2009年8月号
特集  - 問われる「医」応える「医」
工学、薬学系等の技術者向け「医学」公開講座
~イノベーション起こす東京女子医大の医工融合教育~
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岡野 光夫 Profile
(おかの・てるお)

東京女子医科大学先端生命医科学
研究所 所長・教授


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小林 純 Profile
(こばやし・じゅん)

東京女子医科大学先端生命医科学
研究所 助教


東京女子医科大学は企業、研究所、病院などで業務に従事している工学系、薬学系などの技術者を対象とした1年コースの「医学」公開講座を開いている。前身のカリキュラムを含めおよそ40年の歴史があり、これまでに1,700名を超す修了生を送り出している。医工融合でイノベーションを起こすことを目指している。

東京女子医科大学バイオメディカル・カリキュラムとは

医学・医療に高度なテクノロジーをタイムリーに導入する仕組みは、先端医療の発展と医薬・医療機器産業の発展に極めて重要である。特に近年、医工連携の重要性が一般に認識されるようになってきたが、東京女子医科大学はそのはるか以前、1969年に先端生命医科学研究所(旧名称:医用工学研究施設、2000年に改組)を設立し、医学部内に設置された工学研究の場として独創的な研究開発および人材育成に取り組んできた。さらに、1970年に医療産業技術者のための系統的医学教育を目的として、現在のバイオメディカル・カリキュラム(BMC)の前身、医用工学教育カリキュラムを開講した。第39期(2008年9月修了)までの間、1,747名の修了生を輩出してきた。

本学BMCは、企業、研究所、病院などで業務に従事している工学系、薬学系等の技術者などを主な対象として、これらの人たちが日常業務に従事しながら、医学全般についての系統的な知識を学べるようにスケジュールされた、1年コースの公開講座である。トピックスのみを追う単なるセミナーではなく、医療産業に携わる人たちが、正しい系統的な医学知識を学べ、かつ実習・見学等により医学と医療の実地に触れることができる。特に、産業界からの受講生を積極的に受け入れ、医学と工学が融合した最新の先端医学、バイオメディカルエンジニアリングを常に取り入れた最新カリキュラムを提供している。BMCの特長を表1にまとめた。

表1 バイオメディカル・カリキュラム(BMC)の特長

表1

表1に示した通り、BMCを通して異分野・競合企業同士が交流できるが、こういった横のつながりに加え、すべての修了生間で交流を持つための仕組みがある。BMC修了生を中心母体とし、卒後教育を行うとともに、日本の未来医学・未来医療について学際的に幅広く考察していく知識集団として、1978年1月に未来医学研究会が設立された。年1回の総会開催、年1回の会誌「未来医学」の発行等の活動を行っており、全修了生への情報発信、異分野・異業種間のネットワーク構築を促進している。

BMC修了生が開発した先端医療技術の代表例

40年近い歴史の間、日本の医薬・医療機器産業、学会等で活躍する数多くのユニークな人材を輩出している。ここでは、BMC修了後にご活躍されている方々の中から、代表的な先端医療技術を開発された方々についてご紹介する(図1)。

図1

図1 BMC修了生が開発した先端医療技術の代
     表例

5期修了生の寺田昌章氏は、オリンパス株式会社(当時、オリンパス光学工業株式会社)で内視鏡の研究開発に携わり、1993年から内視鏡事業を統括、2003年には研究開発センター長を務められた。また、2004年から2009年6月の退任まで取締役専務執行役員を務められた。1950年に開発された胃内を撮影する胃カメラは、現在では消化器、気管支等のあらゆる部位の直接観察と同時に、処置・治療も可能なビデオ内視鏡へと発展した。内視鏡は患者さんへの負担が少なく、かつ医療効率性も高いため、病院にとって不可欠な医療機器となっている。消化管用内視鏡の世界シェア70%を占めるまでになった。

17期修了生の荻野和郎氏は、現在、日本光電工業株式会社代表取締役会長を務められている。同社のCardiolife自動体外式除細動器(AED)は一般人が使用可能な除細動(PAD:Public Access Defibrillation) 用の機器であるために、装置が救命の手順を分かりやすく伝えること、使用者が迷うことなく除細動できる簡単な操作性であること、いつでも使えるためのセルフテスト機能を搭載していることをコンセプトに開発された。そして、より精度の高い除細動適応の判定ロジックを追求し、患者さんにより速く、より最適なエネルギー値と波形での通電を可能にした。民間企業などPAD市場での急速な普及により非常に順調に売り上げを伸ばしている。

最近の例としては、東芝メディカルシステムズの浜田祐二氏は、34期BMC(2002~2003年)の受講と並行して、心臓の3次元画像を撮影する世界初の64列CTスキャナを開発し、その成果で2005年日経BP技術賞を受賞された。さらに、頭部、心臓などの動画撮影を実現した世界で唯一の4次元CTスキャナ、Aquilion ONEの開発完了後、米国に移り、本製品の米国内マーケティング、販売活動を支援されている。装置を導入したJohns Hopkins University、Brigham Women’s Hospital等、世界に冠たる施設の医師との討議で、BMCで学んだ知識が役立っているとのことである。

おわりに

先端生命医科学研究所は、2008年4月から東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns)に移設し、早稲田大学大学院と一体となっての新しい出発を切った。早大のロボット、機械工学、高分子化学、生命科学のテクノロジーを医学と融合させ、また医療関係企業との連携により新しい先端医療産業を切り拓く挑戦を進めている(図2)。このような環境の中、BMCは従来の基礎と臨床を中心とする系統的医学教育に加え、新しい先端医療産業の創成、すなわちメディカルイノベーションを起こすべくグローバルな研究・教育・産業について幅広い視点からの人材育成を目指す。医療テクノロジーの開発とその発展を目指すチャレンジ精神が旺盛な方々の受講を望む。

図2

図2 東京女子医科大学・早稲田大学連携 先端生命医科学研究教育施設(TWIns)