2010年1月号
特集2  - 市町村を元気にする大学の効用
愛媛県愛南町
愛媛大学南予水産研究センターを核に水産振興
顔写真

長田 岩喜 Profile
(おさだ・いわき)

愛媛県愛南町 水産課 水産研究
開発室 室長


愛媛県最南端の愛南町には四国一のカツオの水揚げを誇る深浦漁港がある。マダイの養殖は日本一である。こうした水産業を振興するため、同町は愛媛大学と共同で町内に「愛媛大学南予水産研究センター」を設置した。

愛媛県の最南端にある愛南町は、足摺宇和海(あしずりうわかい)国立公園の自然の恵みを受け水産業や観光産業が盛んな町である。水産業の生産額は年間250 億円。四国一のカツオの水揚げを誇る深浦漁港を有し、一本釣りや小型底引き網など漁船漁業が盛んな一方、リアス式海岸を利用したハマチ、マダイ、真珠母貝等の全国屈指の養殖生産基地である。

愛媛大学南予水産研究センター設置に至る経緯

愛南町が属する宇和海は日本一を誇る養殖マダイの産地である。近年、安価な養殖産物の輸入、漁業者の高齢化・後継者不足などにより、町の養殖生産額は減少している。また、公共事業の縮小、大手製造業の撤退などにより、町の経済・雇用情勢は著しく悪化、経済の再生による地域の活性化が喫緊の課題である。

写真1 愛媛大学南予水産研究センター

写真1 愛媛大学南予水産研究センター



写真2 センター内の研究施設

写真2 センター内の研究施設

こうした政策課題を解決するには、地域産業と大学、行政が連携し、最先端の科学技術を地場産業に展開することが不可欠である。新町建設計画(平成15年2月策定)に定める「大学水産研究施設誘致事業」を推進するため、平成19年5月に愛媛大学に地域密着型の研究センターの設置を要請した。

一方、愛媛大学はこれまで漁場の環境調査や、水産養殖技術の開発、後継者や地域研究者の育成、「ぎょしょく教育」の普及推進等を通して、地域の水産振興に積極的に取り組んできた。

地域の大学として、地域に信頼され、地域との共生を図るには、愛媛大学の水産学に関する研究力を地域の活性化に効果的に結び付けることが重要である。そのためには、水産業の活発な地域に活動拠点を置き、地域との連携を密に保ちながら研究を行うことが必要であった。そこで、日本の養殖漁業の中心地の1つである愛媛県愛南町に水産養殖に関する研究を行う「愛媛大学南予水産研究センター」を愛南町と共同で設置した(写真1、2)。

センターと連携した町の水産振興

当センターと町、住民が連携し、次のような地域に密着した課題を共同研究することにより、体力のある水産業の実現を目指す。

生態系に配慮した環境整備による漁船漁業の振興
地域に適したブランド魚の開発と養殖技術の確立および普及戦略による魚類養殖業の振興
温暖化対応型真珠養殖技術開発による真珠養殖業・貝類養殖業の振興
「ぎょしょく教育」の推進と地域水産物のブランド化による販売促進と魚食普及
地域研究員および認定漁業士等の後継者育成

また、「海業」をキーワードに「水産を核としたまちづくり」を進める。町ではセンターの開設に合わせて水産課内に水産研究開発室を設置し、センターと地域の連携調整や、地域の研究ニーズの発掘、後継者育成などに取り組んでいる。

水産・食料基地構想

生命科学においては、魚類生理機構の解析による新養殖技術の開発が進められており、その成果は養殖業への技術移転が可能だ。将来的には未利用資源の機能性物質の有効利用や養殖エコフィード技術とシステム開発、フィッシュミール代替飼料原料の開発など、ゼロエミッション型水産資源循環システムの構築と、水産食料生産における低炭素化を目指している。

環境科学では、愛南町海域の継続的な環境調査を実施するとともに、海洋生物相調査にも着手し、地域ブランド魚の選抜を見据えた研究に取り組んでいる。

社会科学においては、水産物のブランド化や経営改善、安定化のための養殖業の経営診断を実施するとともに、魚の消費拡大や若者の魚離れの防止のための魚食教育の推進に取り組んでいる。将来的には、BT(ブルーツーリズム)などの魚食ビジネスの展開を図り、漁商工連携による地域の活性化を目指す。人材育成については、認定漁業士などの若手の漁業者を中心に、BT、漁場衛生管理、養殖魚のブランド化など販売戦略に関する研修会を開催したり、「地域特別研究員制度」を活用して、意識が高く若い後継者に対し学術的なスキルアップを図っている。

また、昨秋、町の将来の水産ビジョンを描いた「愛南町水産・食料基地構想」をセンターの協力により策定した。

センターの開設に伴い、約20 名の学生や研究員、教員、事務員などが町に移住した。彼らは、空き家を活用しながら、漁村で地域住民と生活を共にする。一住民として、地域の行事にも積極的に参加する。このような若者の地域貢献は限界集落におけるコミュニティー機能の維持と町の活性化にもつながっている。

おわりに

当センターは、町村合併により使用されなくなった、旧西海町役場(現在の愛南町役場西海支所)の議場や議会事務局、町長室、助役室などを改修し大学に無償で貸与を行っている。町の遊休施設を国立大学法人に無償貸与するに当たり、地方財政法の高いハードルがあった。これまで長期的な貸与は同法で禁止されていた。国と再三にわたり協議を行った結果、地域の農林水産業振興の観点から、そのために必要な人材を育成するための遊休施設の無償貸与、期間についても一律の制限を設けることなく、当該地方公共団体の要請に基づく研究開発等に要する期間(愛媛大学南予水産研究センターの事例)が認められた。

開設から1 年半、大学は地域に慣れ、地域も大学に慣れる。交流しながら地域ぐるみで活動を展開することが、大きな成果につながると確信している。町の養殖業発展の希望の光、若手後継者の意識の高揚など、大学が来たことによって地域に変化が見えはじめた。着実な手応えを感じながら、鉄道も高速道路もない地域に一足先に開通した知的ハイウエー「愛媛大学南予水産研究センター」を地域の宝として、これからも共に歩んでいきたい。

● 愛媛大学南予水産研究センターの事業概要

1.文理融合型の新しい水産学

「 生命科学」「環境科学」「社会科学」の3 つの学問領域を有機的に連携させて、これまでの水産学を発展させた「新しい水産学」を追求する。「生命科学」による最先端の高度な生産技術の開発、「環境科学」による健全な養殖漁場環境の保全、「社会科学」による適正な地域水産業振興システムづくり、といった「生命・環境・社会」の三者を一体化した、愛媛大学オリジナルの「新しい水産学」を構築する。

2.地域貢献

水圏生物の基礎的な研究を基に、社会科学研究と共同し、愛媛県や南予地域の自治体、水産関係団体と連携することによって、地域振興を果たす。文理融合型の新しい水産学および地域貢献を基に、愛媛県南予地域を活性化するとともに、世界全体へと「新しい水産学」を発信し、地域および世界の水産業に対して積極的に貢献することを目指す。