2009年4月号
特集  - 熱い「水」技術とビジネスの課題
海外水循環システム協議会設立の狙い

中村 裕紀 Profile
(なかむら・ひろき)

海外水循環システム協議会
事務局/株式会社日立プラント
テクノロジー 研究開発本部
松戸研究所 主管研究員

わが国は優れた水関連技術を持ちながら、浄水、排水処理・再利用、管理・運営などの国際的な水ビジネスでは欧米の企業(水メジャー)に先行されている。こうした課題に取り組むため企業約30社で海外水循環システム協議会を設立した。調査、技術開発、モデル事業実証などを通じて水循環システム運営事業の海外展開を目指す。

はじめに

安全で安定した水の供給は、食料・エネルギーの供給と並び、国や地域生活を支える重要なテーマである。世界的な人口増加と都市集中、生活レベルの向上に伴い、水不足や水環境悪化など水問題が深刻化している中、浄水、排水処理・再利用、管理・運営等「水ビジネス」の市場は2025年に100兆円規模に拡大するといわれている。一方で、わが国は優れた水関連技術を持ちながら管理運営面での実績が少なく、水ビジネスでは海外企業に先行されているのが実情である。

こうした中、2008年3月にCOCN*1の「水処理と水資源の有効活用技術プロジェクト」報告で、わが国の技術の強みを活かした新たな水ビジネス産業を育成し海外展開するため、その基盤形成に産学官連携で取り組むことを提言した。本協議会は、これを受け、民間企業によるフォーラムとして2009年1月に約30社で設立したものであり、必要な調査、技術開発、モデル事業実証などを通じ、水循環システム運営事業の早期海外展開と水問題解決への貢献を目指し活動を開始した。その設立の背景と狙いを紹介する。

世界水ビジネスへのアプローチ
(主にCOCN水資源プロジェクトでの提言)
1. わが国の課題

水ビジネスのグローバル企業として[1]欧州の水メジャー[2]新規にM&Aで進出する欧米企業[3]国家戦略と連動して取り組む企業―などが挙げられる。これらの多くは、施設所有から顧客管理までを包括的に取り組み、コスト削減手法やリスクヘッジ手法、またこれらを担保する長期契約手法にノウハウを有している。これに対しわが国の水企業は、管路の漏水防止や、水再利用、海水淡水化に代表される造水用の膜など個々の優れた技術を有するが、市場規模が大きい維持管理・運営を含む水サービス事業への取り組みが遅れ、実績は少ないのが現状である。これは管理運営事業が、国内では主として公共セクターの責務であるために、民間企業のビジネス領域が狭いことも一因に挙げられる。この状況下で、わが国は国際競争力を得るため、強みとする技術のさらなる革新とともに、総合水事業運営のノウハウ取得が急務となっている。

2. 海外展開のためのオールジャパン体制の確立

わが国の水ビジネスの海外展開は、現状では、個々の企業が模索しているのにとどまっている。プラントメーカーは、国内の上下水道設備建設の経験をベースに政府開発援助(ODA)に伴うプラント建設などを、商社は諸外国で民営化された水運営会社への投資を進めているが、世界での存在感はまだ大きいとは言い難い。そこで、民間企業が中心となるフォーラムを形成し、関係省庁や研究機関と連携し、オールジャパン体制で競争力強化のためのR&D推進や、事業運営のノウハウ取得、実績作りのためのモデル事業創出が必要である。

3. 地域特性を踏まえたトータルソリューション提供への取り組み
図1

図1 水ビジネスの対象領域

国や地域によって水を取り巻く状況、生活・文化もさまざまであり、水問題への取り組みには、幅広い業務領域と業態が求められる。そのため、地域特性、ニーズを踏まえた水活用に関するビジネスモデル構築や、水資源から水供給までの水循環にかかわるトータルソリューションの提供に取り組む(図1)。

協議会の設立と活動計画
図2

図2 協議会の構成

前述の提言を基に、有限責任事業組合「海外水循環システム協議会」を設立した。本協議会は、水循環にかかわるトータルシステムの管理・運営事業に適応できるよう、異業種の民間企業連合とした(図2)。ほぼ同時期に、国政のリーダーシップの下に産学官連携組織「チーム水・日本」が結成された。このオールジャパン体制の下、民間グループの一員として、世界の水問題解決に向け、水循環システム運営事業の海外展開のための基盤確立のため、次の活動を表1のスケジュールで展開する。

表1 活動スケジュール

表1
1. 調査

市場・ニーズ調査による対象地域の絞り込み、案件形成とともに、海外水メジャーの高い国際競争力の要因を調査・分析し、契約、調達ノウハウの情報収集、必要な技術開発・実証の提案、国や公共セクターの支援を得るための制度、政策提言を戦略的に行う。また、海外のコンサルティングファームや調査団派遣による現地調査、展示会の活用、現地政府へのPRを産学官連携して行う。

2. 技術開発

トータルシステムの競争力強化を目指し、ショーケースを兼ねた国内開発拠点を形成・運営する。ここは、大幅な省エネ、安心安全のための水質向上、水環境負荷低減に着目した革新的技術であるエネルギー回収、RO膜(逆浸透膜)の濃縮水処理などの実証の場として活用する。世界のニーズに対応するため、水とエネルギー、水循環管理ネットワーク、地域社会の計画・設計のための幅広い分野の技術を結集し、新たな水ビジネスモデル構築に向けたイノベーションに取り組む。

3. モデル事業検証

海外でのモデル事業(建設、運営の実証)を創出し、運営ノウハウを蓄積する。具体的には、次の地域を有望な市場として取り組む。

(1)アジア地域(東南アジア、インドなど)

わが国は、建設主体のODAで貢献しているが、現地での維持管理・運営面では十分に貢献できていない。そこで、一定期間の管理運営業務を含んだ国際貢献のスキームを構築し、分散型水循環システム運営、クリーン開発メカニズム(CDM)事業を活用した下水汚泥資源化施設の運営などを対象とする。

(2)MENA諸国(中東・北アフリカ)、中国北部、オセアニア等

水不足地域であり、最も市場規模が拡大し競争が激化している。そこで、造水を中心とするシステムのコストダウンおよびブレークスルーとなる革新技術を創出・付与し、総合的水資源計画、モデル都市計画(広域水循環・再利用システム運営)などへの参入を目指す。

なお、調査、フィージビリティスタディ等により案件の事業性が判断されれば、協議会の別組織として合弁事業(JV)や特定目的会社(SPC)を立ち上げ、事業化を推進し成果とする。

おわりに

「21世紀は水の世紀」といわれ、わが国も、世界に誇る技術を核とした事業展開、国際貢献にオールジャパン体制で取り組む機運と必要性が高まっている。本協議会の設立は、まさにその時流に後押しいただいた。世界に求められる21世紀・環境調和型トータルシステムの構築、海外への展開を目指して、個社ではできない活動を産学官連携し、ダイナミックに展開していきたい。関係諸兄の絶大なご支援をお願いする。

*1 :COCN:
Council on Competitiveness-Nippon、産業競争力懇談会