2010年9月号
海外トレンド
欧州連合とコンソーシアムImecのイノベーション推進策
~Imecおよび欧州テクノロジープラットフォームについて~

森本 茂雄 Profile
(もりもと・しげお)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
産学基礎基盤推進部 部長

坪田 高樹 Profile
(つぼた・たかき)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
産学基礎基盤推進部 副調査役

安藤 健 Profile
(あんどう・けん)

独立行政法人 科学技術振興機構
イノベーション推進本部
産学基礎基盤推進部
上席フェロー

マイクロエレクトロニクスの研究開発拠点として発展著しいImec、および欧州連合(EU)が産業界と連携して進めている欧州テクノロジープラットフォーム(ETP)。それらの取り組みを紹介する。

写真1

写真1 Imec の外観 4,800m2 と3,200m2 という24
    時間稼働のクリーンルームには、最先端のR&D
    装置を有する。

Imec(Interuniversity Microelectronics Center)は、世界的な注目を集めているマイクロエレクトロニクスの研究開発拠点である(写真1)。1984 年の設立から25 周年を迎えたところであるが、その規模は拡大の一途をたどっており、Imec が設ける独特かつ魅力的な仕組みの下に世界中の多くの企業等がコンソーシアムに参加し、先端的な研究開発を進めている。

図1

図1 Imec の予算の推移(赤:総額、灰:フランダー
    ス州等の公的資金)

欧州テクノロジープラットフォーム(ETP)とは欧州連合(EU)がそのフレームワークプログラムのもと、イノベーション実現のために産業界が中心となり共同で研究開発戦略を立案、推進するための仕組みである。現在は36 の個別ETP が各分野に存在し、それぞれが活動している。

筆者らを含む文部科学省、科学技術振興機構(JST)の一行は、その運営状況等の調査のために6 月29 ~ 30 日に、Imec およびETP を訪問した。

Imec について
1. Imec とは
図2

図2 Imec の人員の推移

本拠地のベルギーのほか、オランダ、中国、台湾にも拠点を持つ。1984 年、ベルギーのルーベン大学教授がNPOとして設立し、エレクトロニクスデバイスのR&D に焦点を絞ったコンソーシアムの運営等を行っている。現在の年間予算は275M ユーロ(300 億円超)、1,700 人以上が従事している(図1、2)。

2. Imec が挑戦する技術分野と活動状況
図3

図3 Imecが挑戦する技術

More Moore(半導体微細化技術)とMore than Moore(半導体応用技術開発)に大別される。More Moore の代表的な課題は23nm 加工プロセス、More thanMoore ではバイオメディカルエレクトロニクス、パワー半導体などの課題に取り組んでいる(図3)。

More Moore とMore than Moore のR&D を遂行するにあたり、5 分野(core CMOS、heterogeneousICs、Life Science、Energy、Smart System)を定義し、パートナー(参加する企業等のこと)の参加を得てコンソーシアムを形成している。現在、参加するパートナーは550 機関を超えている。また、直近の1 年間のR&D 活動の成果としては、論文1,600 報強、特許120 件強となっている。

3. Imec が対象とするR&D フェーズ
図4

図4 ImecがカバーするR&Dフェーズ

アプリケーションが見える段階になった基礎的な研究から商品のための研究の前までをカバー(初期の基礎的な研究および商品のための研究は対象としない)している(図4)。

この範囲のR&D を対象としてプロジェクトを設定し、3 ~ 5 年で実施している。

4. Imec の根幹となるコンソーシアムの仕組み

Imec でのR&D 活動の中心はコンソーシアムであり、その根幹となる仕組みはIIAP(Imec Industrial AffiliationProgram)と呼ばれる。企業とImec の双方がメリットを享受できるユニークな仕組みであり、この仕組みこそがImec 繁栄の理由と考えられる。

4-1.IIAP とは

図4の範囲にあるR&D について、Imec は戦略的なプログラムを設定し、そのプログラムに参加するパートナーを探すが、パートナーにはコンソーシアムへの貢献が求められる。つまり、誰もがパートナーとしてコンソーシアムに参加できるわけではなく、パートナーとしての適性をImec から問われることになる。例えば、Imec が設定するプログラムとの整合性、パートナー間の重複や対立などが調整されることになる。

Imec のバックグラウンド(蓄積された情報やノウハウ、コンソーシアムで得られた成果など)の利用度合いは、コンソーシアムへの貢献度に応じたものになり、各パートナーは個々にImecと契約を締結することになる。

4-2.IIAP の仕組み1

図5で説明する。

図5

図5 IIAPプログラムの仕組み1

(1) まず、Imec がプロジェクトとして実施する技術範囲を決定(赤枠部)する。
(2) 赤枠を埋めるようにプロジェクトに参加するパートナー( 黒枠部)を探す。
(3) Imec とパートナーが共同で実施したR&D([2]茶枠部)については、その成果はImec とパートナーの共有となる。
(4) 黒枠内であるが、Imec が実施したR&D([3]青枠部)については、その成果はImec が有する。
(5) 黒枠内であるが、Imec が設定したプロジェクト外であるため企業が単独で実施したR&D([4]緑枠部)については、その成果はImecは所有しない。
(6) [1]部(薄黄色部)の成果についてはImec が所有し、契約次第で各パートナーも使用が可能。

