2010年9月号
特集  - ベンチャー経営
支援制度を活用しきれていないJST発ベンチャー
-平成21年度 JST発ベンチャー調査より-

加藤 豪 Profile
(かとう・ごう)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部 産学連携展開部
事業推進担当 副調査役

科学技術振興機構(JST)の事業を通じて起業したベンチャー企業を対象に平成21 年度に実施した調査の結果(概要)である。従来はまだ「研究開発段階」という企業が過半数だったが、今回の調査で「製品・サービスを販売中」という企業が52%に達した。しかし、単年度黒字で累積損失のない企業は2 割弱にとどまっている。社団法人、独立行政法人、地方自治体などのベンチャー支援制度は全体的にあまり知られていない。

はじめに
図1

図1 事業ステージ

科学技術振興機構(JST)がJST 発ベンチャー(JST の事業を通じて起業したベンチャー)を対象に実施した平成21 年度調査で、「製品・サービスを販売中」という事業ステージに達しているベンチャーが52%、まだ「研究開発段階」が48%となり、平成19年度の調査開始以来、初めて「販売中」が半分を超えた(図1)。規模はまだ小さいものの、企業として地道な成長を続けていることが分かる。

一方で、ベンチャー支援制度の利用や展示会への出展等、ベンチャー自身の成長に向けた取り組みにはまだ可能性があるようである。

本稿では、平成21 年度末に実施したJST 発ベンチャーの調査を基に、JST 発ベンチャーの特徴およびベンチャー支援制度と展示会の利用状況について報告する。

調査対象および調査方法
図2

図2 設立件数の年度分布

JST では、新技術の創出に資する研究、新技術の企業化開発などの事業を推進しており、これらの事業の研究開発成果等に基づく大学発ベンチャー(JST 発ベンチャー)が創出されている。

調査対象は、JST が把握しているJST 発ベンチャー248 社である(平成21 年11 月末時点)。平成22 年2 月にアンケート調査用紙を郵送し、101社からの回答を得た。

調査対象のうちベンチャー創出を主目的とした事業(「プレベンチャー事業」「大学発ベンチャー創出推進」および文部科学省「大学等発ベンチャー創出支援制度」)から創出されたベンチャーは129 社である。なお、文部科学省「大学等発ベンチャー創出支援制度」は平成15 年度にJST が「大学発ベンチャー創出推進」として引き継いだ事業であるため、本調査に含めている。

調査結果の概要

年度別のベンチャー企業設立件数を図2に示す。平成17 年度までは、おおむね増加傾向にあったが、平成18 年度以降は減少傾向にある。図2にある平成21 年度の設立件数は4 月から11 月までの8 カ月分の数字なので、年度末時点ではこれより増えていると思われるが、近年の経済・金融情勢の影響もあり、平成16、17 年度と比較すると伸び悩みは明らかだ。

しかし、その内訳を見ると、新たな傾向が読み取れる。平成21 年度(4 ~ 11 月)に設立されたベンチャー13 件のうち、ベンチャー創出を主目的とした事業から創出されたのは12 件(全体の92%)を占める。ほかの事業、言い換えると、ベンチャー創出そのものを主目的としていない事業をベースに起業されたベンチャーはごく一部にとどまっている。

平成18 ~ 21 年度を見ても、ベンチャー設立を主目的とした事業から生まれたベンチャーはそれぞれ15 件前後で推移しているが、それ以外のベンチャーが年々減少している。つまり、上記の「大学発ベンチャー創出推進」などベンチャー創出を主目的とした事業が、「起業」を下支えしていることが分かる。

1社あたりの平均売上高は4,300 万円、資本金は1 億4,600 万円、雇用者数は7.5 人であった。JST 発ベンチャーのうち十数社は年間売上高が1億円を超えているが、概して小規模である。ちなみに、データとしては1年ずれるが、1,809 社を対象とした経済産業省「平成20 年度 大学発ベンチャーに関する基礎調査」(以下、METI 調査)ではベンチャー1社あたりの平均売上高は1 億4,700 万円、資本金は2 億6,900 万円、雇用者数は9.5 人である。

JST 発ベンチャーの事業ステージについて、今回の調査で、製品・サービスの販売に至ったベンチャーの比率が52% に達したことを冒頭で紹介したが、図1のとおりMETI 調査の57% に年々近づきつつある。ただし、この「販売中」のうち単年度赤字のベンチャーが5 割強、単年度黒字だが累積損失のあるベンチャーが3 割弱、単年度黒字で累積損失のないベンチャーが2 割弱であり、まだ多数のベンチャーが厳しい経営状況にある。

ベンチャー支援制度の利用

社団法人、独立行政法人や地方自治体等が実施するベンチャー支援制度の利用状況も調査した。それによると、それらの「支援策」は全体的にあまり知られていない。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)「販路開拓コーディネート事業」と自治体・商工会議所等が開催するベンチャー企業交流サロンやフォーラムが特に認知度が高かったが、それでも4割程度である。

図3

図3 ベンチャー支援制度の満足度(n=36)

さらに、制度を知っていてもその利用度は低い。特に利用度が高かった各都道府県等中小企業支援センター・中小機構「販路ナビゲーター創出支援事業」でも認知者のうち3 割程度である。一方、各制度の利用者の満足度を集計すると「非常に満足」もしくは「満足」との回答が72% を占めている(図3)。

以上より、利用したときの満足度が高い制度は多いものの、認知度や利用度に課題があり十分に活用されていないことがうかがえる。

展示会への出展

各種展示会へ出展したことの成果について調査した(図4)。得られた成果として最も多い回答は「自社および自社製品・サービスの知名度向上」であった。

出展成果と成長段階の関係の例を図5 に示した。「知名度向上」については、事業段階で単年度黒字にあるベンチャーの多くが成果を得ている反面、研究開発の初期・途中段階にあるベンチャーはあまり成果を得ていない。一方、研究開発の初期・途中段階にあるベンチャーは「ビジネスに関する人脈・ネットワークの獲得」には比較的成功している。成長段階に合った出展目的を設定する重要さが分かる。

図4

図4 出展成果の回答割合(n=100,複数回答)

図5

図5 成果を得た割合(n=93)

おわりに

JST 発ベンチャーは小規模ながら大学等の研究開発成果を基に地道に成長している。この成長を後押しするためにもベンチャー支援制度の積極活用や展示会の効果的な出展に対して微力ながらも支援ができればと思う。