2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
つくばの目覚め
先端研究施設を民間と共用する意義-タンデム静電加速器
顔写真

工藤 博 Profile
(くどう・ひろし)

筑波大学 数理物質科学研究科
教授


規制緩和により国立大学などが所有する高額な先端研究施設を企業などが利用できるようになった。民間との共用だが、利用できるのは設備本体のみならず、それにかかわる研究者と技術スタッフの専門知識と経験、さらに運営システムを含めた総合体である。大学の研究者にとっては、産業課題について専門的な議論を行う機会でもある。

はじめに

筑波大学では最近2 年間の先端研究施設共用事業*1により、学内のタンデム静電加速器実験施設(応用加速器部門)を総利用時間の20 ~25%の枠内で民間の産業利用(約10 課題)に供してきた。教育・研究に加えて多様な社会貢献が大学に期待され、キャンパス外とのかかわりを積極的に深める時代には、大学施設の民間利用は自然の流れと思われる。民間との研究施設共用に向けた模索と試行の現場からのリポートにより、その意義を浮き彫りにできればと思う。

自主開発の先端研究施設

本実験施設は、1976 年に稼働開始の12MVタンデム静電加速器および1996 年に導入された1MV タンデトロン加速器の維持管理と関連技術開発を業務としている。前者は大まかに10 年区切りで、原子核物理実験から原子・固体物理実験へ、そして加速器質量分析を含めた地球環境研究、あるいは重イオン照射加工の研究へと重心が移ってきた。後者のタンデトロンは物質分析の専用機として使用されているが、その一方で高速小クラスタービームの実用加速を実現し、基礎研究に提供できる希少な設備でもある。いずれの加速器も主要部品の更新と計測技術の自主開発が専任の教職員と中心的なユーザーの計15 名程度によって継続的に行われ、関連技術と経験が継承されてきた。このことが施設共用事業を支える土台になっている。

「先端」の担い手は人材
図1

図1 筑波大学静電加速器施設の産業利用実験
     課題一覧 (平成21 年3 月末現在)

先端研究施設とは設備本体ではなく、それにかかわる研究者と技術スタッフの専門知識と経験、および運営システムを含めた総合体であり、「先端」の維持は本質的に人材が担っている。特に産業利用を含めた大部分のユーザーに対しては、インターフェース役のコーディネーター・支援スタッフのかかわり方が研究成果の成否をほぼ決定する。産業利用課題は到達点が明確であり、そこへ最短時間で行き着くために、施設側には実験支援の効率とスピードが求められる。産業利用課題が先端的、開発的であるほど、支援スタッフを含めた全事業スタッフ(学内の関連研究者)の専門知識と経験に基づいた現場での対応が必要とされる。そこでは、紛れもなく大学の知的財産の活用と移転が実践されている。

共用事業の実際
図2

写真1 第56 回応用物理学関係連合講演会
     (平成21 年3 月末)における本事業の広報活
     動:応用加速器部門の展示

実験課題一覧を図1 に示す。これらは各種の広報活動(写真1)を通じて集まった課題であり、学内の審査を経て採択された。課題の内容は主にイオンビームによる分析、加工、照射実験であるが、施設内における放射性同位元素利用の実験も含まれる。本実験施設は高いエネルギー領域(100MeV 程度)に至る多種イオンビームと関連計測系を利用できる点に特徴があり、このことが外部機関・産業利用ユーザーへの求心力になっている。実験に先立って、ユーザー、支援スタッフ、専任の教職員等で通常複数回のミーティングを実施し、周到な計画に基づく実験が行われている。現在すでに5 課題を終了し成果報告書が公開もしくは公開準備中である。産業利用への配慮として研究内容等の公開は延期可能(2 年)であり、成果の利用、知的財産権の管理、秘密保持に関して筑波大学では本事業に関する施設利用約款を定め施行している。

民間利用と理工系教育ー結びにかえて

大学の研究者にとって複数の企業の研究者と各産業利用課題について専門的な議論を行う機会はそうあることではない。こうした情報共有の作業を通じて産業技術の開発活動を垣間見ることは、高等理工学教育を担う者にとって大変有益である。実際のところ、日々進歩する科学技術の基礎知識を体系化した理工系教育カリキュラムは一定期間ごとに更新する必要に迫られる。教員がそれを行う際に、産業技術開発の最前線の情報が有効に反映される仕組みは重要である。大学施設の民間との共用が制度として定着すれば、理工系教育プログラムの作成プロセスに新しい社会的視点をもたらすことになるだろう。

*1
筑波大学の研究基盤総合センター応用加速器部門では、平成19~20年度に文部科学省先端研究施設共用イノベーション創出事業(産業戦略利用)を実施し、21年度からは継続拡大事業としての先端研究施設共用促進事業「マルチタンデム加速器施設の学術・産業共用促進事業」を推進している。