2009年5月号
連載3  - 起業支援NOW-インキュベーションの可能性
いんざい産学連携センター 事業化を目的とした2つの研究会が始動
千葉県北西部の印西市が2006年6月に開設した「いんざい産学連携センター」(写真1) は、地元にキャンパスのある東京電機大学情報環境学部と連携した施設。ビジネス・インキュベーションのほか、企業の技術相談などに応じている。昨年秋からは産学の交流に力を入れている。交流の中から、事業化を目指す研究会が相次いで誕生した。

写真1

写真1 いんざい産学
     連携センター

印西市は千葉県北西部の自然環境に恵まれた都市である。人口はおよそ6万5,000人。3市2村にまたがる千葉ニュータウンの面積の約6割が同市にある。市の北部、利根川沿いにJR成田線が走り、その木下駅近くに市庁舎、警察署などがある。市の中央を東西に貫く北総鉄道・北総線の沿線にニュータウンのマンション群が点在する。ニュータウンの開発に伴って大型商業施設などが進出し、にぎわいを増してきた。

同センターは北総線・千葉ニュータウン中央駅から徒歩3分ほどのところにある産学官連携施設である。活動を始めたのは2006年6月。新産業創出をうたっており、ビジネス・インキュベートの部屋が10室ある。また、入居企業以外の企業向けに起業相談や技術相談に応じているほか、住民への情報発信機能も持っている。

電機大と市が連携

東京電機大学が千葉ニュータウン中央駅近くにキャンパス用地を確保し、2001年、ここに情報環境学部を設置した。そして、2006年2月、同大学と印西市は産業、教育、文化、まちづくり等の分野で連携協力することに合意。これが同センター開設に結び付いた。

同センターの事業は印西市が東京電機大学に事業委託する形で始めた。土地と建物は独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)と賃貸契約を結んで使用している。同大学はその後、NPO法人の「TDUいんざい産学官支援ネットワーク」を設立し、同ネットワークが現在、同センターを運営する指定管理者になっている。

印西市とその周辺地域は、製造業の基盤は必ずしも強固とはいえない。ニュータウンの住民も東京都内や千葉市などの近隣都市に通う人が大半で、地域産業の求心力は強くない。いんざい産学連携センターはオープンしてまだ3年足らずで、率直に言って、試行錯誤の段階のように見える。

入居企業は現在8社。東京電機大学発ベンチャー企業の株式会社ダイマジック(本社:東京都千代田区神田練塀町3番地 富士ソフト秋葉原ビル12階)もその1 つだ。

集う人の層を厚くする

昨年5月から同センターのインキュベーションマネージャーとして活動している小松原進氏(写真2)は「新事業創出、地域活性化に関心を持ってここに集まる人たちの層を厚くしたい。そのために交流、議論の場をつくりたい」という方針だ。

昨年11月、産学官の交流の会(いんざい産学連携センター交流会)をつくった。現在、会員は20社(企業・機関)を超えた。

写真2

写真2 
     いんざい産学連携センター
     インキュベーション
     マネージャー
     小松原 進 氏

■小松原氏の話
「交流会は年4回の開催。多様な考えを持った人が集まり、自然発生的にいろいろなことが起きるような場にしたいと考えている。昨年は、当インキュベーション施設の最初の卒業認定企業で、バイオ関連ベンチャーの日環科学株式会社の事例発表や、東京電機大学情報環境学部の最先端技術紹介(感性工学による3次元描写、超分散によるデータリカバリー、高度精密3次元測定等)セミナーを行った。セミナーの後の懇親会は会員同士だけでなく、大学の先生やゲストの方々との活発な交流ができたと思う。交流会の盛り上げにはボルドーワインも一役買っている。大学の先生や専門家の方はワイン好きだ」

今年度の交流会は、最先端の信号処理技術で画期的音響システムを開発した入居企業のダイマジックの浜田晴夫教授のセミナーや、産業技術大学院大学の石島辰太郎学長の講演(今秋)等を予定している。

最適な技術、ビジネスモデルを探す

また、小松原氏は最近「情報技術を活用した新しい農業ビジネス研究会」と「実践SNSコラボ研究会」という2つの事業化研究会を立ち上げた。この研究会は期間を1年間(月1回の会合を12回)と定めて事業化の研究を行う。

■小松原氏の話
「いずれも交流会を通じて、東京電機大学情報環境学部の先生と会員企業により自然発生的にできたもの。研究会は毎月1回開催。新しい製品や技術そして有望なビジネスモデルをどのように事業化(具体化) するかを、1年を区切りとして研究する。新しい試みなので、今後どのような形で進んでいくのかまだ予測もつかないが、成功・失敗の両方を検証して最適なものを探していくつもりだ。近い将来、この研究会からダイマジックのような入居企業やその予備軍が生まれてくるのが楽しみ」

産業基盤の弱い小さな自治体では、ビジネス・インキュベーション施設をつくって「起業したい人を募ります、お手伝いします」とPRしても、機能させるのはなかなか難しい。まして、印西市のように東京圏のベッドタウンとなると「地域産業振興」という旗印で集められる人も限られる。しかし、前述のようにベッドタウンであるが故に、都内の大企業や官公庁に通う人も多く、人材が豊富ともいえる。この地域では、都心と成田空港を30分台で結ぶ成田新高速鉄道が2010年度中の開業を目指している。同鉄道は首都圏東部-千葉ニュータウン-成田市-成田空港という鉄道の新しいルート。また、北千葉道路が一体整備されている。こうした条件を活かして、多様な人々の交流、議論を巻き起こそうという小松原氏の挑戦は興味深い。

(登坂 和洋:本誌編集長)