2010年11月号
特集1  - 発進 次世代自動車
次世代自動車産業への地域産業での対応
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林 聖子 Profile
(はやし・せいこ)

財団法人日本立地センター
立地総合研究所 主任研究員


ガソリン車に代わるハイブリッド自動車、電気自動車、プラグイン・ハイブリッド自動車など次世代自動車の普及が進んでいる。わが国では、自動車産業はリーディング産業の1つだが、こうした次世代自動車産業に各地域はどう対応するのか。その取り組みの状況と課題を探る。

はじめに

自動車産業を取り巻く状況において、地球温暖化対策としてCO2排出削減への政府規制と人々の環境意識が高まり、中国やインド等新興国における石油需要増大による原油価格の高騰、さらにリーマンショックを契機とする世界的な不況による高級車から低燃費車へのシフト等の変化が生じている。そのため、パワートレインの改革が起こり、ハイブリッド自動車(以下、HV)、電気自動車(以下、EV)やプラグイン・ハイブリッド自動車(以下、PHEV)等の次世代自動車への市場投入や普及が、グローバルに進展している。すぐにガソリン車がすべて次世代自動車へ変わるわけではないが、わが国の垂直統合型自動車産業のピラミッド構造が徐々に変化しはじめており、地域中小企業への影響が想定されるため、地域産業での対応の検討が必要となっていると考えられる。

本稿では、次世代自動車産業への地域産業での対応について考察することを目的とする。

次世代自動車産業の現況
(1) 自動車産業と次世代自動車

わが国の自動車産業は、系列による垂直統合型の産業構造を形成し、擦り合わせ技術や短納期等を強みとして発展してきた。2007年工業統計によれば、全製造業の製造品出荷額は337兆円で、自動車製造業の製造品出荷額は57兆円(全体の17%)。全就業人口6,412万人中、自動車関連(製造、運輸、小売、整備等関連を含む)は8%の515万人*1で、わが国の自動車産業はリーディング産業の1つであることが伺える。

その自動車産業を取り巻く状況が急速に変化し、次世代自動車産業への変革の兆しが見える中、経済産業省は2010年4月に「次世代自動車戦略2010」を公表し、2020年の政府目標として新車販売台数に占める次世代自動車普及を20~50%と掲げた*2

(2) 次世代自動車の市場投入状況

HVは、世界で初めて量産乗用車としてトヨタ自動車のプリウスが発売された1997年以来、伸び続けている。日本自動車工業会の発表によれば、2007年にはHVが44万1,300台で、同年EVや天然ガス自動車等のクリーンエネルギー車の普及台数は50万7,840台*3であった。日本自動車販売協会連合会の新車乗用車販売台数ランキングによれば、2009年5月~2010年9月までプリウスが販売台数第1位*4となっており、近年HVが急速に普及したことが見受けられる。

EVは、三菱自動車工業が2009年7月より「i-MiEV(アイミーブ)」を法人向けに提供し*5、富士重工業では「スバル プラグイン ステラ」を2009年7月から市場へ投入し始めた*6。これらはいずれも小型のEVであるが、日産自動車は2010年末に大人5人乗りの「リーフ」の発売を予定している*7。トヨタ自動車は、PHEVを2010年試験的に販売予定*8で、2010年5月には米国のテスラモーターズとEV開発、EV部品開発、生産システム等に関して業務提携した*9

一方、改造EVも次々に公表されている。岐阜県各務原市のゼロスポーツ*10は、ファブレスのアフターパーツメーカーで、12年前からガソリン車をEVへ改造している。2009年にはスバルのサンバーをEVへ改造し、郵便事業集配業務用エネルギー代替車両の実証事件を開始している。

富山市に立地する光岡自動車は、三菱自動車工業の「i-MiEV」の全長を延長し、4人乗りから5人乗りへ改造した「雷駆(ライク)」を2010年4月に開発した*11。同じく富山市に立地するタケオカ自動車工芸は、北陸電力と共同で車椅子用の1人乗り小型EV「フレンドリー・エコ」や、エコビーグル「ミリューR」等を開発し、販売している*12。ホームページを見たと、海外から発注を受けることもある。

(3) 蓄電池

自動車メーカーと電機メーカーが共同出資で電池事業会社(パナソニックEVエナジー、ブルーエナジー、リチウムエナジージャパン、オートモーティブエナジーサプライ)を相次いで設立するなど、既にサプライチェーンが形成されている自動車産業とは別に、蓄電池関係の新たなサプライチェーンが形成されてきている。蓄電池の研究開発は産学連携等でも活発に行われ、航続距離を伸ばすことが可能になっているが、高価格が課題である。電池製造装置等への、中小企業の参入が期待されている。

