2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
つくばの目覚め
研究機関、徐々に横の連携に関心
顔写真

後藤 勝年 Profile
(ごとう・かつとし)

独立行政法人
科学技術振興機構(JST)
イノベーションサテライト茨城
館長

つくば地域では、大学だけでなく旧国立研究所などの研究機関も徐々にお互いの連携に関心を持ち始めている。JSTイノベーションサテライト茨城の後藤勝年館長に、こうした変化と将来像について聞いた。

——以前からつくばの研究機関は東京に顔を向けていて、地域としてのまとまりがないといわれます。しかし、環境が大きく変わり、連携する必要が出てきました。

後藤  つくばにはたくさんの研究所がありますが、地域内での横の連携がほとんど進んでいなかったことは事実です。大学は待ったなしに社会貢献や地域とのかかわりが求められ、既に動き出しています。これに対して、旧国立研究所は一部を除いて、産学官連携に関する意識は依然として低い状況にあるようです。研究所は各省庁直属で、個々のミッションさえこなしていれば研究資金は自然に下りてくるといった、縦割りの最たるものでした。科学技術庁(現、文部科学省)のつくば研究交流センターは、当初は各研究所をまとめようと意欲的でしたが、残念ながら現在はほとんどかかわりがありません。筑波研究学園都市交流協議会(通称:筑協)は、そうそうたるメンバーからなる立派な会ですが、一言居士が多く、対象も広範囲過ぎて必ずしも機能的ではないようです。しかし、これに替わるものがなく、やはり筑協にはつくばを効率よくまとめる役割を担ってほしいものです。

——変化の芽は出ているのでしょうか。

後藤  各研究所を訪問して事情を聞いてみましたが、今の状況に危機感を持っている人は確かにいます。従来から独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は連携意識が高く、競争的研究資金の獲得にも積極的な姿勢を示しています。独立行政法人になって以来、ほかの研究機関も危機感を持って動き始めたところです。独法化により、大学と同じように運営費交付金ですべて賄わなければならなくなりました。交付金は、ある意味では使い勝手がいいものの、毎年1%削減されるのは大変なことです。独立行政法人物質・材料研究機構や独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構などにも産学官連携室が設置され、皆が少しずつ縦から横を向くようになってきたところです。

——雰囲気が変わり始めた中で、JST イノベーションサテライト茨城がいろいろな働き掛けをしているのですか。

後藤  必ずしもサテライトが先頭に立っているわけではありません。茨城県と当サテライトが主催する「茨城県コーディネーター・ネットワークシステム連絡会」の会合を2007 年11 月にひたちなか市で開催したのを皮切りに、こうした取り組みに関して、県やつくば市とも協力を深めようとしています。

——県はどこが中心となっているのですか。

後藤  企画部、商工労働部ですが、実働は商工労働部です。つくばの研究所は敷居が高いという先入観にとらわれていたせいか、県とつくばの連絡はあまりスムーズではなかったのが、ここ2 ~3 年でその関係は良くなってきました。当サテライトがかなり橋渡し的役割を果たしてきたと思います。当サテライトが開館した時から、県から職員と科学技術コーディネーターを各1 人ずつ派遣してもらっています。この4 月から、県は産総研と提携し、交互に1 人ずつ職員を派遣しているようです。

——JST の役割が期待されているわけですね。

後藤  JST はさまざまな点で橋渡しのできる立場にあります。筑波大学産学リエゾン共同研究センターも設立されて5 年余りたったところで、いろいろなことが動き出して間もない状態です。県もつくば市も当サテライトに気軽に相談に来られるようになりました。

——JST イノベーションサテライト茨城の取り組みは ?

後藤  当サテライトの役割の1 つは、地域イノベーション創出のためのプロジェクトを推進することです。とにかく研究プロジェクトの内容を説明し、良い研究には資金を提供し、社会に役立つ成果を挙げてもらうことが重要です。JST は特に中小企業側に名前が知られていなかったのですが、しっかり宣伝した結果、最近少しずつ名前が浸透してきました。シーズ発掘試験などは件数も多く、シーズ(研究成果)が数多く蓄積してきました。次に、これらシーズをいかに地域の企業に効率よく売り込み、ニーズとのマッチングを図るかが問題で、力を注いでいきたいところです。

——つくばエクスプレス(TX)ができたことは画期的なことですね。

後藤  首都圏が近くなって便利なこともあり、TX 沿線には人が集まってきました。関心は持たれていますが、いまだ企業の進出は少なくて残念です。首都圏に近い割には土地の値段が安く、気候も比較的良く、来年茨城空港も開港します。圏央道の建設も着々と進み、将来は成田空港とも高速道路でつながります。

——都心から来るのが便利というのは、逆に東京志向が強まるのではないですか。

後藤  それは一理あり、現実的にもそれは否定できません。つくばは、TX 開通以前は、つくば万博以来の高速バス以外に公的交通機関のない「陸の孤島」でした。大きな変化の1 つとしては、筑波大学の人の流れが変わったことでしょう。首都圏の学生が増え、1 時間で通える首都圏大学となり、偏差値も上がっているようです。つくば市は20 年前に6 町村が合併してできた都市でした。旧町村役場庁舎に分散していた市役所の機能も、TX 研究学園駅前に間もなく完成する新庁舎に集約されます。また、同駅前の巨大なショッピングセンター内には筑波大発のベンチャー「CYBERDYNE 株式会社」の「CYBERDYNE STUDIO(サイバーダインスタジオ)」がオープンしました。つくば市は人口も増えており、名実共に申し分ない国際都市に成長するものと思います。

聞き手・本文構成:登坂 和洋(本誌編集長)