2010年11月号
特集1  - 発進 次世代自動車
次世代自動車産業 中国地域の取り組み
~カーエレクトロニクス化の推進と人材育成~
顔写真

岩城 富士大 Profile
(いわき・ふじお)

公益財団法人ひろしま産業振興機構
カーエレクトロニクス推進センター長


全国各地で次世代自動車に的を絞った地域産業振興プロジェクトが進められている。広島県のカーエレクトロニクス戦略もその1つ。企業の研究開発を支援したり、人材育成を行っている。

はじめに

自動車産業は今、国内若年層への販売減少、パワートレインの電動化、新興国需要取り込みへのシフトなど、100年に1度と言われるパラダイムシフトの渦中にある。こうした厳しい状況の中、中国地域では現在、次世代自動車産業へ向けたカーエレクトロニクス化の推進と人材育成に注力している。地域にとって最初のパラダイムシフトともいえるモジュール化を産学官の連携で乗り切った体験を生かして、エレクトロニクス化に取り組んでいる。

広島県の戦略

広島県は、中国経済産業局が平成18~20年度に実施した地域活性化推進調査(NOVA調査、3年間)の調査結果から、次世代自動車におけるカーエレクトロニクス化が地域に与えるインパクトが非常に大きく、緊急で対応が必要との戦略提言を受けて、平成20年5月に広島県カーエレクトロニクス推進会議を開設した。

推進会議では、NOVA調査の提案をベースにして広島県が策定した地域カーエレクトロニクス戦略案への意見を有識者に求め、審議を行って同年6月、「ひろしまカーエレクトロニクス戦略」として策定した。

この戦略に従い広島県では同年7月、地域のカーエレクトロニクス推進機関として、カーエレクトロニクス推進センターを財団法人ひろしま産業振興機構(平成22年より公益財団法人)に設立した。

カーエレクトロニクス推進センターについて
図1

図1 カーエレクトロニクス推進センター

カーエレクトロニクス推進センターは大きく分けて2つの機能を持っている。カーエレクトロニクスに絡む地域の研究開発を支援していく技術開発支援事業と、モデルベース開発等の人材育成事業を推進していくことの2点である。

表1 ひろしまカーエレクトロニクス戦略の目標

短期的目標(3年後)
研究開発プロジェクト 6件/年
人材育成プロジェクト 30人/年
中期的目標(5年後)
大規模な競争的資金活用による産学官研究開発プロジェクト継続的に年1件
長期目標(10年後)
自立的なカーエレクトロニクス・クラスターの形成
(2008年6月広島県策定)

同センターでは常勤3人のコーディネータにより地域の自動車研究会である戦略的産業活力活性化研究会(戦略研)を運営し、研究テーマの設定、優先度付けを行う。その上で研究開発チームを組成して、広島県や広島市など地域行政や国の委託研究等を活用し、研究開発を行っている。人材育成には国の立地促進法を活用し、常勤コーディネータ1名を配置して活動を行っている(図1)。設立にあたり、カーエレクトロニクス推進センターに対して広島県からの目標提示は表1の通り。

カーエレクトロニクス推進センターの事業内容
1. 戦略的産業活力活性化研究会(戦略研)の運営

次世代自動車による地域への影響の大きさを考慮して、平成18年3月、地域の産学官が結集して戦略的産業活力活性化研究会が発足した。地域部品サプライヤー、工業系大学のほか、中国経済産業局、広島県、広島市といった行政まで網羅した研究会で、現在125団体が参加している。研究会の傘下に、カーエレクトロニクス分科会、軽量化分科会、リサイクル分科会を持ち、次世代自動車の将来動向や技術の解説など情報発信を主として活動している。センターは研究会や分科会の事務局を担当している。

2. 自動車メーカー、大学、公設試とのニーズ・シーズ発信会の運営

地域における研究テーマは、上述の戦略研における研究会活動から抽出されるものと、地域自動車メーカーから発信されるニーズ、あるいはこのニーズを受けて、大学や公設試験研究機関(公設試)からのシーズ発信を受けた形で抽出されるものとがある。平成22年度から戦略研活動と連動した形で定期的にニーズ・シーズ発信会を開催し、ユーザたる川下企業からのビジネスに結び付く形で研究テーマを設定する方式とした。中国経済産業局との共催で、戦略研と同様にセンターが事務局を担当している。

3. エレクトロニクス研究会-WSの運営-

戦略研、あるいはニーズ・シーズ発信会を通じて抽出された研究テーマは、それだけではまだ具体的な活動への形が見えない。センターでは研究チームの組成に向けて、ワークショップ(WS)を主宰して、特許調査やベンチマーク活動を行い、開発範囲の確定や有識者への協力要請などでサポートを実施している。

4. ベンチマーキングセンターおよびVEセンターの運営

地域の自動車部品開発支援を強化するため、センターに付属して、平成21年7月に優れた自動車の比較分析を行うベンチマーキングセンターを設立、同年9月には地域ものづくり企業に自動車で培った原価低減や高付加価値化、機能性向上を通じて商品価値向上を支援するVEセンターを併設して、カーエレクトロニクスを重点に自動車クラスターの高度化に向け活動している。

5. ひろしま医工連携・先進医療イノベーション拠点との連携

医学と工学の連携により、脳波や筋電などを活用して、ものづくりの高度化を目指したひろしま医工連携・先進医療イノベーション拠点(人間医工学自動車研究センター)が広島大学霞キャンパスに2010年度末設立される。センターはこのイノベーション拠点と密接に連携し地域サプライヤーの技術力向上の拠点として活用していく。

終わりに

われわれは、次世代自動車によるエレクトロニクス化や電動化のパラダイムシフトが顕著になるタイミングを、欧州でCO2排出量規制95g/kmの実施が予定されている2020年に設定して活動を加速している。

かつてのモジュール化のようなパラダイムシフトにおいて、将来を見据えた開発リスクを地方行政が分担することは、大きな効果を生むことが証明されている。しかし、その際に留意すべきは支援する姿勢であり、薄く広くというよりも、優れた企業群を育成するために集中的に支援し、これを頂点として全体を底上げするという姿勢が効果的である。自動車産業はグローバル競争の渦中にあると同時に、地場産業として、雇用を含め地域に大きな影響を与える存在である。エレクトロニクス化への遅れを取り戻すために地域の英知を結集し、活動を加速していく所存である。