(4) 充電インフラ

EVは環境への配慮等のメリットがある反面、短い航続距離、高価な電池、充電インフラの不足、充電時間の長さ等、普及への課題がある。急速充電(200Vの三相交流)では30分で80%くらいの充電量と見込まれているが、工事費が高額になることが課題である。人が短時間立ち寄る場所への設置が望ましいが、誰が費用負担をするかの問題が懸念されている。

非接触給電装置を開発している昭和飛行機工業*13は、早稲田大学等と共同で路線バスでの実証実験等を行っている。

次世代自動車産業への地域産業での対応
(1) 次世代自動車産業への地域産業での対応状況

自動車産業を取り巻く環境が急速に変化しているにもかかわらず、2009年度前半頃まで、地方公共団体の中にはガソリン自動車関連製造企業誘致を重視し、次世代自動車産業への対応には関心が希薄なところが見受けられた。

このような状況を懸念し、筆者らは次世代自動車産業への地域産業での対応を検討する必要があるのではないかという問題意識を持ち、次世代自動車産業で必要とされる新しい要素技術、それを具現化するために必要なインフラ、社会システムの3つの視点で、2009年度にこの調査研究テーマに取り組んだ*14

調査研究結果より、EV化により不要になる部品としては、エンジン部品、エンジン制御装置等の電装・電子部品、トランスミッション等の駆動・伝達・操舵(そうだ)装置部品等が想定される。従来型のスペックでガソリン乗用車の部品点数を3万点とみると、EVの部品点数は1万9,000点と推定され、EVで新たに創出される部品市場としては、電動コンポーネントとして、バッテリー、モーター、インバータ等で、市場としてはリチウムイオン電池等の二次電池市場と見受けられた。EV対応インフラの状況やITS等の社会システムについても検討し、次世代自動車産業への都道府県での取り組み状況についてアンケート調査を行い、各地域での取り組みについては地域の産学官へヒアリング調査を実施した。

各地域での特徴的な取り組みは次項で述べる。調査結果を踏まえ、次世代自動車産業に変革した際に地域産業集積でいかに対応するか、図表1のシナリオの提案を試みた。

図表1

図表1 シナリオの提案*14

(2) 次世代自動車産業への地域での取り組み

次世代自動車産業への地域における取り組みは、昨年度実施の調査研究や最近の状況等*15から、次のようなカテゴライズが考えられる。

[1]経済産業局提示の方向性を地方公共団体が具現化

中国経済産業局では自動車クラスターの政策フレームを活用し、NOVA調査等を通し、今後の自動車において、「軽量化」と「カーエレクトロニクス化」が重要になるとの示唆を強調した*13。それを受けての広島、岡山での取り組みを紹介する。

広島県では、「ひろしまカーエレクトロニクス戦略」を立案し、地元立地のマツダのOBを中心に、軽量化やエレクトロニクス化の分科会や人材育成を実施している*16

また、マツダのOBが教授として地元立地の大学へ赴任し、人材育成や地元企業との共同研究に取り組んでいる。近畿大学工学部では、次世代基盤技術研究所自動車技術研究センターでカーエレクトロニクス技術での安全・環境・利便性等を研究するとともに、平成21年度文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「地域連携による次世代自動車技術の研究」*17に採択され、地域企業への還元を目途に5年間の研究を推進している。広島工業大学では自動車研究センターを開設し、これからのクルマづくりをめざし、企業が求める技術者の育成に取り組んでいる*18

i-MiEVの生産工場である三菱自動車工業水島製作所が立地する岡山県では、ミクロものづくり岡山ブランド戦略を展開しながら、三菱自動車工業のEVに関するニーズを聴く岡山次世代自動車関連技術研究会を開催し、SIM-Drive(シムドライブ;代表取締役社長 慶應義塾大学 清水浩教授)*19の大量生産可能なEVの試作車共同開発へチーム岡山として参加している*20

2010年4月から、関東経済産業局では、管内の次世代自動車に係る普及促進・普及啓発および産業振興を促すため、「次世代自動車に係る自治体連絡会議」を開催している。次世代自動車を巡る先進動向、自治体における取り組み事例などについて情報共有を図っている。