4-3.IIAP の仕組み2

図6を用いて別の視点から説明する。

図6

図6 IIAPプログラムの仕組み2

(1) 既にImec はコアになるバックグラウンド(灰色部)を有している。
(2) その外側にプロジェクトとして実施する技術範囲を決定(赤枠部)する。
(3) 赤枠部を埋めるようにプロジェクトに参加するパートナー(黒枠部)を探す。
(4) パートナーとともに3~5年でプロジェクトを推進して赤枠部を埋めていく。
(5) 結果、3~5年でバックグラウンドが大きくなっていく。

このサイクルを繰り返すことで、成果がImec に蓄積されていき、それがまたImec の価値、魅力を高めていくことになる。

ETP について
1. ETP とは

欧州フレームワークプログラム(FP)の下、産業界が中心となってイノベーション実現のためにEU 各国が共同で研究開発戦略を立案、推進するための仕組みであり、産業界コミュニティーごとに編成された組織である。産学官の研究開発能力を総動員している。現在は表1に示すような36 の個別ETP が活動している。

表1  個別ETPの一覧

表1
2. 個別ETP とは
図7

図7 典型的な個別ETPの組織

戦略的に重要な分野においてEU 共通の研究開発目標を定め、人材・資金など研究開発資源の集結を図り、効率的で整合性のある研究開発に、複数の国が共同して取り組むための仕組みである。透明性や開放性の確保を重視し、特定の団体に利益が偏らないことにも留意している。ステークホルダー(参加者)としては、主要企業、SMEs(中小企業)、金融関係者、政府・自治体、大学、研究団体、NPO、市民団体といった幅広いメンバーがかかわっている。特にSMEs については積極的な参加を促す働き掛けがなされている(図7)。

3. ETP の活動の進め方

個別ETP によって活動の在り方はさまざまであるが、おおむね活動手順は以下のようなものになる(図8)。

1) 産業界主導で関係者が集まり、共通の技術的なビジョンを作成
2) 戦略的研究開発行動計画(SRA : Strategic Research Agenda)を作成
3) R&D 資源を集結し、SRA を実施(Implementation)

また、個別ETP の各事務局にはEU から活動費が支給され、総会やグループ集会を開催している。

図8

図8 個別ETPの活動例

4. ETP からJTI へ

個別ETP のうち、EU が示す一定の要件(SRA 実施にあたって産業界からの人的・資金的な貢献が示されるもの、重要であるが産業界の許容を越えた大規模・長期的なものなど)を満たすものについては、迅速な計画の実行や技術の市場化を狙ってJTI(Joint Technology Initiative)プログラムに採択され、EU からの資金的な支援を受けることができる。 

現在は6 つの個別ETP(ナノエレクトロニクス、組込型コンピュータシステム、水素・燃料電池、航空および航空輸送機、革新的医薬品、環境と安全のための地球観測)がJTI プログラムに採択されている。

まとめ

Imec は25 年かけて構築してきた知的財産(知、技術、人、IP)をベースに、ベルギーの大学と連携を組み、良質の半導体関連企業をパートナーに有するコンソーシアムである。しかもその知的財産は自己増殖的に増大する仕組みからなり、現在では極めて価値の高いブランドに成長している。半導体企業のコンペティターを巧妙に誘導し、クライアントが欲しがる価値を共同研究でありながらも提供し、かつ大学にもインパクトを与え、大学がやるべき研究のシーズをも提供している。1つのプログラムに参加できる企業をその種別により調整し、情報の非対称性を巧妙に取り入れてコンソーシアムとしてジェネリックな成果を出す仕組みを構築している。クライアント固有の商品化研究に直接携わることなく、中立的なR&D 共同研究体としてのプラットフォームとして機能していることは、大学と産業界をつなぐ手法や知的財産方針を検討する上で参考になると思われる。

ETP は欧州FP シリーズのうちのFP6(2002 ~ 2006)において、EU からの要請に対して産業界が応える形でつくり上げられたものである。FP7(2007 ~ 2013)にはJTI プログラムが設けられ、迅速な計画の実行や技術の市場化が推進されている。現在、既に2014 年からはじまるFP8の準備に入っており、現存する36 の個別ETP、およびその中にある幾つかのテーマに重複がありそれを避けるため、個別ETP 間でコミュニケーションを活性化しテーマの融合を促している。FP8においては、立案した研究開発を確実に実行することが強く要請されるであろう。特に、EC(欧州委員会)はSMEs(中小企業)の参加率を低すぎるとして各ETP に対して不満を表明しており、さらなるSMEs の参加率向上を促し、商品化研究により力を入れ、早期にイノベーションを実現することが強く要請されるであろうとの印象を受けた。


謝辞

紹介写真

(左から、坪田高樹、森本茂雄、Andre Clerix氏、
    安藤健)

今回の情報は、Imec IP Manager、EuropeanPatent Attorney であるAndre Clerix 氏および各個別ETP の事務局から詳しく話を伺うとともにドキュメント類を提供いただくことで得られたものであり、本文中の図などに引用させていただいている。長時間にわたるご協力にこの場を借りて心から御礼を申し上げる。