2009年5月号
編集後記

8年前に米国オースティンにあるATI(オースティン・テクノロジー・インキュベーター)を訪問した。鉄道の衰退で寂れていた都心部が、IT企業誘致で息を吹き返しつつあった。入居者が数年でビジネスに成功し、得られた知財権をすべて売却、別のテーマに挑戦するため再入居していた。そこで私自身が利用していたソフトの開発者に面会した時「もうあれは売り払った」と言われ、開いた口がふさがらなかった。重電機器業界で同じような品物を40年間作ってきた私は、ITの世界では製品寿命が数年という厳粛な事実に感銘した。今回の特集で紹介された機関はこの数年の間に生まれたのが多い。しかしATIのように発展の一途をたどってほしい。もちろんそれで町おこしも・・・。

(編集委員・稲村 實)

忙しくなると、ほかのことを行いたくなるのが人の常。私の場合にはわずかな時間をみつけて本屋に駆け込み買うことが今の楽しみだ。そんな中に「洋菓子の経営学」(森元伸枝著)という本がある。神戸にはおいしいスイーツを販売する店がたくさんあり、年に何回かはお世話になる。そのような店が集積している理由の1つがパティシエを育てる仕組みがあること。親方が自らの持っている技術を弟子に伝えるわけだが、弟子は独立しても同じものを作らないことが暗黙の了解としてあり、親方は心配せずに技術を伝えることができ、そこにイノベーションが生まれるとしている。人材育成の基本はこの人について習うこと。大学院の恩師の言葉「守・離・破」を懐かしく思った。

(編集委員・遠藤 達弥)

今月号のお勧めは、国際的な映像作家で早稲田大学で後進の指導に当たっている安藤紘平氏の「産学連携でハリウッドに挑む」だ。映画への思い、映画制作システムの分析と危機感、若い才能を育てなければという責任感、そして早稲田への誇りが感動的に伝わってくる。自分の考えていることを人に「伝える」という、文章術を超えた表現者の迫力を感じる。

省庁の報告書などでコンテンツビジネスに対する大きな期待が表明されている。しかし、各地のコンテンツビジネス振興の取材、記事編集を通じて感じたことは、ここでも東京一極集中の影響が大きいことと、こうしたビジネスに対する理解が進んでいないことである。行政機関、大学だけでなく産業界においてもそうだ。温かい視線が何よりの応援になるだろう。

(編集長・登坂 和洋)