のある作物だ。地元の年配者にとって懐かしい味で、津軽に根付いた食文化の1つである。40年間研究に携わった元弘前大学教授・嵯峨紘一氏(写真1)が野菜の地方品種として「弘前在来トウガラシ」と命名した(写真2)。

昭和40年代までは一大産地であったが、その後輸入トウガラシ類に押され、平成に入り生産者が1名となってしまった。4、5年前から「清水森ナンバ」の生産が増加し、特産の加工品として活用されている。生産する農家は43戸にまで拡大している。復活に向けた取り組みを紹介したい。

「清水森ナンバ」復活のきっかけ

平成10年ごろ、青森県農政審議会に出席した折、共に委員であった筆者と弘前大学の渋谷長生教授との間でトウガラシが話題になった。以前、農林水産省が各地に残っている農産物の在来種の調査を行ったことがあった。筆者が理事長を務める青森県特産品センターは県産品の掘り起こし、商品化にも取り組んでいたので、在来種という視点は面白いと思っていた。その時に渋谷氏が、嵯峨氏は長年、弘前在来のトウガラシ品種清水森ナンバの研究に取り組んでいることを教えてくれた。

その後、清水森ナンバと嵯峨氏のことは気にはなっていたが、具体化に向けて動きだしたのは平成15年。社団法人青森県ふるさと食品振興協会の機能高度化マッチング事業で、トウガラシに関心のある人たちを対象に、嵯峨氏に清水森ナンバの研究成果を講演していただいた。さらに、同年、ただ1人になってしまった生産者を交え、意見交換会をした。青森県特産品センターは関係資料や国内で流通しているトウガラシ関連商品を集めた。こうした意見交換を通じて、清水森ナンバ復活の機運が高まった。

平成16年度に産学官で在来津軽「清水森ナンバ」ブランド確立研究会(事務局:青森県特産品センター)を設立し、本格的な検討がスタートした。トウガラシについて知らない人が多かったので、当初は研修会を何度も開いて知ってもらうことに力を入れた。

研究の推移と産学官連携の役割
図1

図1 研究会の構成・役割

復活させるシナリオは渋谷氏ら弘前大学の関係者が作成した(図1)。渋谷氏は「産学官の連携が大事で、それがないと新たに清水森ナンバ生産を手掛ける農家はなかなか出てこないだろう」という考えであった。同大学には、研究会の運営コーディネーター、トウガラシの栽培試験(含む種子管理)をやっていただいた。清水森ナンバにかかわる研究者も増やしていただいた(本多和茂准教授、石川隆二教授、前田智雄准教授、村山成治特任教授)。

また、平成16年度に青森県ふるさと食品研究センター 農産物加工指導センターが加工品の試作(一味トウガラシなど)を始め、さらに、民間の業者にも「しょうゆ漬け」をつくるといった動きがでてきたことも、復活に向けた農家の取り組みに大きな力となった。

そのほか、各機関の役割は次の通りである。

【青森県中南地域県民局地域農林水産部普及指導室】

[1]土壌検査 [2]栽培暦作成 [3]実証圃の検証 [4]栽培指導(生育状況・病害虫対策)、現地を毎月数回(生育状況・病害虫対策)巡回指導

【青森県中南地域県民局地域農林水産部農業振興課】

[1]レシピ開発、助言 [2]PR

【青森県総合販売戦略課(県ふるさと食品振興協会)】

[1]クラスター事業の導入 [2]販促のためのアンテナショップ活用 [3]PR

【弘前市りんご農産課】

[1]生産者の購入苗代金の補助 [2]助言

【農協】

・JAつがる弘前:[1]播種育苗 [2]監事
・JA津軽みらい石川支店:[1]監事
・JA相馬村:会員

会員の順守規制事項

清水森ナンバは、ブランド確立研究会の厳重な栽培管理(播(は)種~育苗~生育~収穫まで)の下に生産されている。生産地域は指定され、会員以外の栽培はできない。JAつがる弘前で播種し育苗した苗を、研究会が予約販売している。余ったものは焼却処分。農家の自家採種は禁止している。タカノツメなど、ほかのトウガラシと交雑しやすいからである。ブランドを維持するため、こうした約束事が守られているかどうか、巡回してチェックしている。

復活の現状や開発した商品について
写真3

写真3 普及指導室による定植研修

現在、栽培は1市1町1村の43戸。県庁OBの農家中田嘉博氏は、コストや栽培法などを精査しており、栽培農家の強力な力になっている。普及指導室は研修会を開催している(写真3)。

平成20年度の生産量は10トン。内訳は、研究会集荷分が5トン。農家直売が5トンである。

特許庁に商標登録しており、直売やスーパー、百貨店において清水森ナンバを販売する場合、生産者に研究会所定のシール添付を義務化している。

【販売されている商品】 写真4

清水森ナンバの商品

[1]しょうゆ漬け [2]一味 [3]焼き [4]きのこ漬け [5]しょうゆ煮 [6]一升漬け [7]ドーナツ [8]ソフトクリームなどであり、研究会の集荷分は、10カ所の食品製造業、農家加工所、料理飲食業などが加工原料としている。
【生果は生産者が直接下記に販売】
[1]朝市 [2]農産物直売所 [3]道の駅 [4]デパート [5]スーパーなど。

今後の展望

研究会としては、生産農家の所得を安定的に向上させることを第一に考えている。清水森ナンバは特に高齢者が栽培する農作物として有望である。このほか、この後の方針として次のような点を重点に置いている。

すでに開発してある商品(約50アイテム)をベースに地産地消の段階的販路拡大
風味を楽しむ消費者に提供(現在輸入品と比較し風味などは優れているがコストが高い)
栽培管理に注意している消費者に提供(安心・安全・顔が見える)
こだわりを持つ消費者に提供(マイ唐辛子愛好者向け)
アフラトキシン*1を気にしている消費者に提供
周辺温泉地とのコラボレーション(カプサイシンの活用、食材、東北新幹線のお土産)

農家からは「栽培面積をもっと増やしてほしい」などのご意見が多く寄せられている。過去の栽培データが乏しいし、連作障害にどう対処するか課題はある。栽培方法を工夫し、製造方法を検証しながら進めている。トウガラシに含まれるカプサイシンや機能性成分や遺伝子の研究、それに伴う商品開発や加工についても今以上に遂行する。また現在、加工品の生産量はまだ少ない。関連業者の設備も不十分なので今後の展開方法を模索している。

*1
アフラトキシンとは、カビ毒より生成される強力な発がん物質。