2009年3月号
単発記事
地震防災システムの進化 大揺れの前の安全確保に向けて
顔写真

源栄 正人 Profile
(もとさか・まさと)

東北大学大学院工学研究科
教授


聞き手・本文構成:西山 英作 Profile

(社団法人 東経連事業化センター
副センター長)


気象庁の緊急地震速報の一般運用の開始から1年余りが経過した。緊急地震速報の利活用も含め「早期地震警報システム」開発の中心的な人物の1人である東北大学大学院工学研究科の源栄正人教授に緊急地震速報システムの現状とさらなる進化に向けた課題についてインタビュー(平成20年12月22日)を行った。

システムの現状と課題

——気象庁の緊急地震速報の一般運用開始(平成19年10月1日)*1から1年余りが経過した。現状をどう評価しているか。

源栄 一般運用開始は、科学技術を活用した地震防災システムの進化に向けた大きな一歩だと認識している。テレビ・ラジオなどによる一般向けの緊急地震速報では、震度5弱以上と推定されるときに、震度4以上が推定される地域に「強い揺れ」が予測されることだけが流される。また、専用受信機を導入すれば気象庁から震源の位置とマグニチュードの情報が送られ、予測震度に加えて余裕時間も表示される。緊急地震速報は、大揺れの前に安全確保できるチャンスを与えてくれる。

課題もある。国内の約1,000点の地震観測点があるにもかかわらず、その観測点の間隔や地震観測データの伝送・処理時間の関係で、内陸型の地震における適用性は必ずしも高いとは言い難い。

——昨年6月14日に発生した「岩手・宮城内陸地震」はM7.2、震度6強を記録し、多大な被害をもたらした。源栄教授は文部科学省の事業の一環として宮城県内の8つの学校に緊急地震速報システムを導入して実証試験などに取り組んでおられる。

源栄 文部科学省の実証実験に参加している宮城県白石市立白石中学校では、地震の当日は土曜日にもかかわらず、部活動参加のために約100名の生徒が登校していた。S波到達の21秒前に緊急地震速報を受信し、自動放送で無事避難することができた。

また、私が指導している宮城沖電気(現、OKIセミコンダクタ宮城)の半導体工場(宮城県大衡村)でも、気象庁の緊急地震速報に加え、工場敷地内に設置した独自の地震計を用いて、生産ラインの速やかな停止、危険物質の漏えい防止、従業員の安全確保など、被害を最小限に抑えることできた。

さらなる進化に向けたリージョナルな対応を

——岩手・宮城内陸地震ではないが、揺れた後にようやく速報が届いたという話も聞いた。もっと早く受信できるような対応策は?

源栄 現在のシステムはいったん気象庁(東京)に情報を集めてから震源地に情報を戻している。震源地近くで情報処理すれば、秒単位だが早く緊急地震速報を提供できる。その数秒間にできることをイメージしてほしい。危険物から離れ、安全な場所に即座に移動すれば、尊い命を救える可能性が広がる。安全空間の確保という事前対策につなげたい。

——緊急地震速報はナショナル(国)レベルだけでなく、リージョナル(地域)レベルでも対応すべきとのご提案だと受け止めた。

源栄 リトアニアのイグナリア原子力発電所では、発電所の周囲30kmの円周上6カ所に地震計を配置し、システムの自動停止等を行うシステムを構築している。イタリアのアカデミア美術館のミケランジェロのダビデ像は、免震台の上に置かれ普段は固定されているが、揺れが来ると固定装置が自動的に外され、損傷を抑える工夫をしている。これらの早期地震警報システムは、必ずしも震源情報を必要とするわけではなく、比較的低コストで実現できる。

われわれは、迫りくる宮城県沖地震に備えて、石巻市牡鹿総合支所と東北大学に構造ヘルスモニタリング機能とP波検知機能を兼ね備えた地震観測システムを設置した。このシステムで直接、東北大学に送られてくる波形情報と気象庁からの緊急地震速報を組み合わせて、より高度な地震対策に適用するための研究開発を進めている。ハザードマップの作成1つとっても、リージョナルな対応なしには対策は打てない。地域の情報をきめ細かに集め、地域で処理し対策を打っていくことが基本スタンスではないか。

——直接、東北大学に送られてくる波形情報の分析に力を入れ、リージョナルな対応を図ることが重要なことは理解できたが、なぜ構造ヘルスモニタリング機能を併用する必要があるのか。

源栄 建物の状態によっても被害の大きさが変わってくる。構造ヘルスモニタリング機能を導入することで常に建物の状態をモニタリングし、建物のメンテナンスを適切に行うことが可能になる。地震時の危険度判定などの即時対応や、被害が生じたときの科学的検証のための重要データとして役立つ。

また警報システムは、地震のときだけ役目を負うのでなく、日常的機能を付加したシステムにすることが導入の動機付けにもなる。白石中学校の事例でもシステムに付与されていた校内放送が日常的に使われていたことが、うまく機能した要因だ。このため、緊急地震速報システムに日常的に建物の状態をチェックできる構造ヘルスモニタリング機能を付加することが重要だと考えている。

——構造ヘルスモニタリングと緊急地震速報との連動が地震警報システムの進化に貢献できることは理解できた。今後どのように進めていくか。

源栄 高精度な地震動予測を可能にした高度活用を目指すには、P波検知を兼ねたモニタリングシステムをできるだけ多く配置し、前線波形情報*2をリージョナルの拠点に集めて発信することがポイントになる。

私はこのシステムを地域展開するために、自治体の予算ばかりでなく、多くの民間企業の共同出資による産学官連携プロジェクトを企画・提案している。提案のコアは建物の構造ヘルスモニタリング装置を公共施設に設置して共有化することである。オンライン観測データの公開は学術的な貢献だけでなく、前線波形情報を利用した即時性を高めた対策も可能として、企業の地域貢献につながる。また、企業としても自社の建物にシステムを設置すれば直下型地震対策にもなり、事業継続計画*3の一環として有効に活用できる。予測の高精度化を図りシステムを進化させる最大のポイントは、できる限り前線波形情報をリアルタイムで利用できるようにすることに尽きる。

インタビューを終えて

地震大国といわれる日本にとって「科学技術による防災システムの進化」は最重要課題の1つである。気象庁の緊急地震速報の一般運用は進化に向けた大きな1歩だが、さらなるシステムの進化に向けては、リージョナルな地震防災システムの構築が必須だと痛感した。また、わが国が緊急地震速報システムのノウハウを蓄積し、そのシステムを発展途上国など海外にも広げていけば、国際貢献の重大な柱になると感じた。

*1
平成19年10月1日に気象庁が緊急地震速報の一般運用を開始。宮城県沖地震が起きた場合、100万都市仙台の中心部では、この緊急地震速報によって大揺れが到達する約15秒前に地震発生の警報を出すことが可能になった。
この緊急地震速報の原理は、地震波より電気信号の伝わる速さがはるかに早いことに基づいている。地震にはP波とS波があり、P波は毎秒6~8kmで伝わり、S波は毎秒3~4kmで伝わる。地震が発生すると、全国約1,000カ所に設置された地震計のうち震源により近い地震計がP波をとらえると、この情報が気象庁に送られ、震源位置と地震の大きさ(マグニチュード)が決定され、緊急地震速報として配信され、大揺れの前の警報として利用される。

*2
震源により近い観測点の波形情報。

*3
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事業に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。