2009年5月号
連載1  - 子どものインターネット利用問題解決のための社会システム開発
(上)
携帯電話のインターネット機能から危ない情報
顔写真

下田 博次 Profile
(しもだ・ひろつぐ)

群馬大学 特任教授/
特定非営利活動法人
青少年メディア研究協会
理事長

子どもの携帯電話利用に伴う事件やトラブルが増え、社会的関心事になっている。問題はそのインターネット機能である。わいせつな写真や動画を見る、薬物やダガーナイフのような凶器を入手する、危ない大人と知り合う―などが子どもにも簡単にできてしまう。しかも親や教師に知られることなくできてしまう。事件やトラブルが起こると、子育てや教育に責任を持たねばならない保護者や教師が困る。こうした図式がこの10年の間に出来上がってしまった。

多様な携帯電話利用問題

平成20年から21年にかけて、わが国では子どもの携帯電話利用問題が社会的関心事となってきた。教育再生懇談会や文部科学省は、小中学校への携帯電話の持ち込み原則禁止や携帯電話を持たせないよう提言をしたり、いくつかの地方自治体の教育委員会は「携帯持たせない」宣言を出すようになり、大阪府では知事が子どもの携帯電話所有や利用を問題視するという事態にもなった。

こうした一連の動きの背後には、この10年の間に社会や学校で広がったさまざまな子どもの携帯電話利用問題がある。インターネットが使えるiモード型携帯電話が高校生に向けて売り出された直後から、援助交際という名の少女売春が発生、その後もネット詐欺や不法請求など子どもたちが携帯電話を使った犯罪被害、加害に巻き込まれていった。学校現場でも授業中の携帯電話利用や盗撮などの非行逸脱行為、ネットいじめ問題などに教師が悩まされるようになった。これらの諸問題は、援助交際ひとつとっても解決に至っていないばかりか、内容が多様化さえしている。

インターネット機能が搭載され年々進化する携帯電話は、思春期の子どもらにとって魔法のつえのような働きをすることがあまり知られていない。これを使えば、親にも教師にも知られること無く、禁じられたことがなんでもできる。わいせつな写真や動画を見ることもできるし、ご禁制の薬物やダガーナイフのような凶器も簡単に入手できる。危ない大人と知り合って、売春や詐欺など悪事を働くことさえやすやすとできる。これまでの長い子育ての歴史のなかで、親はもちろんのこと社会の大人たちが思春期の子どもたちに「こんなものを見てはいけない」とか「そんなことをしてはいけない」と禁じてきたことが、すべてできてしまう。それも親や大人に気付かれること無くできてしまう。そういう道具なのである。

今やいわゆるケータイを手にした思春期の子どもらは、従来親の目を気にしてできなかったことでもできてしまう。だから子どもは喜ぶし、子どもが喜んで使ってくれれば業者はもうかる。しかし思春期の子どもらが禁じられてきたことをやすやすとする結果として、事件やトラブルが増える。そのため最後は、子育て教育に責任を持たねばならない保護者や教師が困る。そうした図式が、この10年間に出来上がってしまった。

この子育てや教育をする上で保護者や教師を困らせる図式、すなわち子育て教育の営みにリスクを発生させる構図は、なぜ生まれたのか。まず第1の原因は、携帯電話の商品設計、売り方に問題があったと思う。具体的には、携帯電話にフィルタリング無しでインターネット機能が搭載され、高校生らに向けて安価に売り出されたことである。これにより子どもを見守り育てる保護者や教師の頭越しに危ない情報や危ない人物、危険な物品を、いつでもどこでも子どもにつなげてしまうことができる情報メディア環境が、短期間に形成された。

第2の原因は、その子育て教育上のリスキーな商品特性を保護者や教師が理解できなかったことである。そのため気が付いたら、思春期の子どもの健全育成にとって厄介な情報社会環境ができていた。そうした子どもの携帯電話問題は、日本に特有な現象である。

インターネット時代の市民教育プログラム

2004年1月のことだが、私たち(ねちずん村:NETIZEN Vil.という前橋の市民学習サークル)は、ニューヨークから高校生とご両親を招いて群馬大学の講堂でささやかな市民国際交流会を行ったことがある。そのときは、英国からも子どもとメディアの研究者やその友人らも参加し、地元前橋からはPTAの役員や教員さらには大学生や高校生らも出席した。

この「子どものインターネット利用に関する市民国際交流会」では、日米の子どもらのインターネット利用環境の違いがはっきりした。簡単に言えば、日本の青少年は携帯電話からインターネットの情報環境を使うのに対して米国の高校生らはパソコンからインターネットの各種メディア機能、情報の利用を行っている。また思春期の子どものネット利用では、米国の保護者はまずパソコンにフィルタリングをかける。そのうえで、最初は子ども部屋への持ち込みを許さず、パソコンを居間に置いて使わせるなど、子どもを見守り指導する。このような営みをペアレンタルコントロールと呼ぶが、日本では、このペアレンタルコントロールの努力はほとんどみられない。それが2004年の交流会の時点で確認された。特にぺアレンタルコントロールの難しい携帯電話からのインターネット利用では、フィルタリングをかけるという発想も無く、見守り指導も難しい。そうしたことが、ニューヨークの高校生や保護者、英国のメディア研究者らとの交流で、群馬県の保護者や教員にも分かった。

そのような日本の子どものインターネット利用の特異な状況を理解した保護者、教員と私の研究室(群馬大学社会情報学部下田研究室)は群馬県庁と協力して、インターネット時代、とりわけ携帯電話からのインターネット利用時代の子育て教育のための啓発活動やペアレンタルコントロール能力を学ぶ教材開発、講座開設を行うようになった。この講座は、その後PTAや教員のための市民インストラクター養成講座に発展する。群馬県では、この市民インストラクター養成講座を卒業したPTAや教員らが「知った人から知らない人へ」を合言葉に市民による市民のための「インターネット時代の子育て教育運動」を始めた。

このような動きは、群馬県にとどまらず鳥取県や茨城県、京都市、広島市へと広がりつつある。携帯電話ばかりでなく、パソコンやオンライン・ゲーム機でも子どもらがインターネットをする時代に、このような市民教育の早急な拡大が必要と私ども(NPO法人青少年メディア研究協会)は考え、平成20年度から独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センターの委託事業として「子どものインターネット利用・見守り指導活動支援システム(CISS:Civil Instructor Support System)」の開発に着手することになった。

CISSは子どもたちのインターネット上の情報、コミュニケーション行動を見守り、注意し、指導するための人材養成プログラム(ペアレンタルコントロール・プログラム)と、その種の教材による人材の養成や活動を支援する情報通信システムである。さらに言えば、地域で活動するそれらの人材と教育・青少年育成に関する行政組織が問題解決のための情報を共有、協働する仕組みをつくるためのインフラ・システムである。

地域で養成された子どもITボランティア(市民インストラクター)は、例えば通称「学校裏サイト」やプロフ(自分のプロフィールを作成・公開できるサービス)、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)と呼ばれるネットの遊び場等における子どもらの受発信を見守り、その内容を判断し危険な情報、コミュニケーションが行われている場合は注意、警告を行う。さらにそのような見守り活動の経験の過程から得られた知見をデータベース化、コンテンツ化し地域の保護者や学校関係者に向けて情報提供や啓発活動を展開するのである。次回は、このCISS開発の具体的展開状況について報告する。