2010年7月号
単発記事
健康サービス「ノルディックウォーキングプロジェクト」
~日本ノルディックフィットネス協会の取り組み~
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笠間 建 Profile
(かさま・たける)

NPO法人日本ノルディックフィットネス協会 アドバンスインストラクター


フィンランド生まれの新しいスポーツ「ノルディックウォーキング」の愛好者が増えて いる。スキーのように2本のポールを使って歩くもので、高齢者の介護予防としても注 目されている。宮城県仙台市の産学官の取り組みから広がった。

ノルディックウォーキング(以下「NW」)は、2本のポールを使って歩く フィンランド生まれのスポーツである。近年、効果的な運動として一般の 運動愛好家や、介護予防*1やメタボ対策*2に有効なエクササイズとして注 目されている。愛好者は現在、全国で4 万人程度(日本ノルディックフィッ トネス協会発表)である。

経緯

2 本のポール(ストック)を使った歩行方法自体は古くから知られてい たが、フィンランドにおいて1997 年に「NW」としてあらためて定義さ れ、日本には1999 年に北海道伊達市(旧大滝村)にフィンランド人コーチ によって紹介されたとされる。国内での普及はしばらく停滞していたが、 2003 年になって仙台市とフィンランド政府が協働した、いわゆる「仙台 フィンランド健康福祉センター(以下「S-FWBC」)プロジェクト」が転機と なった。同プロジェクトに呼応し、東北福祉大学を中心と した仙台ウェルネス・コンソーシアムが2003 年に結成さ れ、翌2004 年には経済産業省「健康サービス産業創出支 援事業」の採択を受け、そのスキーム内でNW はフィンラ ンドのシーズの1 つとして紹介された。翌2005 年に東北 福祉大学が財団法人仙台市産業振興事業団「健康福祉サー ビス・機器に関するビジネス開発委託事業」の採択を受け、 同年オープンしたS-FWBC 関連のプロジェクトの1つとし て、あらためてNW のサービス開発研究がスタートしたの である。

普及戦略とJNFAの設立

普及にあたり、コンソーシアムでは以下の手法が採用された。

1. NW指導者育成等の「教育」を通した普及への間接的アプローチ
2. 地域NWサークル等のコミュニティの結成・活性化の支援

プロトタイプとして仙台市と東北福祉大学予防福祉健康増進センターの 協力により、S-FWBC近隣の「水の森市民センター」にて集中的に体験会、 インストラクター養成講座などを実施。その後「サークル結成」を支援した。 地域のキーパーソンをNW の指導者として育成し、コミュニティ化する一 種のコミュニティビジネスの手法を用い、愛好者の地域単位での自己増殖 を図ったのである。

上記取り組みがおおむね成功したことを受け、2006 年3 月に「日本ノルディックフィットネススポーツ協会(仮称)準備委員会」を設置。2007 年 1 月に国際ノルディックウォーキング協会の日本における唯一の公認団体 として認定を受け、2008 年11 月に日本ノルディックフィットネス協会 がS-FWBC 研究開発館内に設置された。2009年2 月にはNPO 法人化し、 2010 年4 月時点で、全国に団体正会員69 団体、個人会員1,000 名を超え る団体に成長している。なお、プロトタイプとして結成された「水の森NW サークル」は、現在では100 人を超える全国最大規模のNW サークルへと 成長している。

成功要因

表1 NWプロジェクトの成功要因の3C・4P分析

2010 年現在、各地の介護予防事業に導入されたほか、 フィットネスクラブの屋外種目、各地の温泉街の街歩き・山 歩きの一環として広がるなど、周辺ビジネスは拡大している。 また、日本ノルディックフィットネス協会の主力事業は指導 者養成などの「教育事業」であるが、設立以来、一貫して黒字 を計上している。成功要因を表1 のように3つのC と4 つのP に整理した。

ほかの要因は以下の通りである。

[1] 「学」による継続的な施設・人的支援

国や自治体等の公的な金銭的支援終了後も、「学」による人 的・施設的な面で継続的な支援が得られた。

[2] 「教育」を通した間接的アプローチ

「教育」は「学」の基本的機能であり、この手法は産学連携に よるマーケティング手法の1 つのモデルになるかもしれな い。

[3] プロトタイプとしての環境

仙台市とその周辺部は、都市型と農漁村型の異なったタイ プの地域課題が混在している。仙台近郊の山元町のように、 サークル化の手法で介護予防事業へ導入した事例もあり、 現在宮城県内では40 以上のNW サークルが存在するが、こ の普及手法を全国展開する上で、有用な知見とノウハウが 蓄積された。

[4] 「官」の柔軟対応と「民」の参画

市民サークル結成にあたり、「官」側からレンタル用ポール購 入や、職員などの積極的な人的協力が得られた。また、そ の過程で、地域コミュニティを活性化するさまざまなオピ ニオンリーダーというべき市民が発掘され、その後のNW 定着のキー パーソンとなった。

今後の課題

産学官連携の枠組みで始まった本プロジェクトは、当初は運動効果など の検証に比重が置かれた。昨年度も文部科学省「知的クラスター創生事業」 にて、東北大学との協働を進めている。しかし、急速なNW 市場の普及に 伴い、むしろマーケティングや組織設計、対競合との関係の整理などが重 要になりつつある。しかしこれらはNW の市場の拡大という良好な環境に よるものである。適切な経営戦略の策定と意志決定が行われれば十分に克 服可能な課題であり、今後の発展が楽しみである。

*1
本稿では、2006年に始ま った改正介護保険法による「介 護予防事業」について、「介護予 防」と一括して称する。

*2
本稿では、2008年に始ま った改正健康保険法による「特 定健康診査・特定保健指導」に よる一連の対策を「メタボ対策」 と称する。