2009年7月号
特集  - 多芸多才 繊維の素顔
福井県の繊維新素材開発における産学官連携
顔写真

勝木 一雄 Profile
(かつき・かずお)

福井県工業技術センター
企画支援室 産学官共同研究
グループリーダー、総括研究員

かつて羽二重など絹織物の大産地だった福井県は、現在でもナイロンやポリエステルを中心に糸、織物、加工、機械、縫製など繊維関連の幅広い業種の企業が存在する。福井県工業技術センター、福井大学などと企業が連携して先端技術を利用した繊維の新素材開発にも積極的に取り組んでいる。

福井県では、福井県工業技術センター(福井市)、福井大学(福井市)などを中心に産学官連携で繊維の新素材開発に積極的に取り組んでいる。本県はかつて、羽二重など絹織物の大産地だったが、その後、ナイロンやポリエステル織物に変わり、現在はこれらに加え、先進技術による繊維新素材の研究開発、製造の拠点になっている。

まず、本県の産業振興の基本的な方向性と産学官共同プロジェクトについて説明しておきたい。

福井県では、県内産・学・官それぞれのトップが集まり、平成17 年3月、県内産学官が一体となって取り組むものづくり力強化に関する、おおむね10 年間の中長期的計画「最先端技術のメッカづくり基本指針」を取りまとめた。

この指針の特徴は、本県が他県に比べて優位性を有する技術蓄積(比較優位技術)等を踏まえて、将来の本県産業を支える最先端技術分野での技術開発等を推進することにより、県内に新たな産業クラスターを形成することを目指すところにある。すなわち、すでに蓄積されていて独自性の高い繊維技術や眼鏡産業のチタン等の難加工性金属加工技術、表面処理技術などを発展させ、最大の武器にしようとするものだ。地域企業にとってみれば、自分たちの何をどう伸ばせばよいのかが身近に理解できる(図1)。

図1

図1 4つの新産業クラスターとそれを実現するための5つの最先端技術

地域のものづくりに携わる人たちがそのように明確な方向性を持って進んでいるため、例えば地域の産学官共同プロジェクトも系統立って進展し、経済産業省や文部科学省関係の競争的研究資金の活用も人口や産業規模に比べて極めて高くなっている(図2)。

図2

図2 福井県の産学官共同研究プロジェクト


次に、このような中で最近進展している繊維関係の3 つの新素材開発を紹介する。

軽量かつ耐衝撃性に優れた航空機用繊維樹脂複合材

「炭素繊維」と旭化成せんい株式会社(大阪市)が開発した新素材「ポリケトン繊維」の2 種類の繊維を組み合わせて開発を進めている。航空機の機体材料などに期待される素材である。炭素繊維の高強度と、ポリケトン繊維の軽量で耐衝撃性に優れている特徴を併せ持つ材料となり、安全性の向上にもつながる。

図3

      図3 軽量で耐衝撃性に優れた安全性の
          高い先端複合材用繊維基材の開発



写真1

写真1 糸束の開繊技術

航空機や自動車などの輸送機器は燃費効率の向上が大きな課題。コストを下げ二酸化炭素の排出を削減することが求められているからである。目指している新素材はこうした時代の要請に応えるものだ(図3)。

キーテクノロジーとなっているのは福井県が保有する特許「開繊技術」。この技術で2 つの繊維を「積層複合」化する。開繊技術とは、数千~数万本のフィラメントで構成され断面が数ミリ程度の厚みとなっている糸束を、厚さ数十ミクロンで幅が数十ミリの薄いシート状に広げる技術である。一定の空気の流れの中に糸束をたわませながら通すことによって、糸が幅広く広がるという独創的な技術で、世界各国で特許を取得し、県内外の多くの企業に技術供与(特許の実施許諾)を行っている(写真1)。

開発は地元の中小企業である中島織物工業株式会社(福井市)が中心になり、旭陽産業株式会社(福井市)、旭化成せんい株式会社、金沢工業大学(石川県野々市町)と福井県工業技術センターが連携して行っている。

なお、この開発には経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(平成19 ~21 年度)」を活用している。

多層構造織物による寝具用クッション材
図4

図4 多層構造織物の構造設計

合繊の素材には高温を加えると収縮するものと、あまり縮まないものがある。また、収縮するものでもその縮み方は異なる。こうした原理を利用し、図4 のように、一部に熱で縮むポリエステル糸を使って3 ~4 層になるように織り上げた平板な織物を、およそ150 度で熱処理をすると立体的に膨らむ。断面は糸のトラス構造により空気層(空間)が層状に重なる。クッション性、耐久性、通気性に優れていることに加え、ポリエステル系の繊維のみでできていて金属やウレタンを含まないのでリサイクルも容易だ。

永平寺サイジング株式会社(福井県永平寺町)はクッション性のある多層構造織物の開発を進める中で、その技術の研究に取り組んでいた福井県工業技術センターに対して評価技術に関する指導を求めた。織物の材料や構造についての高度な技術課題や性能特性を改良する研究開発の必要性が出てきたため、同センターを中心に福井大学、原糸メーカーの帝人ファイバー株式会社(大阪市)、大手寝具メーカーの西川産業株式会社(東京都中央区)の産学官連携で、今までにない寝具用クッション材開発に成功した。

この技術は日刊工業新聞社主催(中小企業基盤整備機構とNEDO が共催)の第3 回モノづくり連携大賞中小企業部門賞など多くの賞を受賞した。

西川産業が採用し、平成19 年に「エアーサイクロン」ブランドで発売し、大ヒット商品となった。帝人ファイバーからも犬用マット「タフィー」ブランドなどで商品化されている。現在、スポーツ、介護など新規の市場開拓を目指した開発が続いている。

電子タグを織り込んだ布

東京大学の廣瀬通孝教授、株式会社ユティック(福井県坂井市)、福井県工業技術センターなどの研究チームは、電子タグ(物体の識別に利用される微小な無線IC チップ)をたくさん織り込んだ布を使い、その布上を歩く人の位置や動きを検知できるシステムづくりに取り組んでいる。

0.4 ミリ角のICチップを搭載した電子タグを、糸状にして織物の縦糸として使用することにより自動織機で織り上げることに成功し、現在は10 センチ間隔で電子タグを織り込んだ試作品を作成してさまざまな評価を行っている。この布は染色加工も可能であり、触り心地は普通の布と変わりない。

例えば、電子タグ読み取り装置を履物の中に埋め込んだりすれば、この布を敷くだけでその上を移動する履物内の装置の位置を検知することができるため、介護施設で入居者の位置を認識するためのシステムへの応用といった斬新かつ具体的なアイデアが生まれ、周囲からの期待が高まっている。現在、効果を検証する実証試験の計画が関係者の間で進んでいる。

軽量でフレキシブル、敷設や撤去が容易という「布であることの特性」を最大限に生かしたこの新しい材料・システムへの注目度は高く、将来はイベントや美術館などでの案内サービス、ロボットの自動走行システムなど多様な分野での展開が期待されている。

なお、この開発は経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(平成20 ~21 年度)」を活用している。