2009年3月号
連載2  - 若手研究者に贈る特許の知識 基礎の基礎
第2回 特許とは何か?
顔写真

秋葉 恵一郎 Profile
(あきば・けいいちろう)

東京工業大学 グローバルCOE
コーディネーター/志賀国際特
許事務所 調査部/元 住友化学株
式会社 知的財産担当部長/
技術士(化学部門)

特許とは、その権利を持っている会社等が「発明」を独占できる制度。企業は開発した製品を特許として権利化し、その権利を武器に事業で利益を上げ、その収益の一部を研究開発に投じる。こうして次の特許へとつないでいくのが研究開発から見た経営の知的創造サイクルだ。

なぜ特許を取るか

筆者が、スポーツ製品メーカー大手「ナイキ」の有名な「エアーマックス」シューズを近所のスポーツ用品店で求めようとしたら、置いていなかった。そこで、係員に「他のメーカーでもよいからエアークッション製品はないのか?」と聞いたところ、そのタイプは「ナイキ」の特許品だから他社では製造できないということだった。

特許とはその会社が「発明」を独占できる制度で、特許権者しか特許製品を製造販売できないことを肌で感じた瞬間だった。そして、他社は特許権者の許可がなければその製品の製造も販売もできず、ましてお金を払いさえすれば製造・販売させてくれるかというと、そういうものでもない場合がある。

企業は、例えば、開発したCDを特許として権利化し、その権利を武器にして音響製品のCDを販売して利益を得る。そしてその収益の一部を研究資金に回して次の新技術、例えば映像を蓄積できるDVDを開発し、これをまた特許として権利化し製品として販売していく。これが知的創造サイクルで、首尾よくこのサイクルを回転させることが研究・開発および経営だ。

特許を取らないとどうなるか
図1

          図1 特許申請書のツボルキンの
              アイコノスコープ 1931年*2

独創的な発明をしていても、特許を取らなかったために他人に先を越されてしまった例がある。“独創的”といっても、他人が全く思い付いていないことはまれである。広い世界では通常“関連する技術開発”は競争的に同時進行していることが普通だ。前回の電話の発明のように、古い時代でも同じだった。

浜松高等工業学校(現、静岡大学工学部)の助教授だった高柳健次郎氏は、1926(大正15)年12月25日に世界に先駆けて電子式のテレビを完成させた。しかし、特許出願前にテレビ実験を公開すると特許を取れなくなると思った高柳助教授は、実験後1年経った1927(昭和2)年秋に2件の特許出願をした*1

しかし、同時期にアイデアを得ていた米国の技術者ツボルキンが先にそのアイデアを基にして特許出願したので、特許はウェスティングハウス・エレクトリック社のツボルキンのものになってしまった(米国の場合、特許は発明者の名前で出願されるが、実務的には特許取得前会社に譲渡されることが多い)。そのため高柳助教授は「テレビの父」と言われながら、世界的にはテレビの発明者はツボルキン(図1はアイデアを真空管を用いて具体化したもの)ということになっている。

論文発表と特許出願

大学でも企業でも研究者は、自分自身の研究成果を外部に発表したいという欲求は強い。2002年に島津製作所のエンジニアだった田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞したことが、論文投稿への刺激になっていると思う。2007年時点で、化学分野において「博士の学位」「修士の学位」「専門職学位」を保持しない研究者でノーベル賞を受賞した研究者は田中耕一氏のみである*3ということになれば、企業研究者の論文投稿へのインセンティブはいやが上にも高くなる。

ところで、発明者が自分自身で外部に発表した場合、対象発明の新規性は失われてしまうと考えている人はいないだろうか?

このような発明を「新規ではない」として特許を与えないことにすれば、産業の発展上好ましくない。また、せっかくの研究成果を社会にいち早く知らせた発明者に対して厳しすぎると考え、わが国では、一定の条件のもとで救済することにしている。これが特許法第30条に規定されている「新規性の喪失の例外」で、以下の要件を満たすことが必要とされている。

[1] “特許を受ける権利を有する者(発明者と言い換えてもよい:以下同じ)”が試験を行って新規性を失った場合。
[2] “特許を受ける権利を有する者”が刊行物に発表した場合。
[3] “特許を受ける権利を有する者”が電気通信回線(インターネット等)を通じて発表した場合。
[4] “特許を受ける権利を有する者”が特許庁長官の指定する学術団体(大学を含む)の研究集会で、文書やスライド、プレゼンテーションソフトを使って発表した場合。
[5] “特許を受ける権利を有する者”の意に反して新規性を失った場合。
[6] “特許を受ける権利を有する者”が政府等の開設する博覧会に発明品を出品した場合。

ただし、発表日や公表日から6カ月以内に所定の手続きを踏んで特許出願しなければ、例外的取り扱いは受けられないという制約がある。

【特許を受ける権利を有する者】

発明をすると“特許を受ける権利”が発生し、発明者は発明完成と同時にこの権利を取得する。この権利に基づいて、特許庁に手続きして特許を受けることを請求でき、また願書や特許証に発明者として記載される。人に譲ることもできる。公的な性質と私的な性質を併せ持つ“無体財産権”と考えるとピッタリする。もちろん“財産権”であるから対価を伴う移転もできる。

また発明が共同でなされた場合、共同発明者全員が発明者になり“特許を受ける権利”は一体不可分で全員が“共有”することになる。この共有の場合、特許庁への手続きや権利を行使または処分をするに当たって、他の共有者の同意を得るか、あるいは共同で行うことが必要になる。従って、共同発明者を除いて特許出願した場合には、“冒認出願”になり、拒絶理由や無効理由を有することになってしまう。

企業でも大学でも、研究者はこのジレンマと戦い、外部発表と特許出願をうまく処理しなければならない。1つの方法を提案するとすれば、企業では学会発表や論文投稿の意思表示があれば、書誌事項を記載した書面に講演要旨や投稿原稿を添えて承認部署に提出し稟議(りんぎ)することになるが、稟議の承認者に知的財産担当部門を加えることだと思う。そうすれば、時間的に間に合えば特許出願後に外部発表ができるし、間に合わなければ「新規性の喪失の例外」の手続きを取って出願できるだろう。

これが大学ならば、発明取扱規程を整備した上で、大学の研究者に特許出願の必要性を啓発するとともに、修士論文、博士論文、学内シンポジウム等にはTLOや他の知的財産担当部署の担当者ができるだけ出席することにしたらどうであろうか。

発表前に特許出願することが大原則となるが、現実的解決を求める手順の一例を図2に示す。

図2

図2 研究成果を外部に発表するときの措置例