2010年8月号
特集  - 地域金融・新モデル-産学金連携を探る
インタビュー
鹿児島銀行
農業関連の融資残高を5年で2倍に伸ばす
顔写真

諏訪田 敏郎 Profile
(すわだ・としろう)

鹿児島銀行
営業支援部アグリクラスター推進室長


鹿児島銀行は銀行の業務を通じて、農業と関連する幅広い業種の振興に取り組んでいる。「アグリクラスター構想」と称している。川上の農業だけでなく、川中の資材、建設、食品加工、さらに川下の流通、飲食、観光なども対象にし、積極的な融資により地域の新しい市場を創造しようという戦略だ。地方銀行の新しいビジネスモデルとして注目されている。

—— 御行のアグリクラスター構想が銀行業界で話題になっています。

諏訪田  アグリは「農業」、クラスターはブドウの房のようにその産業が集積し、元気になっていくことを意味しています。鹿児島県における農業の可能性に着目し、銀行の業務を通じて農業と関連する幅広い業種の振興と、新しい市場創造を推進し、地域経済の浮揚・拡大を目指す構想です。地方銀行として地域への新しいかかわり方であり、新しいビジネスモデルの試行です。


—— この構想が出てきた背景は?

諏訪田  地域の金融機関にとって、資金を地域内で円滑に循環させることが1番の命題です。銀行は、個人、機関(会社、団体等)からの預金を企業等に融資して運用します。その企業は、借り入れた資金で事業を行い、銀行に返済するとともに利子を払います。銀行が貸金業と違うところは、取引先の持続可能性を考えていることです。地域の「需要」をどう育てるか、が大事で、そのためにわれわれは地域経済へのコミットメントが必要不可欠なのです。


—— なぜ、農業分野なのですか。

諏訪田  農業生産額が1番大きいのは北海道です。それに次ぐグループにわが鹿児島県、それに千葉県、茨城県があり、互いに競っています。千葉、茨城両県は首都圏という大消費地を抱える近郊農業、鹿児島は畜産が主力です。鹿児島県の名目総生産に占める第1次産業の比率は約5%で、全国平均の3 倍です。県内産業全体の中での構成比は大きくありませんが、農業は本県産業の大きな特徴であり、強みです。銀行としては、川上の農業だけでなく、川中の資材、建設、食品加工、さらに川下の流通、飲食、観光、輸出、IT(情報技術)なども対象にしています。最近、農業の「6次産業」化ということがよく言われますが、当行のアグリクラスター構想もこれと同じです。


—— これまでの歩みを簡単に教えてください。

諏訪田  平成9 年ごろ農業金融の研究に着手しました。未開拓の分野だったので、12 ~15 年にその審査システムを築きました。15 年、農林漁業金融公庫(現・日本政策金融公庫)にいた当行OB との情報交換は大いに役に立ちました。その後の経過は次の通りです。

     ・平成15 年 「アグリクラスター構想」を提唱
     ・平成16 年4 月 農林漁業金融公庫と「業務協力協定」締結。鹿児島県農政部へ行員を派遣(1 年間)
     ・平成17 年4月 営業支援部にアグリビジネス専門の担当者を2 名配置し、より専門的な推進態勢を整備

17 年度から農業分野への融資拡大策を本格的にスタートさせました。目標は17、18 年度の2 年間で50 億円。しかし、最初の1 年間で118 億円の純増となりました。その後も順調に推移しています。17 年3月末に330 億円だった農業関連の融資残高は、22 年3 月末には680 億円にまで拡大しています。現在、アグリクラスター推進室のスタッフは私を含め8人です。