[2]地方公共団体における取り組み

2009年夏頃までは、地方公共団体における次世代自動車産業への対応にかなり温度差が見受けられた。次世代自動車産業の急速な発展、経済産業省の「次世代自動車戦略2010」の公表、経済産業局から関連する調査研究報告書等が発表されたこと等が影響してか、地方公共団体での次世代自動車産業への新しい取り組みが見受けられるようになっている。

神奈川県では既に2006年に産学公連携による「かながわ電気自動車普及推進協議会」を設置し、推進方策を立案し、知事主導で2014年度までに県内にEV3,000台を普及させる目標である*21

山形県では地元企業等を対象に、2010年8月から「山形県次世代自動車研究会」*22をはじめ、全8回の講演会や意見交換が行われている。

さいたま市では、産学官連携による持続可能な低炭素社会の実現を目指して、EVネットワーク「E-KIZUNA Project」*23を始めている。

ほかにも、様々な地方公共団体における取り組みが始まっている。

[3]ミニカー開発&普及の取り組み

群馬大学次世代EV研究会では、元富士重工業の研究者らが超小型EV「Mag-E1」を製作。試作2号機「μ-TT2」も開発し、地元中小企業等が研究会に参加し、試乗等している*24

NPO法人浜松スモーレストヴィークルシステムプロジェクトは、地元の中小企業で製造できる超小型電気自動車を開発し、普及促進*25を目途としており、元自動車メーカー出身の大学教員が理事長に就任している。他地域においてもミニカー開発等、様々な取り組みが行われている。

まとめ

ガソリン自動車産業から次世代自動車産業へ展開していることは明らかであるが、次世代自動車産業への地域産業での対応は、ガソリン車と比してメリットやデメリットを把握した上での検討が必要である。次世代自動車は環境配慮型で、新たに必要となる部品や部材、充電インフラ等への参入可能性がある一方で、航続距離、高価な電池、充電インフラの不足、充電時間の長さ等のデメリット、さらには、軽量化や改造等により安全性の問題があり、規制の障壁等が介在する。また、経営資源に限りのある地域中小企業の次世代自動車産業への参入には、産学官連携での共同開発等が必要と考えられ、実際に産学官連携が様々に実施されている。

発展著しく、変化が急速な次世代自動車産業についてウオッチングを続け、対応を検討していくことが、地域産業振興に重要と考えられる。

*1
経済産業省.次世代自動車戦略研究会(第1回)資料5.2009-11-05.

*2
経済産業省.次世代自動車戦略研究会.次世代自動車戦略2010.2010-4.

*3
http://www.jama.or.jp

*4
http://www.jada.or.jp/contents/data/ranking/index.php

*5
http://www.ev-life.com/

*6
http://www.fhi.co.jp/news/09_04_06/09_06_04.html

*7
http://ev.nissan.co.jp/

*8
http://www2.toyota.co.jp/futurelab/phv/index.html

*9
http://www2.toyota.co.jp/jp/news/10/05/nt10_0511.html

*10
http://www.zerosports.co.jp/index.php

*11
http://www.mitsuoka-motor.com/news/2010/0159_20100422.pdf

*12
http://www.takeoka-m.co.jp/

*13
http://www.showa-aircraft.co.jp/products/EV/kyuuden.html

*14
財団法人日本立地センター.次世代に変革が予想される自動車産業に必要とされる新技術を提供する地域産業集積の可能性に関する調査研究報告書.2010.(2009 年度財団法人JKA の機械工業振興事業補助金の交付を受け、財団法人機械システム振興協会からの委託事業である)
http://www.jilc.or.jp/

*15
林聖子.次世代自動車産業への地域産業での対応方策.産業立地.Vol.49, No.4,2010, p.16-23.

*16
岩城富士大.次世代自動車産業へ向けたカーエレクトロニクス化の推進と人材育成.産業立地.Vol.49, No.4,2010, p.35-44.

*17
http://kuring.hiro.kindai.ac.jp/news/senryaku01.html

*18
http://www.it-hiroshima.ac.jp/research/project/carresearch.html

*19
http://www.sim-drive.com/index.html

*20
明石徹也.型電気自動車開発プロジェクトへの参加と自動車メーカーニーズを踏まえた次世代自動車産業振興への取組み.産業立地.Vol.49,No.4, 2010, p.29-34.

*21
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/taikisuisitu/car/04ev.html

*22
http://www.pref.yamagata.jp/business/industry/
6110002jisedai.html

*23
http://www.city.saitama.jp/www/genre/0000000000000/
1282554368974/index.html

*24
http://www.ccr.gunma-u.ac.jp/EV/

*25
http://www.hsvp.info/