2010年3月号
巻頭言
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林 勇二郎 Profile
(はやし・ゆうじろう)

独立行政法人 国立高等専門学校機構
理事長



産学官連携への期待

社会は、人間が共同で生活を営む際に、人と人との関係の総体が1 つの輪郭をもって現れる集団として定義される。地方から国家、さらにはEU 等の連合体へと拡大する自治組織はさまざまな集団よりなるが、産・学・官はそこでの中核であり、市民に対して経済・教育・政治を営んでいる。このような産学官の連携は社会の発展に必須であり、21 世紀に入ってその重要性はいよいよ高まっている。

わが国は、国際社会との協調を進めながら、科学技術創造立国と人材立国を標榜(ひょうぼう)している。産学連携は学の持つシーズと産のニーズとのマッチングにあるが、そこにはナノテク材料や遺伝子治療に見られるように、科学と技術の急速な接近がある。ボーア型の基礎研究は別として、多くの基礎科学が産業技術を先導するとなれば、大学等の研究は技術に対して責任を持たねばならないし、産の技術化は大学等の知的財産なくして成り立たない。科学技術基本計画が4 期目を迎える今、産学官の連携が一段と進展することを期待したい。

国際的に協調すべきは、地球温暖化対策などの持続可能な発展についてであり、わが国は鳩山イニシアチブで知られるように先導的な役割を果たしている。この問題に対する産業界の責任はCSR(企業の社会的責任)の概念に組み込まれているが、科学研究が優先的に取り組むという点ではUSR(大学の社会的責任)の認識も欠かせない。“Think globally, Act locally” は、環境問題は産学官そして市民が一体となって、足元から取り組むべきとの主唱である。それにはT 型からπ型に至る人材の育成が喫緊であり、21 世紀に期待されるイノベーションもこのような人材にかかっていると言えよう。環境も教育も時間のかかる問題である。“Think the future, Act now” を産学官の共通の認識としたい。

これまでのわが国の産や学は、業界や団体の枠にはめられ、どちらかと言えば官主導で歩んできた。そのため組織の均質性と脆弱(ぜいじゃく)さは今も否めないが、変化の激しい今の時代にあっては、それぞれが個性的で自主自律的であり、全体としては多様でタフな存在であらねばならない。産業界にあってはベンチャーの起業などの気運が出始め、大学は法人化によって、国公私の枠組みを超えた教育、研究、社会貢献の活動を展開しつつある。

しかし、大学等の活動の多くは国内に軸足を置いているのに対して、製造業等の企業は国外に労働力や市場を求め、いわゆる多国籍化の傾向が強い。グローバルな経済市場に立ちゆくためとはいえ、国の中核を成す産学が、国の内外という異床にあっては連携の同夢はかなわない。産と学は同床に向けて一歩譲り合うのか、それとも大きく踏み出すのか。グローバリゼーションがいよいよ加速する国際化時代である。東アジアを舞台としたリージョニングが、1 つの方策として動き出すことを期待したい。