2010年3月号
単発記事
千葉大学発ベンチャーの歩みと脳梗塞リスク評価サービスの事業化
顔写真

五十嵐 一衛 Profile
(いがらし・かずえい)

株式会社アミンファーマ研究所
代表取締役社長


千葉大学発ベンチャー・株式会社アミンファーマ研究所は平成19年4月3日の設立。「血液検査で安価、簡便に、脳梗塞のリスクが分かる」という大学発の革新的な技術を広く普及し、健康増進の一翼を担うのが狙い。第4期を迎える本年は事業の柱である「脳梗塞リスク評価サービス事業」が本格化する重要な年となる予定だ。

私は平成19 年3 月まで千葉大学大学院薬学研究院の教授として、研究、教育に尽力してきた。特に、生化学の分野において、生命活動に必須である「ポリアミン」という物質にかかわる研究を行ってきた。偶然にも、ポリアミンから産生される「アクロレイン」という物質に強い毒性があり、脳梗塞(こうそく)と関連性があることが分かった。

平成16 年と平成17 年に、学内向けのベンチャーコンペ(なのはなコンペ2004)*1に応募し、2 年連続でちばぎんひまわり賞を受賞した。このような力強い評価および支援を受け、研究活動はますます実用化に向けて弾みがついた。そして、平成17 年には独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の大学発事業創出実用化研究開発事業(NEDO マッチングファンド)に、さらに、平成19 年には、財団法人ひまわりベンチャー育成基金事業にそれぞれ採択され、実用化に向けた基礎研究レベルでの課題をクリアしながら、脳梗塞バイオマーカーの開発を目的として平成19 年4 月に起業することができた。

図1 産学官連携による事業推進

図1 産学官連携による事業推進

起業後、まずは千葉大学大学院薬学研究院の1室を借り、社員4 名でスタートした。千葉大学大学院薬学研究院との産学連携により、実用化に向けて、さらに技術的課題を1 つ1 つクリアしていく地道な研究開発を続けた(図1)。研究開発に加え、財務、総務、経理、事業計画策定、知的財産管理等、企業経営の仕事は多岐にわたるが、起業時より支援を受けていた、NEDO のNEDO フェロー(産業技術養成技術者)のハンズオン支援により、経営的課題も1つ1つクリアしていくことができた。事業の進展に伴い、事業計画についても何度も練り直し、常に前を向いて経営を行ってきた。平成19 年10 月には、財団法人千葉市産業振興財団の第6 回ベンチャーカップCHIBAにおいてグランプリを受賞し、脳梗塞マーカーへの社会の期待の大きさを感じるとともに、われわれがこの技術を必ず世の中へ出していかなければならない、という強い責任を感じた。

平成19 年11 月には本社および研究施設を千葉大亥鼻イノベーションプラザ内へ移転し、事業活動を拡大した。入居に当たっては、千葉市大学連携型起業家育成施設入居者支援補助金事業、および、ひまわりベンチャー育成基金事業の支援を受け、家賃の一部を助成していただき*2、設立間もないベンチャーにとっては大変に助かった。

図2  脳梗塞リスク評価マーカーによるROC曲線に基づく無症候性脳梗塞の判定

図2  脳梗塞リスク評価マーカーによるROC曲線
    に基づく無症候性脳梗塞の判定

平成20 年(第2 期)には、新たに博士研究員2 名を加え、実用化に向けた研究開発の最終段階に入った。この研究では、無症候性脳梗塞とアクロレインおよび2種類の炎症性マーカーとの相関について、千葉大学医学部附属病院および千葉市内の複数の医療機関と協力して臨床研究を実施した。約800 例の解析結果、無症候性脳梗塞を40代以上では85%、50 代以上では90%の確率で検出することに成功した(図2)。すなわち、脳梗塞リスク評価マーカーとしてアクロレインおよび2 種類の炎症性マーカーは、信頼性が高いことを明らかにした。

これら最終段階の研究開発および周辺を固める基礎研究の取り組みに対しては、財団法人ちば県民保健予防財団のちば県民保健予防基金事業、千葉市産業振興財団の産学共同研究促進事業、独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業・ベンチャー挑戦支援事業のうち事業化支援事業に係る助成事業、財団法人三菱UFJ技術育成財団の平成20 年度第1 回研究開発助成事業の支援を受け、実施することができた。

平成21 年の第3 期は、経営人材を2 名、分析研究員を1 名加え、上記のような科学的なバックグラウンドに基づき、脳梗塞リスク評価サービス事業を本格的に開始した*3。弊社は産、官、学等から本当にさまざまな支援を受けて、ここまで成長することができた。この場をお借りして厚くお礼申し上げる。起業を予定している方々へ、本稿が勇気と希望を与えることができれば幸いである。


脳血管疾患はがん、心疾患に次ぐ死亡率第3位の病因である。特に75歳以上では脳血管疾患と心疾患を合わせた循環器系疾患のリスクが顕著に増加し、年齢を重ねるにつれ、がんによるリスクを上回っている。また、脳血管疾患の中でも脳梗塞は死亡者数において大きな割合を占める疾患であることが分かっている。また、罹患(りかん)後の後遺症は、まひ、運動不能を伴うなど日常生活に多大な支障を来し、患者のQOL(Quality Of Life)の低下を招くだけではなく介護者の心的ストレスも助長する。この脳梗塞の早期発見、予防法の開発は患者のQOLの向上に必要不可欠であるだけでなく、高度高齢化社会を迎える日本が抱える脳梗塞による人的、経済的負担を軽減するために極めて重要な課題である。

千葉大学大学院薬学研究院時代においては、細胞増殖必須因子であるポリアミン(プトレスシン(PUT)、スペルミジン(SPD)、スペルミン(SPM))の生理作用に関する基礎研究を通じて、[1] 細胞傷害により細胞外に遊離したポリアミンはポリアミンオキシダーゼ(PAO)により酸化分解されて、極めて毒性の高いアクロレインを産生すること [2] 脳梗塞患者の血中アクロレイン量およびPAO活性が脳梗塞の大きさに相関すること、を見いだした。私たちはこの研究成果をさらに発展させ、脳梗塞発症のリスクに関する情報を得て、脳卒中の予防や、高度高齢化社会を迎えるわが国の医療に貢献できないかと考えている。

*1:なのはなコンペ2004
教員版:ベンチャービジネス部門
主 催:千葉大学
主 管:千葉大学ベンチャービジネスラボラトリー
後 援:財団法人双葉電子記念財団、株式会社千葉銀行
協 賛:財団法人千葉県産業振興センター、財団法人千葉市産業振興財団

*2
平成19年度下期家賃使用料補助金事業

*3
当サービスの利用を希望される方は、弊社が連携する医療機関の人間ドック等において、このサービスを受けることができる。主に人間ドックのオプションとして、またごく一部ではあるが、採血のみのリスクドックとしてご利用いただける。