2009年11月号
連載2  - ベンチャー企業の資金調達 入門講座
第2回 ベンチャーと資金-企業経営に必要な資金、財務の知識
商品を販売しても現金回収には時間
顔写真

向山 尚志 Profile
(むこうやま・たかし)

山口大学大学院 技術経営研究科
教授


会社を設立して事業を始めるには資金が必要だが、売り上げの増加に対応して必要となる運転資金にも注意しなければならない。注文があったときにすぐに出荷できるように、自社が販売するもの(商品や原材料など)についてある程度の在庫を保有しておく必要がある。また、販売しても、その代金を現金で回収するまでには2~3カ月かかるのが一般的。キャッシュフローが不足しないような経営が求められる。

企業経営に必要な資金の種類は?

ベンチャー企業に限らないが、企業をスタートしたときに必要となる資金にはどのような種類があるのだろうか? 最初は会社設立のための費用がある。かつては株式会社設立のための最低資本金が1,000万円、有限会社でも300万円という商法の規定があった。2006年に施行された「会社法」には、会社設立のための最低資本金の規定はなく、資本金1円でも会社を設立できるようになったが、設立登記や本社関係の事務的な手続きに加え、すぐに電話や事務機器類の設置に必要なお金が発生する。ただし、会社を設立しなくても個人として事業を行うことは可能であり、節約する余地はある。いずれにしても事業立ち上げの資金は最初の資本金か、それで不足すれば借り入れ金に頼らざるを得ないが、この段階から借り入れに頼るのは危険である。

ベンチャー設立の後、事業計画の立案などに着手するが、この段階では一般にあまり多額の資金は必要とされない。ただし、最初から研究開発に取り組むような事業の場合にはそのための資金確保が欠かせない。事業計画が固まり本格的に事業を開始する時期になると、製品の生産のために必要な設備の導入や原材料の購入、販売拠点の整備などで必要な資金の額は急速に拡大する。従ってベンチャーの場合に製品企画から生産・販売までを最初からすべて自前で行おうとするのは極めてリスクが高い。そのため最初は商品の企画だけを行い、実際の生産はほかの企業に委託するファブレス方式や、販売は代理店方式や加盟店を募集するフランチャイズ方式にするなどの工夫が必要である。

運転資金の確保も重要

これだけではなく売り上げの増加に対応して必要となる「運転資金」がある。最終消費者向けの商品を直接販売している場合は日銭が入るから良いが、企業経営において商品を販売してもその代金をすぐに現金で回収できることは少なく、「売掛金」として2~3カ月後に現金が手に入るのが普通である。損益計算上は一般に商品を顧客に引き渡した時点で売り上げとして計上され利益の源泉となるが、キャッシュフローとは大きな差が生じる。また、売掛金から手形に書き換えられて現金の入手がさらに数カ月先になる場合もある。一方、自分が支払う原材料費などでも「買掛金」として実際の現金支払いを先に延ばすことは可能だが、売掛金の方が多額であり、この売上債権と支払債務の差額の資金確保が必要になる。

また顧客からの注文があったときにすぐに出荷できるよう、ある程度の商品や原材料の在庫(棚卸資産)を保有している必要がある。このため「売上債権と支払債務の差額」+「棚卸資産保有額」が所要の運転資金となる。運転資金の所要額は顧客や仕入れ先との決済条件次第で決まってくるもので、一般に売上高の○カ月分というように計算される。従って急成長するベンチャーほどキャッシュフローが不足し、運転資金の必要額が増加することになるのである。そのため、在庫を多く持ち過ぎないことも重要になる。

損益分岐点を把握する

前回、スタートしたばかりの企業では利益よりもキャッシュフローの確保が重要と述べたが、もちろん早期に利益を上げられる体制を作ることも不可欠である。そのためにはどの程度の売り上げがあれば損益が黒字になるかという「損益分岐点」を把握することが重要である。企業の経営の中で発生する費用は、生産・販売の量におおむね比例的に増加する「変動費」と、生産販売量にかかわらず一定の「固定費」に分けて考えられる。変動費は原材料や外注費、使用エネルギーの費用などが代表的であり、固定費としては設備の減価償却費や賃借料、固定資産税、正規従業員の給与などが挙げられる。

図1

図1 損益分岐点の概念



図2

図2 損益分岐点の構造

つまり最初に売上高がゼロのときでも固定費は必ず発生するのでその分が赤字になるが、売上高が増加するにつれて売り上げから変動費を差し引いた額(これを「限界利益」という)で少しずつ固定費を賄えるようになり、売上高がある一定額に達したとき限界利益がちょうど固定費に等しい状況になる(図1)。これが損益分岐点売上高であり、これは簡単な一次関数として計算することができる。

売上高をR、変動比率(変動費の売り上げに対する比率) をv、固定費をF、とすると、損益分岐点売上高においては以下の数式が成立している

R-R×v=F すなわち、R×(1-v)=F

これにより、R= F÷(1-v) となることから

⇒ 損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動比率)

このことから少ない売り上げでも利益が出るように損益分岐点売上高を小さくするためには、分子の固定費を小さくするか、分母が大きくなるように変動比率を小さくすることが必要だが、一般には固定費を抑えることが重要である。従って、ベンチャー企業では最初の段階で多額の設備や従業員を備えるのでなく、ファブレスや外部企業との提携などを行うことが有効である。売上高が損益分岐点を越えれば利益が増大するが、今度は逆に固定費が大きく変動比率の小さい方が利益拡大のペースが速まることが分かる。

例えば、売上高=100、利益= 10のA、B、2つの企業があり、現在の利益率はどちらも10%だが、Aは固定費が40、Bは固定費が60という構造である。この場合の損益分岐点はAが80、Bが85.7で、Aの方が先に利益が出るが、売り上げがさらに120のように大きくなればBの方の利益が大きくなる。すなわち、多くの需要を確保できる状況になったら、自社で生産設備を持つ方が有利になるわけである(図2)。