2010年9月号
巻頭言
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小出 秀文 Profile
(こいで・ひでぶみ)

日本私立大学協会 事務局長




イノベーション偶感 ―ジグソーパズルの忘れ物―

文明の進歩は、教育の普及と学術研究の発達によって推進されると言われる。特に大学はその原動力であり、多様な人材育成と研究を本領とする大学の内容を充実し、その機能の発展を図ることは国家社会にとって常に最も重要な課題であらねばならない。

科学技術が高度に発展し、知識基盤社会と言われるこの21 世紀において、日本に限らず各国は、国際競争力を高めるため、大学を舞台とした多様な研究のダイナミズムから生まれる新しい価値創造、つまり「イノベーション」の芽を探しているのであり、この期待はいよいよ昂まっている。

しかしながら、積み重なる国際的問題や人類的課題が今なお解決しない理由を考えたとき、人類社会の未来図を完成させるための“ジグソーパズル” のピースが幾つか足りないことに気付く。

それは、人間性や倫理性、自然との調和というピースである。さらに言えば、「新しい(精神的)豊かさとは何か」「どれだけあれば足りるのか」「(科学技術は)人類の幸福に本当に資するのか」という、古くて新しい問いに対する考えのピースが不在のままに、20 世紀は総合的解決を見ないままに工業化社会を突き進み、さらにはいわゆる「学術研究の蛸壺化」の結果、原子爆弾や公害問題の出現など、科学技術の負の遺産とも言うべき諸課題を出現させているのである。

さらに、この問いとともに一歩踏み込んで、「地球のサステイナビリティに貢献しうるか」を起点とした科学技術の進展に期待したい。それにはイノベーションに加えて、人文・社会科学、そして宗教をも含めた諸科学領域の「インテグレーション(統合)」の発想が極めて重要になる。

しかし改めて考えてみると、実は「サステイナビリティ」という概念よりもはるかに昔から、自然への畏敬(いけい)や調和をうたい、「山川草木悉皆成仏」の考えとともに歩んできたわが国の誇れる思想が存在する。西洋的物質文明に対して疑問が投げ掛けられている今こそ、この思想を世界に訴えて、日本発の新文明創造が期待されていると考えるのである。

21 世紀という新しい時代、大学の在り方や科学技術そのものの価値観も転換していかなければならない。上述のイノベーションやインテグレーションが、各大学の連携の下、真に国民生活の質向上に直結する型において新境地を開拓して欲しいものである。その意味では、諸科学の調和ある発展の指針を策定し、学術研究者の独創的な研究意欲を一層エンカレッジさせ、その環境整備を促進させることが国家的重要課題ではあるまいか。

まさにジグソーパズルのピースを埋めることこそ、JST に求められるものだと考えている。