—— 具体的にどういう対応をされているのですか。

諏訪田  われわれは意欲と能力のある農家を積極的に支援します。養豚業向けでは、運転資金は当行、設備投資は日本政策金融公庫(旧・農林漁業金融公庫)を活用していただくというように、連携、すみ分けをしています。豚は、生まれてから6~7カ月育てて出荷しますが、その間に必要なのが運転資金。主に設備投資に活用してもらっている政府系の資金は借入期間が20 年というような長期で低利です。旧農林漁業金融公庫との連携は、融資先の審査に非常に有効です。何より同公庫には、入口審査のデータがたくさんあります。養豚の技術指標、具体的には母豚1 頭が産む子の数(平均)、離乳前の事故(死亡等)頭数などを見ることで、その農家の技術力、経営力が分かります。牛は繁殖業者と肥育業者に分かれます。肥育業者は、生後9~ 10 カ月の仔牛を繁殖業者から買い付け、約20 カ月間育てて出荷します。当行はこの20 カ月の資金調達の窓口になるわけです。


—— 融資拡大と並行して取っている対策は?

諏訪田  畜産業を取り巻く環境は、飼料価格の高騰・枝肉相場の低迷の影響により非常に厳しい状況があります。当然ながら事業継続が困難な先も出てきます。その対処として畜産業のM&A(合併・買収)があります。かつては少なかったのですが、現在、当行は県内畜産業者の上位10 社と取り引きするようになりました。こうした業者はいわば「買い手」です。新規に畜産を始めるには、土地の選定、近隣の同意などの課題があり、事業開始まで5年くらいかかります。しかし、既存の畜産業者にはこうした問題はないので、M&Aの対象になりやすいわけです。

また、規模の小さい畜産業者が減っているという現実があるので、食肉加工会社を頂点に畜産業者の系列化を促しています。畜産業は、大きな価格変動や家畜が病気になる懸念があり、ハイリスク・ハイリターンの産業です。系列化はこうしたリスクへの対策です。さらに「動産担保」、つまり、家畜1頭1頭を担保に取り、それらの状況のデータを把握しています。牛の肥育業者が、通常20 カ月肥育するところを、早めに出荷しているとなると、資金繰りが苦しいなど何か事情があるということが分かります。われわれは「中間管理」と呼んでいますが、そのシステムも構築しました。


—— 大学との連携は?

諏訪田  IT化を進める必要があり、平成20 年11 月、鹿児島大学と「農業経営管理システム開発事業」に関する協定を締結しています。栽培・出荷、事業収支資金および販売をそれぞれ管理するシステムです。また、平成22年8 月には、鹿児島市・鹿児島大学・鹿児島経済同友会と「平川動物公園及びかごしま水族館を活かした地域活性化プロジェクト」推進に係る産学官連携協定を締結します。このプロジェクトは鹿児島の集客装置である平川動物公園とかごしま水族館の魅力向上(ハード・ソフト両面)・交通アクセスを含めた両施設の有機的連携・効果的な情報発信を産学官の知恵を集結することによって検討していこうというものです。この取り組みは、アグリクラスター構想の海外展開との相乗効果が期待できるものと考えております。


—— 展望は?

諏訪田  アグリクラスター関連業種向けの融資残高が、建設業向けと並ぶくらいまで大きくなりました。アグリクラスターではこれまで畜産、養鶏、肉製品製造、種類製造、製茶の5業種が中心でしたが、これに畑作などの「その他農業」も加え6つの柱にしました。さらに充実させていきます。海外展開も強化します。台湾のバイヤーを招いた商談会も開催しました。これは地銀初の単独開催で、52 の企業が参加しました。こうした国内外の商談会を月に平均1.5 回ほど開いています。こうした流通機構の拡大にも取り組んでいくつもりです。海外から観光客を増やすプロジェクトも始めています。


—— ほかの地方銀行へのアドバイスは?

諏訪田  ほかの地域の金融機関が当行のアグリクラスターのやり方をそのまま取り入れようとしてもうまくいかないと思います。それぞれの地域の産業構造には特徴があり、条件が異なるからです。しかし、地域産業の得意分野に着目するというアグリクラスターの考え方は普遍的だと思います。それぞれの地域の得手、不得手を考えて、個性を伸ばすようなやり方が金融機関にも期待されているのです。


—— どうもありがとうございました。