2009年10月号
単発記事
科学と地域社会つなぐ社会起業家
-特定非営利活動法人 natural science-
顔写真

大草 芳江 Profile
(おおくさ・よしえ)

特定非営利活動法人
natural science 理事


若手研究者・学生主体のNPO法人natural science(仙台市)は年に一度、地域ぐるみの科学イベントを主催している。幼児から社会人まで幅広い層を対象に、科学を結果だけでなく、そのプロセスを五感で体験できる場づくり、それを通して科学を切り口に地域社会を可視化する場づくりを目指している。

「科学で地域づくり」を目指す若手主体のNPO法人

著者が理事を務める特定非営利活動法人natural science(仙台市)は「科学で地域づくり」を目指す、組織の枠を超えた若手研究者・学生主体のNPO法人である。著者は研究者でも学生でもない立場から、企画・運営・広報役として2006年に活動を開始した当初から携わっている。

活動の中心は研究・教育活動だが、年に一度、産学官による地域連携型科学イベントを主催している。本稿では、著者が今年度主に取り組んだ『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』を通じて、科学コミュニケーションについて感じたことを書きたいと思う。

科学のプロセスを五感で感じる・科学で地域が見える

一般的に「科学」と言うと「既に出来上がった体系であり、客観的で完ぺきなもの」というイメージが強いように思う。何を隠そう、著者自身も高校生のころまで、そう信じ切って勉強をしてきた。しかし当然のことながら、結果に至るまでのプロセスがあり、その原動力となる人の思いがあって、今のわたしたちの社会がある。

社会の成熟化に伴い、科学や技術はブラックボックス化し、わたしたちは便利さと引き換えに、科学や技術のプロセスを五感で感じる機会を失ってきた。しかしながら、科学や技術のもたらす結果を一方的に享受するだけでは、科学離れ問題や科学リテラシー不足などの社会的リスクを回避することはできない。

ならば、ブラックボックスを少しだけ開けてみて、科学や技術のプロセスを五感で感じることができる場を、この地域につくることはできないだろうか。よくよく見てみると、仙台・宮城は、企業や大学・研究機関などが密集する、本来ならば科学が身近にある地域である。そこで、「科学って、そもそもなんだろう?」をテーマに、結果だけでなくプロセスを五感で体験できる場づくり、それを通して、科学を切り口に地域社会を可視化する場づくりを目指した。

出展団体数2日間のべ50団体、のべ69プログラム
写真1

写真1  結果だけでなくプロセスを五感で体験
     できる展示物の様子



写真2

写真2 開発や研究等を行った本人による双方
     的対話の様子

今年は『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009』として、東北大学片平さくらホールを会場に2日間開催した。出展条件は「結果だけでなくプロセスを五感で体験できる展示物」と「開発や研究等を行った本人による双方的対話」とすることで、目に見えやすい成果や製品等の結果ばかりでなく、研究や開発等の裏側を、その原動力となる人の思いを通して体感できる場づくりを目指した。各団体へ提案したところ、2日間でのべ50の企業、大学・研究機関、行政機関が出展、のべ69の多種多様な体験プログラムが実施された。その結果、幼児、小中高生、大学・院生、研究者・技術者、社会人等の幅広い層から、約1,400人の参加があった(写真1、2)。来場者アンケートでは「参加して科学に対する新しい発見があった」と答えた人が97%あった。また来場者だけでなく出展者からも「とても楽しく有意義だった」「運営面で苦労もあるだろうが、今後の継続を望む」という声を多数得た。

“ゆるやかな”科学コミュニケーションを重視

昨今、科学コミュニケーションの重要性が叫ばれ、さまざまな取り組みが実践されている。しかしながら依然として、研究者等と一般市民の間には「どうせ理解されない」「どうせ理解できない」というある種の壁があり、双方にとって精神的な負担になっていると感じている。

そこで、コミュニケーションの前提として、そもそも感じることは各人各様であることに立ち返りたい。そのためには、コミュニケーションにあえて方向性を持たせず、それぞれの人が感じたいように感じられ、深めたいだけ深められるような“ゆるやかさ” をつくる工夫が重要だと考える。

natural scienceでは「プロセスを五感で体験」というアプローチによって、出展者側も来場者側も、子どもから専門家まで、各人各様に楽しく有意義なコミュニケーションが実践できる場づくりを目指してきた。さらに昨年からは産学官による地域連携型イベントとすることで、出展者側も来場者側も、科学に関してより多様な層が参加できるよう、その“ゆるやかさ” を広げてきた。来年は単に要素を増やすだけでなく「テーマ」という切り口を加えることで、コンセプトを拡散させることなく、物事の多面性を表す工夫をしたいと考えている。

科学の本質は、対象に直接触れ、自分の目で見て、自らの五感で感じることから始まる。その始まり方が各人各様であるという前提に耐えられるような、科学コミュニケーションの在り方を探りたいものである。